竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

9.充実感

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竜人聖騎士団の駐屯所の方から強い光が放たれた。
駐屯所から離れた場所で、ルカ達と瓦礫の片付けをしていたルーフは光の方向を見上げた。

鼻をクンクンと嗅覚に集中すると、シロの魔力の匂いがした。
目を閉じれば、治療に奔走するシロの姿が容易に想像できる。

(頑張ってんだな、アイツー…)

ルーフの口元がふっと緩んだ。




シロの魔力供給で、騎士たちの魔力は完全回復し、2時間以上経った今も、救助活動には活気が出ていた。
しかも魔力供給は騎士だけではなく、救助に当たっていた駐屯所周辺の一般竜人や魔族にも行き渡っていた。

そしてシロは、再び医療班に戻り、怪我人たちに治癒魔法をかけていた。

スノウに何度か「シロ君、無理したらダメだよ?」と休むように言われたが、シロは「疲れたらちゃんと休むから大丈夫ですよ」と断り、働き続けていた。

シロは決して強がったり無理しているのではなく、本当に身体の疲れを感じていなかった。
むしろ大量の魔力を吐き出したせいか、魔力の巡りがより活発になり、普段より調子良く感じるほどだ。

シロ自身、魔力を放出して実感したのだが、自分は思っている以上に魔力を持っている。
そして、その魔力をコントロールする事が出来ている。

だからどんなに魔力を使っても魔力不足になることもなければ、体が疲れても無意識に自己治癒が出来る。

枯渇することのない泉のような闇魔力を感じた。

重傷者の治療を終え、一息ついたシロは、なんとなく自分の手のひらを見た。

(きっとこれが魔王の力ってやつなのかな…)


「シロ、体は大丈夫か?」

被災エリアから戻ってきていたユーロンに声を掛けられ、シロは顔を上げた。

「ええ、大丈夫です。街の救助は順調ですか?」

「ああ、殆ど終わったよ。騎士達が回復したから予定より早く片付いた。お前の魔力のおかげだな。心から感謝する」

そう言ってユーロンが微笑んだ。

「わぁ~!ユーロンさんが笑ってるなんて珍しいなぁ」

クスクスと笑いながらスノウもやって来た。そしてスノウも、すぐにシロを見て頭を下げた。

「シロ君、今日は本当にありがとう。おかげで重傷者の治療は全て終わったよ。こんな大規模な爆発事故だったのに、死者は1人もいなかった。もし君がいなかったら、かなり酷い状況になってたと思う。力を貸してくれて本当にありがとう」

シロは慌てて、頭を下げるスノウの肩を上げた。

「スノウさん、頭なんて下げないでください。俺なんて…魔力があるだけで…。その魔力も僕の力じゃなくて、魔王の力をたまたま継承しただけですし。
…本当に凄いのは、騎士団のみなさんです。消火や救助も素早い対応だったし、何より医療班の高度な治癒魔法があったから、死者が出なかったんですよ。俺は基本的な治癒魔法しか使えないし…。やっぱり竜人騎士団は凄いって実感しました」

「あははっ、シロ君は自分を過小評価しすぎだよ。例え継承した力でも、使いこなせなきゃ意味がない。あれだけの魔力をコントロール出来るのは、シロ君自身の力だよ。すごく努力してたんでしょ?よく頑張ったね」

スノウは優しく笑ってシロの頭を撫でた。
スノウの言葉にユーロンも頷いた。

「スノウの言う通りだ。当時10歳だったお前が魔王の力を継承していると聞いた時は、正直、お前の処遇に迷ったんだ。お前に罪は全くないが、闇魔力がコントロール出来なければ…最悪、監禁する必要があったからな」

ユーロンは言いづらそうに目線を逸らした。
そして再びシロに目線を合わせた。そのユーロンの瞳は、少し濡れていて眉間には皺が寄っていた。

「だが、今日のお前の働きを見て安心した。いや、頼もしくなった、と言った方が合ってるな。シロ、お前は、自分の魔力を完全にコントロール出来ている。そしてその力を他人を救うために使ってくれた。それはシロ自身の心の強さだ。…その見た目や魔力のせいで、散々苦労してきたお前に言っていいことじゃないかもしれないが、俺は魔王の継承者がシロで良かったと思う。ここまで努力を続けてくれてありがとう。お前を誇りに思うよ」

スノウやユーロンの言葉に、シロは素直に嬉しくなった。
子供の頃、『呪われた竜』と蔑まれ、地下室で暮らしていた自分が、こんなに認めてもらえる日が来るなんて思ってもいなかったからだ。

シロは、照れ隠しに鼻を掻きながら、はにかんだ。

「へへっ。ありがとうございます。…でも、俺がここまで頑張れたのは、ルーフのおかげです。ローハン家から逃げ出した日、ルーフに拾われていなければ、俺はとっくに死んでいたと思います。それにルーフがいなければ、ここまで頑張ろうなんて思わなかった…」

5年前、ルーフに拾われてシロの世界は、大きく変わった。
ルーフは、初めて『自分シロ』という存在を認めてくれた。自分の感情は、ちゃんと言葉にして伝えろと何度も背中を押された。
魔力のコントロールを必死に身に付けたのも、ルーフにもっと認められたい、守りたい、好きになってもらいたい、というモチベーションで努力してきた。
そして、その努力を続けてきたシロの隣には、いつもルーフが居てくれた。

そんな事を思い、シロは充実感に満たされながら空を見上げた。

真っ暗だった空は、いつの間にか白み始めていた。

ー…また新しい1日が始まる。

シロはゆっくり深呼吸をした。


ユーロンに「お前は、本当に昔っからルーフに惚れすぎだぞ」と呆れたように笑われた。スノウも「一途だよねぇ」と笑って、シロの肩を叩いた。

「さぁ、シロ君。ルーフさんの元へ帰ろう。君が途中で体力切れで倒れないように、僕が送ってく」

スノウの申出を、シロは丁重に断ったが、ユーロンにも「いいから送ってもらえ。スノウ、悪いがルーフにもお礼を伝えてくれ。よろしく頼むな」と言われ、結局押し切られてしまった。
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