ブラザーフッド:インテリヤクザと三下ヤクザの洒落にならない話 【全話執筆完了!毎日更新中!】

美風慶伍

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壱:集会

壱の六:集会/強欲の榊原

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 それは力の縮図、権力の曼荼羅。腹の探り合いと権謀術数が行き交う万魔殿だ。
 総会は粛々と進んだ。
 総長の挨拶、役員の挨拶、形式的な祝辞の朗読も行われた。さらに肩書きに対する人事考査の報告が行われ、主だった部分での処分状況が報告された。
 その他連絡事項が交わされ、定例総会の名目上の式次第は一通り終わりを迎える。
 最後の挨拶を終えれば、後は粛々と会場から退散を願うのみの――はずだった。

「ちょっと待ってください」

 挙手とともに野太い声がかけられる。
 視線が一斉に集まりその声の主を確認すれば、挙手していたのはあの――

「榊原?!」

――であった。

 榊原は挙手した手を下ろしながら慇懃に言い始めた。

「今回の持ち回りの運営担当さんに言いたいことがありましてね」

 持ち回り担当――、今回の総会運営担当である、天龍のオヤジのことだ。俺はやつが何かしでかしてくる。そう読んでいたのだが不安は的中したようだ。
 するとその時、耳にかけていたイヤホンに声がした。連絡が途絶えた誘導担当のことを探しに行かせた木原からである。

『報告』

 俺は咄嗟に通信装置を操作して音声を天龍のオヤジにも流した。この状況下ではどんな情報も伝えておいた方がいいだろう。

『Bルートの場外入場誘導担当の姿が全員見当たりません』

 背筋の凍る一言。嫌な予感と、バラバラだったパズルピースが徐々に組み上がり始める。

『周辺をくまなく探し回りましたがどこにも見つかりません』
  
 場外誘導担当の理由なき不在、それは総会の運営を任されているものの失点となる。たとえ、不可抗力であったとしてもだ。

『念のため状況写真を撮りました』
『よし大至急戻れ』
『了解』

 木原からの連絡はそれで途絶える。意識の矛先を変えれば、目の前ではあの強欲の榊原が不満をねちねちと口にしているところだった。

「指定された方法で入場しようとしたのですが、場外入場誘導担当の姿が見当たりませんでしてね。会場周辺はやむなくうろうろしてついうっかり正面入り口に来たのですが。またそこで揉めてしまいましてね」
 
 榊原の言葉に司会進行役が注意する。

「発言は簡潔に願います」

 全ての人物の視線が集中する中で、榊原は不満げに鼻息を飛ばす。

「まぁその――入場誘導のミスです。手間かけさせられた分、責任とってもらいましょうか」

 責任――つまり、天龍のオヤジに詰め腹を切れと言っているのだ。天竜のオヤジの表情は固まったまま変わらない。冷静さを装っているがおそらくはらわたが煮えくり返る思いだろう。だが、この強欲な男はさらなる仕掛けを用意していたのだ。

「とはいえ私も鬼じゃありません」

 この言葉に石黒総長が声を発した。

「どういうこっちゃ? 榊原」

 総長が反応返したので満足げにニヤつきながら言葉を返した。

「〝七審〟――総長もご存知でしょう? この天龍の若造が緋色会の代表ヅラして出入りしている場所のことを」

 そこで一呼吸置くとやつは要求の核心を口にした。

「七審の代表役の件、あっしに任してくれませんかね? 大体前々から疑問に来とったんです。どんなに優秀や言うても肩書きはまだ若頭です。その上に顧問や相談役や総長側近などなんぼでもおります。代表なら代表らしくそれなりの肩書きの者が行くべきなんとちゃいますか?」

 この言葉に会場がざわついていた。すなわち、榊原の言葉に内心同意するものが少なからず居るということだ。
 天龍のオヤジが肩をわなつかせて怒りをこらえている。
 氷室のオジキが珍しくその表情に苛立ちと怒りをにじませている。
 そして俺はある事実に気づいた。

――場外入場誘導役を消したのはコイツか!?――

 俺の視線の先にはあの強欲の榊原がいる。そうだ、こいつは自分の欲望を通すために〝身内〟に手をかけたのだ。証拠はない。だが、そうだと仮定すればなぜあいつ自身が会場の正面に姿を現したのか。なぜ小競り合いを起こし早々に立ち去ったのか。なぜ意図的に遅刻したのか。全てが噛み合うのだ。

――始まった、強欲野郎のおねだりが――

 奴の常套手段だ、相手のミスや失点をでっち上げ処分取り消しを匂わせながら別な要求をねじり込むのだ。
 ざわつきは大きくなる。沈黙したまま解決する出来事じゃない。だがさすがの天龍のオヤジも即座に〝はい〟とも〝いいえ〟とも言える案件じゃあない。
 視線を石黒総長の方に向ければ、総長も言葉に窮しているのがよく分かる。あの〝七審〟という組織はそうそう簡単に誰にでも委ねられる組織ではないのだ。
 だが、この榊原という男はそんな道理など聞く耳はないだろう。

――他組織との取引との場、すなわち利権の場――

 そう見えているに違いないのだ。そして――
 
――俺を七審の担当にしろ――

――と言い出すに違いないのだ。
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