93 / 112
竜人の子、旅立つ
20.川に落ちる
しおりを挟む
家を飛び出したルーフは、街中を歩いていた。
シロが自分から離れていく。
いつかそんな日が来ることは分かっていたはずなのに。
騎士学校へ行きたいと言ったシロを思い出すと、心臓を掴まれるような痛みが走る。
(ー…くそっ、なんで胸が痛ぇんだよ)
痛みから逃げたくて、歩く速度はどんどん速くなる。
「待ってよー!」
聞こえてきた声に思わず振り返ると、声の主は知らない女性。恋人らしき男性を追いかけて、じゃれながら手を繋ぐ。
楽しそうに笑い合う2人に、自分とシロの姿を重ねてしまう。
「……っくそ!」
行き場のない感情に襲われ、ルーフは走り出した。
行き交う人の肩に当たり、暴言を吐かれても無視して走った。
しかし入院生活で鈍った足がもつれてバランスを崩し、勢いあまって街中を流れる浅瀬の川に転げ落ちた。
盛大に水しぶきをあげて落ちたルーフに、野次馬が集まりだす。
「おいおい、酔っ払いが落ちたってよー!見てみろよ!」
「本当だっ、だぜぇな!何やってんだよ」
「馬鹿だなぁ、お前!あはははっ、大丈夫かー?」
普段ならすぐに言い返すルーフは、川に落ちたまま下を向いていた。
周りの声など聞こえていなかった。
頭に響くのは、先ほどジェスに言われた言葉。
ー…『シロ坊が決めた事を何故お前が否定するんだ?お前に何の権利がある?シロ坊の人生はシロ坊のもんだ。それをお前が否定する方がおかしいだろう』
本当にその通りだ。
シロは一時的に預かってるつもりだったのに。
シロの『好きだ』と言う言葉を信じて、いつの間にか、これからも一緒に暮らしてやろう、なんて思ってしまっていた。
魔王が消えた日、もう二度と誰かと生きていこうなんて希望を持たない、と決めていたのにー…。
「ー…はは、情けねぇな」
目に水が入り、景色が歪む。
顔にかかった水を拭き取ろうと顔を拭うと、その腕を掴まれた。
「酔っ払いが川に落ちたと聞いて来たが、お前のことか、ルーフ。ー…ん?でも今日は珍しく酒臭くないな」
腕を掴んだのは、ユーロンだった。
「…離せよ」
ルーフは静かな声で腕を振り解いたが、今度はユーロンの小脇に抱えられ、川から引き上げられた。
ユーロンは野次馬を追っ払い、おせっかいにも浄化と乾燥の魔法をルーフにかけて、濡れた体を乾かした。
腹が立つほど、心地良く気持ちの良い、優しい魔法がルーフを包み込む。
「どうした、ルーフ。随分静かだな」
「…別に。俺は助けてくれなんて頼んでないから、お礼は言わねぇぞ?」
「はは、そんな事、お前に期待していない。それより、どうだ。ちょっと付き合わないか?奢るぞ」
ユーロンは片手で飲むポーズをした。
竜人と一緒に飲む気分ではないが、タダ酒が飲めるのは魅力的だ。
ルーフは少し悩んで、「…行く」と答えた。
シロが自分から離れていく。
いつかそんな日が来ることは分かっていたはずなのに。
騎士学校へ行きたいと言ったシロを思い出すと、心臓を掴まれるような痛みが走る。
(ー…くそっ、なんで胸が痛ぇんだよ)
痛みから逃げたくて、歩く速度はどんどん速くなる。
「待ってよー!」
聞こえてきた声に思わず振り返ると、声の主は知らない女性。恋人らしき男性を追いかけて、じゃれながら手を繋ぐ。
楽しそうに笑い合う2人に、自分とシロの姿を重ねてしまう。
「……っくそ!」
行き場のない感情に襲われ、ルーフは走り出した。
行き交う人の肩に当たり、暴言を吐かれても無視して走った。
しかし入院生活で鈍った足がもつれてバランスを崩し、勢いあまって街中を流れる浅瀬の川に転げ落ちた。
盛大に水しぶきをあげて落ちたルーフに、野次馬が集まりだす。
「おいおい、酔っ払いが落ちたってよー!見てみろよ!」
「本当だっ、だぜぇな!何やってんだよ」
「馬鹿だなぁ、お前!あはははっ、大丈夫かー?」
普段ならすぐに言い返すルーフは、川に落ちたまま下を向いていた。
周りの声など聞こえていなかった。
頭に響くのは、先ほどジェスに言われた言葉。
ー…『シロ坊が決めた事を何故お前が否定するんだ?お前に何の権利がある?シロ坊の人生はシロ坊のもんだ。それをお前が否定する方がおかしいだろう』
本当にその通りだ。
シロは一時的に預かってるつもりだったのに。
シロの『好きだ』と言う言葉を信じて、いつの間にか、これからも一緒に暮らしてやろう、なんて思ってしまっていた。
魔王が消えた日、もう二度と誰かと生きていこうなんて希望を持たない、と決めていたのにー…。
「ー…はは、情けねぇな」
目に水が入り、景色が歪む。
顔にかかった水を拭き取ろうと顔を拭うと、その腕を掴まれた。
「酔っ払いが川に落ちたと聞いて来たが、お前のことか、ルーフ。ー…ん?でも今日は珍しく酒臭くないな」
腕を掴んだのは、ユーロンだった。
「…離せよ」
ルーフは静かな声で腕を振り解いたが、今度はユーロンの小脇に抱えられ、川から引き上げられた。
ユーロンは野次馬を追っ払い、おせっかいにも浄化と乾燥の魔法をルーフにかけて、濡れた体を乾かした。
腹が立つほど、心地良く気持ちの良い、優しい魔法がルーフを包み込む。
「どうした、ルーフ。随分静かだな」
「…別に。俺は助けてくれなんて頼んでないから、お礼は言わねぇぞ?」
「はは、そんな事、お前に期待していない。それより、どうだ。ちょっと付き合わないか?奢るぞ」
ユーロンは片手で飲むポーズをした。
竜人と一緒に飲む気分ではないが、タダ酒が飲めるのは魅力的だ。
ルーフは少し悩んで、「…行く」と答えた。
1
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる