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3.夜の出会い
9.悪役令嬢と性悪ヒロインはゾッとする
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私はレインに異性転換薬の改良をお願いし、新校舎へ戻るため中庭を歩いていた。
「あ、キーナ様ぁー!」
う…、この声は…。
後ろから声を掛けられたが嫌な予感しかしない。でも無視する訳にもいかないわ。
私は作り笑顔で振り向いた。
「ごきげんよう、メアリー。大きな声で後ろから声をかけるなんて失礼よ。前も注意したでしょ」
「あ、ごめんなさいっ。私ったら」
メアリーはテへっと笑って小さな舌を出した。私はその仕草に絶句した。
「…わー、可愛らしい仕草ですねぇ」
ジルは死んだ目と棒読みセリフで微笑んだ。
確かに可愛らしい仕草だけどマナーとしては最悪だわ。ツッコミどころが多すぎて頭が痛くなる。
「ジル君ったら、可愛いだなんてやめてください!私はキーナ様みたいな大人でかっこいい令嬢を目指しているんだから!」
ジル君!?
ジル、あなた、いつの間に君付けで呼ばれる仲になったのよ。
私がジルに目で訴えると、ジルも「知りませんよ。キーナ様の指導が足りないんじゃないですか?」と目で訴えてきた。
「メアリー、ここは普通の学園じゃないのよ?上級貴族が通う歴史ある学園よ。あなたの天真爛漫な性格は可愛らしいとは思うけど、いい加減最低限のマナーを身に付けなさい。注意を受けたら令嬢らしく謝るべきだし、人の従者に対して気安く名前で呼ぶべきじゃないわ」
私は淡々とメアリーの言動について指摘した。
メアリーは私の話を聞いているのか聞いていないのか、下を向いて唇を尖らせて呟いた。
「…貴族とか従者とかどうでもいいじゃない。バカみたい」
「え?」
「貴族とか従者とかこだわるなんてバカみたいって言ったんです」
メアリーは顔を上げて私を真っ直ぐ見つめた。
「階級なんて、たまたま生まれた家の話で、本人が偉いわけじゃない。それなのにここの生徒はマナーだ礼儀だって言って市民出身の私を下に見てくる。ジル君だってそう思わない?同じ人間なのに生まれた家のせいで年下のいいなりにならなきゃいけないなんておかしいでしょ?私たちは同じ人間なんだからもっと平等で自由に自分の意見を主張するべきよ。我慢ばっかりの人生なんてつまらないわ!」
めちゃくちゃな事を言い出すメアリーの言葉が、私の心臓に刺さり何も言えなくなった。
そうだ、私はたまたま公爵家に生まれただけの人間。それなのに公爵令嬢だとか、第一王子の婚約者の肩書きにこだわり上辺を繕っている。たかが17歳の娘が年上のジルに命令して、メアリーに令嬢マナーを偉そうに指導?確かにバカみたいね。
何も言い返さない私にメアリーも気まずくなったのか黙って下を向く。
「俺は…思いませんね」
沈黙を破ったのはジルだった。
「え…?」
私とメアリーは同時にジルを見た。
「確かに生まれた場所で人の価値を決めるなんておかしな話ですよ。でもこの国の階級制度を俺が変えられるわけない。だったらこの国でどう生きるか自分で工夫していけばいいだけの話です。
俺にとってハンドリー家の皆さんやキーナ様に仕えるのは中々楽しい人生なんです。
メアリー様も他の生徒の言動に腹が立つなら令嬢としてのマナーを極めてみればいかがでしょうか。それに加えてあなたは数少ない光魔法の使い手でしょう。きっと数年後には多くの上級貴族たちに敬われ、プライドの高い貴族を顎で使う事が出来ますよ。きっと気分良いと思いますよー」
ジルは優しく微笑んだつもりだろうが、私とメアリーはその笑顔にゾッとした。
「あ、キーナ様ぁー!」
う…、この声は…。
後ろから声を掛けられたが嫌な予感しかしない。でも無視する訳にもいかないわ。
私は作り笑顔で振り向いた。
「ごきげんよう、メアリー。大きな声で後ろから声をかけるなんて失礼よ。前も注意したでしょ」
「あ、ごめんなさいっ。私ったら」
メアリーはテへっと笑って小さな舌を出した。私はその仕草に絶句した。
「…わー、可愛らしい仕草ですねぇ」
ジルは死んだ目と棒読みセリフで微笑んだ。
確かに可愛らしい仕草だけどマナーとしては最悪だわ。ツッコミどころが多すぎて頭が痛くなる。
「ジル君ったら、可愛いだなんてやめてください!私はキーナ様みたいな大人でかっこいい令嬢を目指しているんだから!」
ジル君!?
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私がジルに目で訴えると、ジルも「知りませんよ。キーナ様の指導が足りないんじゃないですか?」と目で訴えてきた。
「メアリー、ここは普通の学園じゃないのよ?上級貴族が通う歴史ある学園よ。あなたの天真爛漫な性格は可愛らしいとは思うけど、いい加減最低限のマナーを身に付けなさい。注意を受けたら令嬢らしく謝るべきだし、人の従者に対して気安く名前で呼ぶべきじゃないわ」
私は淡々とメアリーの言動について指摘した。
メアリーは私の話を聞いているのか聞いていないのか、下を向いて唇を尖らせて呟いた。
「…貴族とか従者とかどうでもいいじゃない。バカみたい」
「え?」
「貴族とか従者とかこだわるなんてバカみたいって言ったんです」
メアリーは顔を上げて私を真っ直ぐ見つめた。
「階級なんて、たまたま生まれた家の話で、本人が偉いわけじゃない。それなのにここの生徒はマナーだ礼儀だって言って市民出身の私を下に見てくる。ジル君だってそう思わない?同じ人間なのに生まれた家のせいで年下のいいなりにならなきゃいけないなんておかしいでしょ?私たちは同じ人間なんだからもっと平等で自由に自分の意見を主張するべきよ。我慢ばっかりの人生なんてつまらないわ!」
めちゃくちゃな事を言い出すメアリーの言葉が、私の心臓に刺さり何も言えなくなった。
そうだ、私はたまたま公爵家に生まれただけの人間。それなのに公爵令嬢だとか、第一王子の婚約者の肩書きにこだわり上辺を繕っている。たかが17歳の娘が年上のジルに命令して、メアリーに令嬢マナーを偉そうに指導?確かにバカみたいね。
何も言い返さない私にメアリーも気まずくなったのか黙って下を向く。
「俺は…思いませんね」
沈黙を破ったのはジルだった。
「え…?」
私とメアリーは同時にジルを見た。
「確かに生まれた場所で人の価値を決めるなんておかしな話ですよ。でもこの国の階級制度を俺が変えられるわけない。だったらこの国でどう生きるか自分で工夫していけばいいだけの話です。
俺にとってハンドリー家の皆さんやキーナ様に仕えるのは中々楽しい人生なんです。
メアリー様も他の生徒の言動に腹が立つなら令嬢としてのマナーを極めてみればいかがでしょうか。それに加えてあなたは数少ない光魔法の使い手でしょう。きっと数年後には多くの上級貴族たちに敬われ、プライドの高い貴族を顎で使う事が出来ますよ。きっと気分良いと思いますよー」
ジルは優しく微笑んだつもりだろうが、私とメアリーはその笑顔にゾッとした。
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