16 / 38
1.婚約破棄まであと6ヶ月
16.腹黒王子と生徒会室
しおりを挟む
昼休みを知らせるベルが鳴り、俺は生徒会室に向かった。
普段キーナは他の令嬢たちと情報交換したり図書室で調べ物をしているようで忙しい日々を送っている。そんな彼女を頻繁に呼びつけるのは気が引ける為、よほどの用事がない限り呼ぶことはない。最後に呼んだのはパーティーの打ち合わせをした3ヶ月前だ。
「アレン様。」
後ろから名前を呼ばれた。
顔を見ずとも声の主は誰か分かる。
ー…あー、振り返りたくない。
俺は笑顔で振り返る。
「やあ、メアリー。どうしたんだ?」
「ねぇ、お昼一緒に食べない?お弁当を作ってきたの。」
メアリーは弁当の入った袋を呑気に抱えてにこにこしている。
お前のわがままを叶えるためにこれからキーナを説得しに行くんだろ!
俺はいい加減キレそうになった。
それでも表情ひとつ変えずに笑顔を保てる自分の忍耐力は我ながら大したもんだと思った。
「ああ、そうなんだ。悪いけど時間がないんだ。これから生徒会室でキーナに会って君の事を話すんだ。」
「そうなんだ!じゃあ私も同席したい!!」
来るな、邪魔だ。
「はは、君はちゃんと昼食を取らないと。ただでさえ細いんだからちゃんと食べないとダメだよ。あ、ちなみに生徒会室は飲食禁止だから弁当は持ち込めないよ。キーナには俺からちゃんと話すから安心して。」
俺は口早に説明し、その場からさっさと逃げようとした。しかしメアリーは「じゃあご飯を食べ終わったら行くわ!」と笑って俺を見送った。
生徒会室の前まで行くと、すでにキーナが来ていた。廊下の窓から外を眺めている。
メアリーに振り回されている日々に疲れていた俺は、いつもと変わらないキーナの姿になぜかホッとした。
声をかけようと思った時、キーナは寂しそうにポツリと呟いた。
「こんな事なら私から誘えば良かったわ。」
ー…は?
誰を何に誘うんだ?
「誰を誘うんだ?」
「きゃあ!」
驚いたキーナが振り返り俺を見た。
「ア、アレン様。ごきげんよう。」
「驚かせてすまない。ところでなんの話しだ?」
「ああ、えーっと…」
キーナは言いづらそうに目を逸らす。
なんだよ、俺には話せない内容なのか?
キーナは下を向き、話す事を拒否するような態度だった。
彼女のそんな様子を見ていると、俺とキーナの間にはものすごい距離があるように感じてしまう。
俺は婚約破棄なんてするつもりはなかったが、案外キーナが婚約解消を望むかもしれない。
俺は思わずため息をついた。
「話したくないなら話さなくていい。さあ、生徒会室に入ろう。」
俺はキーナの顔が見れず、さっさと生徒会室に入った。
キーナと他愛のない会話をしながらお茶の準備をしていると、キーナは「私、アレン様が淹れてくれる紅茶が世界で1番好きなんですよ。」と微笑んだ。
どうせお世辞だろ?
そう思ってキーナを見ると、嬉しそうにティーポットから出る湯気を眺めていた。
これは…本音か?
表情だけでは分からない。
キーナには本音で話して欲しい。
いっそ、言ってみるか?
本音で話して欲しい。
王子だから、婚約者だから、と自分を取り繕う必要はない、と。
せめて俺の前だけでもありのままのキーナでいて欲しい、と。
俺が言おうと決意した瞬間、「私以外に誰かいらっしゃるんですか?」とキーナが尋ねた。
俺は3つ用意したティーカップに視線を移す。
そうだ、最初にメアリーが来る事を説明するべきだった。
「ああ。本来なら事前に話すべきだったが、急に決まってしまってな。…メアリー・ブライトニーという女子生徒を知っているか?」
「ええ、今年転入してきた特待生ですよね。光魔法の使い手だと聞いております。」
さすがキーナだな。情報が早い。
「やっぱり知っていたか。実は彼女を…」
コンコンコンー…ガチャ。
「こんにちは!」
こちらの返事も待たずにメアリーが入ってきた。
来るのが早すぎるだろだろ!
「いらっしゃい、メアリー。ずいぶん早く着いたんだね。迷わなかったかい?」
こんな事なら生徒会室へ行くなんて言わなければよかった。俺は笑顔で迎えたが、怒りでティーポットを持つ手が震えた。
キーナとメアリーは面識があるようで2人のお喋りが始まり、結局俺はメアリーを同席させたままキーナに指導係の話をお願いした。
最初は笑顔だったキーナも、流石に引き攣った顔をしていたが最終的に了承してくれた。
だが、少し、いや、かなり怒っているようだった。
後で謝ろう…。
普段キーナは他の令嬢たちと情報交換したり図書室で調べ物をしているようで忙しい日々を送っている。そんな彼女を頻繁に呼びつけるのは気が引ける為、よほどの用事がない限り呼ぶことはない。最後に呼んだのはパーティーの打ち合わせをした3ヶ月前だ。
「アレン様。」
後ろから名前を呼ばれた。
顔を見ずとも声の主は誰か分かる。
ー…あー、振り返りたくない。
俺は笑顔で振り返る。
「やあ、メアリー。どうしたんだ?」
「ねぇ、お昼一緒に食べない?お弁当を作ってきたの。」
メアリーは弁当の入った袋を呑気に抱えてにこにこしている。
お前のわがままを叶えるためにこれからキーナを説得しに行くんだろ!
俺はいい加減キレそうになった。
それでも表情ひとつ変えずに笑顔を保てる自分の忍耐力は我ながら大したもんだと思った。
「ああ、そうなんだ。悪いけど時間がないんだ。これから生徒会室でキーナに会って君の事を話すんだ。」
「そうなんだ!じゃあ私も同席したい!!」
来るな、邪魔だ。
「はは、君はちゃんと昼食を取らないと。ただでさえ細いんだからちゃんと食べないとダメだよ。あ、ちなみに生徒会室は飲食禁止だから弁当は持ち込めないよ。キーナには俺からちゃんと話すから安心して。」
俺は口早に説明し、その場からさっさと逃げようとした。しかしメアリーは「じゃあご飯を食べ終わったら行くわ!」と笑って俺を見送った。
生徒会室の前まで行くと、すでにキーナが来ていた。廊下の窓から外を眺めている。
メアリーに振り回されている日々に疲れていた俺は、いつもと変わらないキーナの姿になぜかホッとした。
声をかけようと思った時、キーナは寂しそうにポツリと呟いた。
「こんな事なら私から誘えば良かったわ。」
ー…は?
誰を何に誘うんだ?
「誰を誘うんだ?」
「きゃあ!」
驚いたキーナが振り返り俺を見た。
「ア、アレン様。ごきげんよう。」
「驚かせてすまない。ところでなんの話しだ?」
「ああ、えーっと…」
キーナは言いづらそうに目を逸らす。
なんだよ、俺には話せない内容なのか?
キーナは下を向き、話す事を拒否するような態度だった。
彼女のそんな様子を見ていると、俺とキーナの間にはものすごい距離があるように感じてしまう。
俺は婚約破棄なんてするつもりはなかったが、案外キーナが婚約解消を望むかもしれない。
俺は思わずため息をついた。
「話したくないなら話さなくていい。さあ、生徒会室に入ろう。」
俺はキーナの顔が見れず、さっさと生徒会室に入った。
キーナと他愛のない会話をしながらお茶の準備をしていると、キーナは「私、アレン様が淹れてくれる紅茶が世界で1番好きなんですよ。」と微笑んだ。
どうせお世辞だろ?
そう思ってキーナを見ると、嬉しそうにティーポットから出る湯気を眺めていた。
これは…本音か?
表情だけでは分からない。
キーナには本音で話して欲しい。
いっそ、言ってみるか?
本音で話して欲しい。
王子だから、婚約者だから、と自分を取り繕う必要はない、と。
せめて俺の前だけでもありのままのキーナでいて欲しい、と。
俺が言おうと決意した瞬間、「私以外に誰かいらっしゃるんですか?」とキーナが尋ねた。
俺は3つ用意したティーカップに視線を移す。
そうだ、最初にメアリーが来る事を説明するべきだった。
「ああ。本来なら事前に話すべきだったが、急に決まってしまってな。…メアリー・ブライトニーという女子生徒を知っているか?」
「ええ、今年転入してきた特待生ですよね。光魔法の使い手だと聞いております。」
さすがキーナだな。情報が早い。
「やっぱり知っていたか。実は彼女を…」
コンコンコンー…ガチャ。
「こんにちは!」
こちらの返事も待たずにメアリーが入ってきた。
来るのが早すぎるだろだろ!
「いらっしゃい、メアリー。ずいぶん早く着いたんだね。迷わなかったかい?」
こんな事なら生徒会室へ行くなんて言わなければよかった。俺は笑顔で迎えたが、怒りでティーポットを持つ手が震えた。
キーナとメアリーは面識があるようで2人のお喋りが始まり、結局俺はメアリーを同席させたままキーナに指導係の話をお願いした。
最初は笑顔だったキーナも、流石に引き攣った顔をしていたが最終的に了承してくれた。
だが、少し、いや、かなり怒っているようだった。
後で謝ろう…。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる