夏花

八花月

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21.鵺

010

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「このっ……!」

「よう。なんか楽しそうじゃん」

 痣ができそうなほど強く握り、乙女は薬子をついに引きずり出した。

「沖津鏡!」

 乙女の身体はきれいにくの字に曲がり、後方に吹っ飛んだ。が、乙女は根性で手を離さなかったため、薬子は一緒に飛ばされてしまう。軌道が低かったため、二人は近くの木にブチ当たって止まった。

 乙女の身体がクッションになったせいで、そのまま激突するよりはダメージは少なかったが、それでも薬子はズルズルとへたりこんで地べたに座ってしまっている。

 骨の軋むような咳をし、薬子はえずいて血の混じった胃液を地面に吐き出した。

「おそろいだな」 

 乙女は薬子の前頭部を五本の指でぐっと掴む。

「待って」

 力を込めようとした矢先、薬子が呟いた。

「降参よ、降参。あなたの力でこのままギュッとしたら死んじゃうでしょ」

「お前、あたしら殺す気だったろ」
「……まあね」

 暫し、二人の間に沈黙が降りた。

「ま、いっか」

 乙女は頭部を掴んでいた指をじんわり引きはがした。

「話すんじゃなかったの?」
「ああ?」
「話しに来たんだ、ってしつこく言ってたじゃない。あなた」 
「あー……」

 乙女は、嘆息しながら頭を掻く。

「お前もう、古墳ブッ壊しちまったしなあ……今更話すようなことも……」

 薬子は、耐え切れなくなったらしく、プッと噴き出した。

「……私だって、こっぴどくやられたわ。〝話し合おう〟なんてしつこく言ってたから騙された」

「ああ……ありゃあお前その……じゃれたようなもんだろ」

 どちらからともなく、二人は声を上げて笑い始める。

「ねぇ、なにか変わった?」
「ん?」
「私と戦って、勝って、なにかが変わった? あなたの中で?」

 何を聞いているのかよくわからなかったが、乙女は一応真面目に考えてみた。

「んー…別に。なんも変わんない」
「そう」

 吐息とともに呟くと、薬子は寝そべったまま顎を少し上げ、星空に視線を移す。

「あぅっ、うう……」

 薬子は、手を突っ張り身体を起こそうとして、失敗した。苦悶の表情を浮かべている。

「どうしたんだよ?」

「術を解かなきゃ……。あの骸、いくらでも黄泉返るから……」

「あ、ああ、あのガイコツな。無理すんなよ。あたしがやってやろうか? やり方教えてくれよ」 

「あなたじゃ無理よ……」

「お、おまかせください!」

 乙女の背後から、不意に上擦った雅樂の声が聞こえてきた。

「わたくし、おそらくそれが可能です! 上古様がわたくしをここへやったのは、そのためかと思います」

「雅樂ちゃんいたんだ」

「わかってたなら、もっと早く出てきてもいいんじゃない?」

 薬子が言うと、雅樂は僅かに目を伏せた。

「それが……お二人がとてもいい雰囲気だったので、つい声をかけるのがためらわれ……」

「あなたも妙な人ね」

「で、では、わたくし、行って参ります!」

 薬子の、やや呆れ気味のため息を背に受け雅樂はさっきまで薬子のいた丘に登っていく。
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