竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

21.嫌なタイミングの男

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賑やかな酒場の1番奥のテーブルで、ルーフとユーロンは向き合って座っていた。

「お前って、本当に嫌なタイミングで俺の前に現れるよな!狙ってんのか?性格悪りぃぞ!」

三杯目のグラスを空けたルーフは、ユーロンを睨みながら次の酒を注文した。

「そんなわけないだろう。今回は爆発事故の後処理が全て終わって、最終確認のため街に残っていただけだ。それより、お前も随分大変だったみたいじゃないか。アスディアで入院してたんだろう?体はもう大丈夫なのか?」

ユーロンは酒を飲みながら、ルーフの左目の傷跡に目線を移した。

「体なんてもともと大丈夫だったのに、お前んとこのスノウが俺を無理矢理病院にぶち込んだんだ」

「はは、そんなに怒るなよ。スノウから報告を受けていたが、かなり危ない状態だったらしいじゃないか。まあ、元気そうでよかった。…その後、シロも変わりないか?爆発事故がすぐに片付いたのは、シロのおかげなんだ。かなり魔力を消費させてしまったんじゃないかと心配していたんだ」

新しく運ばれてきた酒を受け取り、ルーフはすぐに口に運んだ。

「あいつはピンピンしてるよ。思った以上に魔力があるみたいだな。ああ、そういや、あんたにゃ朗報だぜ。シロの奴、竜人騎士学校へ進学するってよ」

ユーロンは目を見開き、勢いよく立ち上がった。

「それは本当か!?」

ユーロンは興奮気味に目を輝かせたが、その様子を冷静に観察するルーフの鋭い視線に気付き、咳払いをしてから席に着いた。

「…すまない。確かに俺にとっては朗報だが、お前はいいのか?シロを騎士学校へ行かせる事に否定的だったろ?」

「…別に否定してた訳じゃねぇよ。強制して行かせたくなかっただけだ。それにあいつはまだガキだし、俺から離れたくねぇって言ってたから、この辺の学校に進学すればいいんじゃねぇかって思ってただけだ」

ルーフは酒を飲み干し、空になったグラスの底をじっと眺めた。
空っぽのグラスの底に虚しさを感じる。
虚しすぎて、笑いが込み上げてくる。

「ははっ!アスディアに行ったら、手のひらを返したように竜人騎士学校へ行きたいって言いやがったよ。結局、あいつも竜人だ。竜人自分のいるべき場所はアスディアだと思ったのかね」

ルーフはあえて大袈裟に笑うと、ユーロンに頭をガシガシと撫でられた。

「やめろよ!何すんだ!!」

ルーフはユーロンの手を払いのけて、ボサボサになった髪を自分の手で撫でつけ、ユーロンを睨んだ。
しかしユーロンも眉間に皺を寄せて、ルーフを睨んでいる。

「捻くれすぎだぞ、ルーフ。お前はシロの何を見てきたんだ。俺はシロが不憫すぎて悲しくなった。本当はお前の捻くれたすっからかんの頭を叩いてやりたいが、シロが怒るだろうから我慢して撫でてやったんだ」

「あぁ!?意味わかんねぇよ!」

「どうせシロが騎士学校に行きたいと言い出したのは、お前の聖剣の傷跡を治したいからだろ?シロは、いつもお前中心に物事を考えてるからな」

ユーロンの指摘に、シロの言葉を思い出す。

ー…『ルーフの傷跡の異変にも気付かなかった…。俺、悔しくて悔しくて…。もっと医学を学びたいと思ったんだー…』

ルーフだって本心では、自分の為に医学を学びたいと言うシロの気持ちが凄く嬉しい。だけどアスディアなんて遠すぎるー…。
シロは俺がそばに居なくて平気なのかよ…。

「…もういい。俺は帰る」

ルーフは静かに席を立った。
ユーロンは、引き留めることはせず、優しく微笑んだ。

「ルーフ。お前の寂しい気持ちも分かるが、子供の旅立ちは応援してやれ。自分の気持ちは殺して、頑張れって、思いっきり背中を押してやれよ」

ルーフは何か言い返したい気持ちになってユーロンを見たが、言葉はなにも浮かばず、結局黙って背を向けた。
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