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1.婚約破棄まであと6ヶ月
16.腹黒王子と生徒会室
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昼休みを知らせるベルが鳴り、俺は生徒会室に向かった。
普段キーナは他の令嬢たちと情報交換したり図書室で調べ物をしているようで忙しい日々を送っている。そんな彼女を頻繁に呼びつけるのは気が引ける為、よほどの用事がない限り呼ぶことはない。最後に呼んだのはパーティーの打ち合わせをした3ヶ月前だ。
「アレン様。」
後ろから名前を呼ばれた。
顔を見ずとも声の主は誰か分かる。
ー…あー、振り返りたくない。
俺は笑顔で振り返る。
「やあ、メアリー。どうしたんだ?」
「ねぇ、お昼一緒に食べない?お弁当を作ってきたの。」
メアリーは弁当の入った袋を呑気に抱えてにこにこしている。
お前のわがままを叶えるためにこれからキーナを説得しに行くんだろ!
俺はいい加減キレそうになった。
それでも表情ひとつ変えずに笑顔を保てる自分の忍耐力は我ながら大したもんだと思った。
「ああ、そうなんだ。悪いけど時間がないんだ。これから生徒会室でキーナに会って君の事を話すんだ。」
「そうなんだ!じゃあ私も同席したい!!」
来るな、邪魔だ。
「はは、君はちゃんと昼食を取らないと。ただでさえ細いんだからちゃんと食べないとダメだよ。あ、ちなみに生徒会室は飲食禁止だから弁当は持ち込めないよ。キーナには俺からちゃんと話すから安心して。」
俺は口早に説明し、その場からさっさと逃げようとした。しかしメアリーは「じゃあご飯を食べ終わったら行くわ!」と笑って俺を見送った。
生徒会室の前まで行くと、すでにキーナが来ていた。廊下の窓から外を眺めている。
メアリーに振り回されている日々に疲れていた俺は、いつもと変わらないキーナの姿になぜかホッとした。
声をかけようと思った時、キーナは寂しそうにポツリと呟いた。
「こんな事なら私から誘えば良かったわ。」
ー…は?
誰を何に誘うんだ?
「誰を誘うんだ?」
「きゃあ!」
驚いたキーナが振り返り俺を見た。
「ア、アレン様。ごきげんよう。」
「驚かせてすまない。ところでなんの話しだ?」
「ああ、えーっと…」
キーナは言いづらそうに目を逸らす。
なんだよ、俺には話せない内容なのか?
キーナは下を向き、話す事を拒否するような態度だった。
彼女のそんな様子を見ていると、俺とキーナの間にはものすごい距離があるように感じてしまう。
俺は婚約破棄なんてするつもりはなかったが、案外キーナが婚約解消を望むかもしれない。
俺は思わずため息をついた。
「話したくないなら話さなくていい。さあ、生徒会室に入ろう。」
俺はキーナの顔が見れず、さっさと生徒会室に入った。
キーナと他愛のない会話をしながらお茶の準備をしていると、キーナは「私、アレン様が淹れてくれる紅茶が世界で1番好きなんですよ。」と微笑んだ。
どうせお世辞だろ?
そう思ってキーナを見ると、嬉しそうにティーポットから出る湯気を眺めていた。
これは…本音か?
表情だけでは分からない。
キーナには本音で話して欲しい。
いっそ、言ってみるか?
本音で話して欲しい。
王子だから、婚約者だから、と自分を取り繕う必要はない、と。
せめて俺の前だけでもありのままのキーナでいて欲しい、と。
俺が言おうと決意した瞬間、「私以外に誰かいらっしゃるんですか?」とキーナが尋ねた。
俺は3つ用意したティーカップに視線を移す。
そうだ、最初にメアリーが来る事を説明するべきだった。
「ああ。本来なら事前に話すべきだったが、急に決まってしまってな。…メアリー・ブライトニーという女子生徒を知っているか?」
「ええ、今年転入してきた特待生ですよね。光魔法の使い手だと聞いております。」
さすがキーナだな。情報が早い。
「やっぱり知っていたか。実は彼女を…」
コンコンコンー…ガチャ。
「こんにちは!」
こちらの返事も待たずにメアリーが入ってきた。
来るのが早すぎるだろだろ!
「いらっしゃい、メアリー。ずいぶん早く着いたんだね。迷わなかったかい?」
こんな事なら生徒会室へ行くなんて言わなければよかった。俺は笑顔で迎えたが、怒りでティーポットを持つ手が震えた。
キーナとメアリーは面識があるようで2人のお喋りが始まり、結局俺はメアリーを同席させたままキーナに指導係の話をお願いした。
最初は笑顔だったキーナも、流石に引き攣った顔をしていたが最終的に了承してくれた。
だが、少し、いや、かなり怒っているようだった。
後で謝ろう…。
普段キーナは他の令嬢たちと情報交換したり図書室で調べ物をしているようで忙しい日々を送っている。そんな彼女を頻繁に呼びつけるのは気が引ける為、よほどの用事がない限り呼ぶことはない。最後に呼んだのはパーティーの打ち合わせをした3ヶ月前だ。
「アレン様。」
後ろから名前を呼ばれた。
顔を見ずとも声の主は誰か分かる。
ー…あー、振り返りたくない。
俺は笑顔で振り返る。
「やあ、メアリー。どうしたんだ?」
「ねぇ、お昼一緒に食べない?お弁当を作ってきたの。」
メアリーは弁当の入った袋を呑気に抱えてにこにこしている。
お前のわがままを叶えるためにこれからキーナを説得しに行くんだろ!
俺はいい加減キレそうになった。
それでも表情ひとつ変えずに笑顔を保てる自分の忍耐力は我ながら大したもんだと思った。
「ああ、そうなんだ。悪いけど時間がないんだ。これから生徒会室でキーナに会って君の事を話すんだ。」
「そうなんだ!じゃあ私も同席したい!!」
来るな、邪魔だ。
「はは、君はちゃんと昼食を取らないと。ただでさえ細いんだからちゃんと食べないとダメだよ。あ、ちなみに生徒会室は飲食禁止だから弁当は持ち込めないよ。キーナには俺からちゃんと話すから安心して。」
俺は口早に説明し、その場からさっさと逃げようとした。しかしメアリーは「じゃあご飯を食べ終わったら行くわ!」と笑って俺を見送った。
生徒会室の前まで行くと、すでにキーナが来ていた。廊下の窓から外を眺めている。
メアリーに振り回されている日々に疲れていた俺は、いつもと変わらないキーナの姿になぜかホッとした。
声をかけようと思った時、キーナは寂しそうにポツリと呟いた。
「こんな事なら私から誘えば良かったわ。」
ー…は?
誰を何に誘うんだ?
「誰を誘うんだ?」
「きゃあ!」
驚いたキーナが振り返り俺を見た。
「ア、アレン様。ごきげんよう。」
「驚かせてすまない。ところでなんの話しだ?」
「ああ、えーっと…」
キーナは言いづらそうに目を逸らす。
なんだよ、俺には話せない内容なのか?
キーナは下を向き、話す事を拒否するような態度だった。
彼女のそんな様子を見ていると、俺とキーナの間にはものすごい距離があるように感じてしまう。
俺は婚約破棄なんてするつもりはなかったが、案外キーナが婚約解消を望むかもしれない。
俺は思わずため息をついた。
「話したくないなら話さなくていい。さあ、生徒会室に入ろう。」
俺はキーナの顔が見れず、さっさと生徒会室に入った。
キーナと他愛のない会話をしながらお茶の準備をしていると、キーナは「私、アレン様が淹れてくれる紅茶が世界で1番好きなんですよ。」と微笑んだ。
どうせお世辞だろ?
そう思ってキーナを見ると、嬉しそうにティーポットから出る湯気を眺めていた。
これは…本音か?
表情だけでは分からない。
キーナには本音で話して欲しい。
いっそ、言ってみるか?
本音で話して欲しい。
王子だから、婚約者だから、と自分を取り繕う必要はない、と。
せめて俺の前だけでもありのままのキーナでいて欲しい、と。
俺が言おうと決意した瞬間、「私以外に誰かいらっしゃるんですか?」とキーナが尋ねた。
俺は3つ用意したティーカップに視線を移す。
そうだ、最初にメアリーが来る事を説明するべきだった。
「ああ。本来なら事前に話すべきだったが、急に決まってしまってな。…メアリー・ブライトニーという女子生徒を知っているか?」
「ええ、今年転入してきた特待生ですよね。光魔法の使い手だと聞いております。」
さすがキーナだな。情報が早い。
「やっぱり知っていたか。実は彼女を…」
コンコンコンー…ガチャ。
「こんにちは!」
こちらの返事も待たずにメアリーが入ってきた。
来るのが早すぎるだろだろ!
「いらっしゃい、メアリー。ずいぶん早く着いたんだね。迷わなかったかい?」
こんな事なら生徒会室へ行くなんて言わなければよかった。俺は笑顔で迎えたが、怒りでティーポットを持つ手が震えた。
キーナとメアリーは面識があるようで2人のお喋りが始まり、結局俺はメアリーを同席させたままキーナに指導係の話をお願いした。
最初は笑顔だったキーナも、流石に引き攣った顔をしていたが最終的に了承してくれた。
だが、少し、いや、かなり怒っているようだった。
後で謝ろう…。
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