竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

33.満たされない心

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全科目の試験を終えるベルが大教室に鳴り響く。緊張で張り詰めていた空気が一気に消え、緩んだ空気に変わった。
試験を終えた受験生たちは雑談しながら出口へと向かう。
シロもそのあとについて歩いていると、控えめな力で袖を引っ張られ、振り向けばオドオドした表情のアンバーと目が合う。

「あの…、さっきはありがとう。…すごく助かった」

「いいよ、気にしないで」

シロが簡潔に答えて、用は済んだだろうと前を向く。
シロの素っ気ない態度に怯んだアンバーだったが、勇気を出してもう一度話しかけた。

「あ、あのさっ…、昨日はごめん。僕、君と君の大切な人にすごく失礼な事を言ってしまって…。本当にごめんなさい」

涙目で震えながら謝るアンバーの姿を見て、シロはふっと小さく笑った。

(気にしていたのかー…)

「うん、いいよ。謝ってくれたから許す。昨日は俺も感情的になり過ぎた。ごめんね」

シロが謝ると、アンバーは慌てて両手を振って否定した。

「そんな事ない!君が怒るのは当然だっ。…僕、昔から人付き合いが苦手で…、でもシロはすごく話しやすくて、嬉しくなって…。つい調子に乗ったんだ。ごめん」

俯いてしょんぼりと謝るアンバーの肩を、シロがポンと叩いた。

「もういいって。さあ、部屋に戻ろう。集中し過ぎてクタクタだよ」

シロは伸びをして歩き出す。アンバーの表情がやっと明るくなり、子犬のようにシロの後を追いかけた。

「僕もすごい疲れた。そうだ!大浴場に行ってリフレッシュしない?」

「うーん、君が調子に乗らないなら行ってもいいよ」

シロがからかうと、アンバーは一瞬立ち止まる。

「…っもう乗らないよ!僕、本当に反省しているんだからね…。もしかしてまだ怒ってる?」

「あははっ、もう怒ってないってば。アンバーって表情がコロコロ変わって面白いよね」

「なっ、なんだよー。僕は必死なのにさ!…へへっ」

シロが笑うとアンバーもつられて笑った。
2人が楽しそうにしているので、その様子を見ていた受験生たちが「君たち仲良いねー」と言って話に入ってきた。その中にはシロと同じ宿泊組もいて、結局みんなで大浴場に行く事になった。
自分の出身地、得意分野の魔法、実技試験はどんな内容なのかなどをワイワイと話した。魔獣と戦うシミュレーションを素っ裸で披露する子もいて、みんなで大笑いした。
そして最後には「絶対みんなで合格しような」と約束して、それぞれの部屋に戻った。


静まり返った小さな部屋に月の光が差し込んでいる。シロは窓辺に立って夜空を見上げた。

ー…筆記試験は大変だったけど、たくさん笑った1日だったな。

金に輝く月を見ていると、ルーフの瞳を思い出す。

充実した一日だったはずなのに、ルーフがいなければ心はちっとも満たされない。
たった1日離れただけなのに、気持ちが萎れていくようだ。
本当は受験なんてやめて、ルーフと暮らすあの家に今すぐに帰りたい。

でもここで諦めるわけにはいかない。

頑張れ、自分。頑張れ。

だけど…。

「…会いたいよ、ルーフ」

シロはぽつりと呟いた。
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