夏花

八花月

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8.リフォーム作業

002

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「そういえば山名やまな雅樂うたさん、まだ来ないね。あたしの係なんでしょ?」

「あ、ああ、それは……」

 乙女の市役所内での上長は〝空き家リノベーション係〟主任の山名雅樂という人物であった。歳若い女性であるということで、乙女は気になっていたのだが、未だに直接会えていない。

「一回くらい会っときたいんだけどなあ……。あたし嫌われてんのかな?お役所ってこんな感じなの?」

「いえいえ! ちょっと色々特殊な事情があるみたいで……。覚悟を決めたら顔を見せに来るって言ってましたよ」

「覚悟?」

 自分に会うのに何の覚悟がいるのか乙女は疑問に思ったが、萩森に聞いてもしょうがなさそうなので止めておいた。

「ねぇ、聞きたいことあんだけどいい?」

 乙女は水に浸けたモップを絞りながら口を開く。

「ええ、なんなりと」

「ここって幽霊屋敷なの?」

 萩森は可哀そうなほどうろたえ〝なっなななななっ〟と口走った。

「な、何かありましたか!?」

「うん、まあ。ちょっと。霊現象? 的なやつ」

 乙女は、かいつまんで自分の遭遇した怪異について萩森に説明する。

「やっぱりやめましょう! こんなとこに寝泊まりするの! 昼間だけ来ることにしましょう!」

「なんで?」
「なんで、って! 何かあったら大変じゃないですか!」

「あたしがなんか書き込んでネットで炎上するかもしれないし?」

「違いますよ! 武音さんの身にもしもの事があったらいけないからです! 心配してるんです!」

「へぇー、そうなんだ」 

 乙女は何の気なしに軽く言ったのだが、萩森は言葉に詰まってしまった。

「……あの、怒ってらっしゃいますよね」

「えっ? 何が?」

「その……ここが幽霊屋敷だって僕が黙ってた事を」

「あ、やっぱ知ってたんだ」

「はい……地元では有名なので……」

「ここで誰か死んだりしたわけ? 殺人事件があったとか?」

「ち、違いますよ! そんなことはないです!」

 再び萩森は取り乱した。 

「そういう事実は誓ってありません!」

「調べたらすぐわかんだよ?」

「ないですってば~!」

 萩森は本当に困った様子で話し始める。
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