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6.待宵屋敷へ
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翌日の朝、寝袋から起き出した乙女は、嬉しさのあまり、思わず口笛を吹いてしまった。
窓にペタペタと手の跡がついている。乙女が自分でつけたものではなさそうで、それは小さな子供の手のもののように見えた。
これだけ見ればただの悪戯かとも思うが、跡は窓の内側にあるのだ。建物の戸締りはきちんとしているはずである。窓にも、この部屋にもちゃんと鍵はかかっていた。
跡は複数ある。左右の違いはあれど、全て同一人物のもののように見えた。
『ふむ』
乙女は注意深く床を見てみる。自分と萩森のもの以外足跡はついていない。うっすら埃が積っているのでよくわかった。
『幽霊なら足はない……のかな?』
怪談じみた想像も、乙女にとっては楽しいレクリエーションだった。
「ヘヘっ。しばらく退屈せずにすみそうだ」
昨夜少し罹患しかかったホームシックも一気に吹き飛んでしまった。
「……んっ?」
窓に薄く映った自分の姿に、乙女は違和感を抱く。首筋に何かある。赤いぽっちのようなものだ。手をやってみても取れない。すぐにそれは小さい傷跡だと乙女は気付いた。
「でかいヤブ蚊がいたからなあ……。蚊取り線香がいるな」
乙女は両掌を組み、身体の前で小さく伸びをした。
窓にペタペタと手の跡がついている。乙女が自分でつけたものではなさそうで、それは小さな子供の手のもののように見えた。
これだけ見ればただの悪戯かとも思うが、跡は窓の内側にあるのだ。建物の戸締りはきちんとしているはずである。窓にも、この部屋にもちゃんと鍵はかかっていた。
跡は複数ある。左右の違いはあれど、全て同一人物のもののように見えた。
『ふむ』
乙女は注意深く床を見てみる。自分と萩森のもの以外足跡はついていない。うっすら埃が積っているのでよくわかった。
『幽霊なら足はない……のかな?』
怪談じみた想像も、乙女にとっては楽しいレクリエーションだった。
「ヘヘっ。しばらく退屈せずにすみそうだ」
昨夜少し罹患しかかったホームシックも一気に吹き飛んでしまった。
「……んっ?」
窓に薄く映った自分の姿に、乙女は違和感を抱く。首筋に何かある。赤いぽっちのようなものだ。手をやってみても取れない。すぐにそれは小さい傷跡だと乙女は気付いた。
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