竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

24.暑苦しい

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飼い主の帰りをずっと待っていた犬のように、ぎゅうぎゅうと抱きしめて甘えてくるシロの姿に、ルーフは嬉しいのに泣きたくなる不思議な感覚になった。

さっきまで孤独を感じていた心は満たされ、必死に抱きつくシロが可愛くて愛しさを感じた。

ー…ああ、もう俺の負けだな。こいつの願いは、叶えてやりたい。

ルーフはくすっと笑って、シロを抱きしめ返した。

「行ってこい」

「え?」

ルーフの言葉にシロは顔を上げた。

「騎士学校だよ。行きてぇんだろ?シロが決めたなら行けばいいさ」

「ー…いいの?」

「いいもなにもお前の人生だ。さっきは否定して悪かった」

「ルーフは悪くないよ!俺がちゃんと話してなかったから…。俺の方こそごめん」

「ははっ、んじゃお互い様ってことで。それより部屋に入ろうぜ。お前の話、ちゃんと聞くから」

家に戻った2人は、食事をしながら今後の話をした。

進学先、目標、今後の生活など、自分の考えを話すシロを、ルーフは一度も否定や意見を言う事はせず、頷きながら、ひたすら聞き続けた。

すでに太陽は上がりきっていたが、風呂を済ませてからベッドに入った。

カーテンを閉め切っていても、昼間の強い光が差し込んでいる。



「おい、シロ。暑い」

「そう?」

「暑苦しいんだよ。離れろ」

「嫌だ」

ベッドの中、ルーフにしがみ付くような格好で横になっていたシロは、さらに腕の力をググッと強めた。

「おい!苦しいんだって!力加減ってもんが分かんねぇのか!!」

ルーフはなんとかシロの腕から抜け出し、頭をポカンと叩いた。

「痛っ!ー…だって、ルーフまた逃げるかもしれないだろ?」

シロは自分の頭を摩りながら胡座をかいて、恨めしそうにルーフを見た。
責めるようなシロの赤い瞳に、ルーフはぐっと言い澱みそうになった。

「べ、別に逃げてねぇだろっ」

つい数時間前、大人げない態度で家を飛び出した自分を思い出し、ルーフは恥ずかしくなって布団を被ってシロに背を向けた。

「…ねえ、ルーフ」

シロは布団を被ったままのルーフを抱きしめた。

「もう寝ろよ」

布団の中からルーフは呆れたように答えた。

「…俺が騎士学校を卒業したら、ルーフの所に戻ってきてもいい?」

竜人騎士学校は5年制だ。
しかし騎士団に同行する課外活動や試験はかなり難関で、5年間で卒業できる者は少なく、通常は卒業までに5年以上かかるといわれる。

ー…いつ戻るか分からないシロを、ここでただ待ってるなんて地獄じゃねぇか。

「俺にここで5年以上待ってろって言いたいのか?」

ルーフは少し不機嫌な声で聞いた。

「待たなくていいよ。俺だって、ルーフには自分の人生を楽しんで欲しいもん。ルーフは好きな場所で自由に暮らしていて。どんな場所にいても絶対見つけ出すから。卒業したら、必ずルーフの元に戻る。そうしたら、また一緒に暮らして欲しいんだ…」

ストーカーかよ、と笑いそうになったルーフだったが、布団越しに感じるシロの手が震えていて、笑えなくなった。

「ー…勝手にすれば?」

ルーフがぶっきらぼうに答えた。

「する!ありがとう、ルーフ。…本当は1日だって離れたくないよ…。ずっと、そばに居たい。でも俺、頑張って治療魔法マスターして、すぐに卒業するから。だから、ずっと好きでいさせて…」

シロの必死に願うような言葉に、ルーフの胸は痛み、何も答えられず目をかたく閉じた。



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