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壱:集会
壱の七:集会/天の声
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だが七審はそう言う物じゃない。
〝七審〟またの名を〝セブン・カウンシル〟と言う。
東京湾の洋上のスラム街である【東京アバディーン】にて活動する6つの組織がある。
それらの組織が奇跡的に交渉のテーブルに付いた。振興のサイバーマフィア〝サイレント・デルタ〟の仲介による物だった。利害関係の調整と、トラブルの回避を目的としての意見調整のシステムの必要性を、お互いが認めあった結果だった。
洋上スラム・東京アバディーンにある高層ビル・ゴールデンセントラル200の中に専用の集会ルームがある。そこで実に多彩な組織が集まっては日夜話し合いが行われている。
中華系黒社会の流れをくむ【翁龍】
正統派ロシアンマフィア【ゼムリ・ブラトヤ】
プリズンマフィアとの繋がりも噂される黒人マフィア【ブラック・ブラッド】
中南米マフィアの急先鋒【ファミリア・デラ・サングレ】
在日華僑系の相互互助結社【新華幇】
そして、俺たち【広域暴力団・緋色会】
これら多様な組織の仲介役として動き交渉の場をまとめ上げているのが、振興のサイバーマフィア【サイレント・デルタ】
確かに、そこから様々な利益が生み出されている。
だが、それはすべて利害の全く異なる異人種間交渉を円滑に調整するための〝アメとムチ〟として重要だからこそ必要な物なのだ。
当然、自分が利益をもらうだけでなく、こちらから相手に利益を吐き出す事も必要になる。実際、天龍のオヤジも七審での活動を無難に進めるために相当な出費を行っているのだ。それは七審と天龍のオヤジの事情を知っている者ならば誰でもわかっている事だ。
だがこの強欲オヤジは違う。
自分の利益は絶対吐き出さない。他人の利益は自分のものにしたい。欲しいものは手に入れる。他人が持っているものは奪い取る。手放さなければ陥れる。その結果誰が不幸になろうが、誰が命を落とそうが、誰が破滅しようが、一切知ったことではないのだ。
そういう男なのだ。この強欲な榊原と言う男は。
天龍のオヤジがそう簡単にハイと言えないのをわかった上で、この場にて問題提起していた。嫌でもハイと言わざるを得ないだろうと踏んで――
オヤジの身内なら、どれほど腸が煮えるだろうか? おそらくこの場でなければ拳銃を抜き放って撃ち殺したかったに違いない。おそらく俺ですらも。
入場案内役を拉致ったか始末したかしたのは間違いなくこの榊原かその配下だろう。だが、明確な証拠がない。疑惑だけではシラを切られて余計に混迷するだけだ。
誰もが答えに窮する中で榊原はダメ押しする。
「のう? 天龍? 答えんかい」
榊原のダミ声が響く。天龍が腹をくくって声を発しようと姿勢を正そうとした――
その時だ。
「ちょっとまてや」
――割り込んできた声がある。それは齢を重ねたいぶし銀のような真の実力者の声だ。
ややかすれ気味、それでいて程よく低音の響き渡る声。どんな喧騒の中でも腹の奥にズドンとくる、そんな声だった。
集会会場の隅々で沸き起こっていたざわめきが一斉に静まる。そして、俺も、天龍のオヤジも、氷室のオジキも、石黒の総長も、もちろん、榊原の阿呆も――
その場にいた全員が固唾を飲んで声の主を見つめていた。
総会が行われているレセプションルームの扉の一つ。それが静かに開き、二つの人影が入ってくるところだった。
一つは中背、白髪で丁寧に櫛が入れられ整えられている。服装は紋付羽織袴。着物の色は鉄紺色で、わずかに緑がかった深い青色。昔から和服に用いられている、日本人なら馴染みの深い色だった。足元には白足袋、そして丁寧な造りの雪駄。手には杖が握られているが、それに頼って歩いてるような素振りは全くない。
杖がリズミカルに、カツン、カツンと音を立てる。
その歩みは矍鑠としており、そこに老いは微塵も感じられなかった。
だがその風貌は明らかに長い年月をくぐり抜けてきた〝漢〟のものだ。深く皺が刻まれた顔の中に異様に鋭い視線がたたえられており、その人物が生きていた苛烈な日々を雄弁に物語っていた。
〝七審〟またの名を〝セブン・カウンシル〟と言う。
東京湾の洋上のスラム街である【東京アバディーン】にて活動する6つの組織がある。
それらの組織が奇跡的に交渉のテーブルに付いた。振興のサイバーマフィア〝サイレント・デルタ〟の仲介による物だった。利害関係の調整と、トラブルの回避を目的としての意見調整のシステムの必要性を、お互いが認めあった結果だった。
洋上スラム・東京アバディーンにある高層ビル・ゴールデンセントラル200の中に専用の集会ルームがある。そこで実に多彩な組織が集まっては日夜話し合いが行われている。
中華系黒社会の流れをくむ【翁龍】
正統派ロシアンマフィア【ゼムリ・ブラトヤ】
プリズンマフィアとの繋がりも噂される黒人マフィア【ブラック・ブラッド】
中南米マフィアの急先鋒【ファミリア・デラ・サングレ】
在日華僑系の相互互助結社【新華幇】
そして、俺たち【広域暴力団・緋色会】
これら多様な組織の仲介役として動き交渉の場をまとめ上げているのが、振興のサイバーマフィア【サイレント・デルタ】
確かに、そこから様々な利益が生み出されている。
だが、それはすべて利害の全く異なる異人種間交渉を円滑に調整するための〝アメとムチ〟として重要だからこそ必要な物なのだ。
当然、自分が利益をもらうだけでなく、こちらから相手に利益を吐き出す事も必要になる。実際、天龍のオヤジも七審での活動を無難に進めるために相当な出費を行っているのだ。それは七審と天龍のオヤジの事情を知っている者ならば誰でもわかっている事だ。
だがこの強欲オヤジは違う。
自分の利益は絶対吐き出さない。他人の利益は自分のものにしたい。欲しいものは手に入れる。他人が持っているものは奪い取る。手放さなければ陥れる。その結果誰が不幸になろうが、誰が命を落とそうが、誰が破滅しようが、一切知ったことではないのだ。
そういう男なのだ。この強欲な榊原と言う男は。
天龍のオヤジがそう簡単にハイと言えないのをわかった上で、この場にて問題提起していた。嫌でもハイと言わざるを得ないだろうと踏んで――
オヤジの身内なら、どれほど腸が煮えるだろうか? おそらくこの場でなければ拳銃を抜き放って撃ち殺したかったに違いない。おそらく俺ですらも。
入場案内役を拉致ったか始末したかしたのは間違いなくこの榊原かその配下だろう。だが、明確な証拠がない。疑惑だけではシラを切られて余計に混迷するだけだ。
誰もが答えに窮する中で榊原はダメ押しする。
「のう? 天龍? 答えんかい」
榊原のダミ声が響く。天龍が腹をくくって声を発しようと姿勢を正そうとした――
その時だ。
「ちょっとまてや」
――割り込んできた声がある。それは齢を重ねたいぶし銀のような真の実力者の声だ。
ややかすれ気味、それでいて程よく低音の響き渡る声。どんな喧騒の中でも腹の奥にズドンとくる、そんな声だった。
集会会場の隅々で沸き起こっていたざわめきが一斉に静まる。そして、俺も、天龍のオヤジも、氷室のオジキも、石黒の総長も、もちろん、榊原の阿呆も――
その場にいた全員が固唾を飲んで声の主を見つめていた。
総会が行われているレセプションルームの扉の一つ。それが静かに開き、二つの人影が入ってくるところだった。
一つは中背、白髪で丁寧に櫛が入れられ整えられている。服装は紋付羽織袴。着物の色は鉄紺色で、わずかに緑がかった深い青色。昔から和服に用いられている、日本人なら馴染みの深い色だった。足元には白足袋、そして丁寧な造りの雪駄。手には杖が握られているが、それに頼って歩いてるような素振りは全くない。
杖がリズミカルに、カツン、カツンと音を立てる。
その歩みは矍鑠としており、そこに老いは微塵も感じられなかった。
だがその風貌は明らかに長い年月をくぐり抜けてきた〝漢〟のものだ。深く皺が刻まれた顔の中に異様に鋭い視線がたたえられており、その人物が生きていた苛烈な日々を雄弁に物語っていた。
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