竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

34.『リタイアする』と言ってくれ

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実技試験の会場は、騎士学校の裏にある訓練場として使われる森だった。
朝早くから集められた受験生たちは、午前の部で武芸、攻撃魔法、防御魔法などの課題に取り組む。
そして全ての課題をパスした者だけが、午後の部である討伐実技に参加できる。
討伐実技に参加できなくても受験の合否にそこまで影響しないが、特待生枠には関わってくる。

100人近い受験生がいて、討伐実技まで残った受験生は20人ほどだった。
シロも午前の部は難なくクリアし、討伐実技のメンバーに入れた。

午前の部が終わった後、肩を落としたアンバーがシロの元へとやって来た。

「シロは討伐実技も受けられるんだね。僕はダメだった」

「そっか、残念だったね。だけどまだ受験に落ちたわけじゃないから落ち込む事ないよ」

シロが励ますと、アンバーは少し安堵したように「ありがとう」と笑った。

「討伐実技に参加できない人たちはこれで解散だって。僕も帰るよ」

「そっか。じゃあまた入学式で会おう」

シロは握手しようと手を差し出すと、アンバーは驚いた顔をした後、くすくすと笑った。

「ふふっ、シロは気が早いね。まだ合否も出てないのに」

「大丈夫だよ。それに昨日大浴場でみんなで合格しようって約束しただろ?」

シロが言うと、宿泊組の受験生も集まってきて「そうだよ、アンバー!また入学式で会おうぜ」と肩を組んできた。アンバーは嬉しそうに「うん!楽しみにしてる」と笑った。



「討伐実技を受ける者は集合だ!俺の後についてこい!!」

ドスの利いた声を張り上げたのは、竜人騎士団の教官でもあり、騎士学校の教師でもあるハリスだ。筋骨隆々の体は傷だらけで片目に眼帯をしている。100年戦争では、常に最前線で魔族と戦っていた百戦錬磨の竜人だ。騎士学校で一二を争うスパルタ教師としても有名らしい。

そのハリスに連れられてきた場所は、鬱蒼とした森の奥にある大きな沼地だった。ハリスが指を鳴らすと、水面が不気味にゆらゆらと揺れ、沼からゴウゴウと地響きがした。
そして雷鳴とともに巨大なナマズのような魔獣が飛び跳ね、再び沼の中へ姿を消した。

得体の知れない恐怖に受験生たちに緊張が走る。その様子を見てハリスは楽しそうに笑った。

「討伐実技はこの沼に住む凶暴な大型魔獣と戦ってもらう!!生死を賭けた戦いになるだろう!リタイアしたい者は今すぐ申し出ろ!!」

「大型魔獣だって!?」「そんなの俺たちにはまだ無理だろ…!」

受験生たちは震え上がる。
それもそのはずだ。大型魔獣は攻撃力も魔力も長けていて、現役の竜人騎士でも討伐に何日もかかるほど苦戦する。
いくら実技試験をパスしたとはいえ、まだ15、6の子供達に大型魔獣討伐など無理な話だ。

受験生たちは互いに顔を見合わせた。参加するか、リタイアするか…。
その時、シロは手を挙げた。

「はい」

ハリスの鋭い眼光がシロを捕らえ、見下すようにニヤリと笑う。

「お前の名は…シロだったか。ははっ、リタイアするか?」

1人が『リタイアする』と言えば、自分もリタイアすると言い易くなる。どうか『リタイアする』と言ってくれと願った受験生が何人かいた。しかしその望みも虚しく、シロははっきり答えた。

「いいえ、もちろん参加します。今の魔獣は本物ですか?」

シロの質問にハリスは豪快に笑う。

「…ふはははっ!!お前は目が良いな!確かにあの魔獣は騎士団の討伐訓練用に作られた偽物コピーだ!!」

その言葉に受験生たちに希望が芽生えた。訓練用のコピー魔獣なら自分たちでも倒せるかも知れない。しかしその希望さえ、ハリスはすぐに打ち砕いた。

「しかし攻撃力などは本物と一切変わらない!残念だったなあ!!」

「いえ、安心しました」

シロは笑顔で答える。ハリスはシロを睨んで聞き返した。

「安心だと?何故だ。」

「何も悪さをしていない魔獣を一方的に殺せません。あともう1つ聞いてもいいですか?」

眉間に深いシワのあるハリスは、さらに眉間にシワを寄せる。

「…なんだ?」

「討伐実技は、コピー魔獣を倒したら終了ですか?」

「…ああ」

「じゃあサクッと倒して終わらせましょう。俺、早く帰りたいので」

シロは嬉しそうに答えた。
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