竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

竜人の子、旅立つ

10.小さな独占欲

瓦礫の片付けがひと段落したルーフ達は、ルカの父親の店に戻り、シロの帰りを待っていた。

店の長椅子では、アリスとルカが仮眠を取っている。
ルカの両親は、休憩室で仮眠を取っているため、ルーフは1人で酒を飲みながら、まだ暗い窓の外を眺めていた。

「最後の祭りが台無しになっちまったなー…」

ルーフは呟き、テーブルにうつ伏せになって目を閉じた。

ー…もうすぐシロは、学校を卒業する。

アイツは賢いから、どの学校でも入れるだろう。でも試験とかあるのかな？それとも面接か？
俺は学校なんて行った事ないから知らないけど、シロなら心配はいらないだろう。どんな試験があってもきっと上手くやるはずだ。
それより住む場所を決めないとな。
やっぱり酒が美味い場所が良いな。
そういえばシロは、都会より自然が好きだと言っていたな。
俺は都会の方が好きだけど、田舎でのんびり暮らすのも良いよな。
それにどこへ行っても、シロが美味い飯を作ってくれる。
美味い酒とシロの作った飯がありゃ、俺はどこでもいいや。

シロと新しい環境での暮らしを想像すると、楽しみになってくる。
今まで考える事のなかった未来への計画と期待。

ルーフは、フワフワとした穏やかな気持ちで眠りについた。




「ー…フ！おい、ルーフ起きろ！」

ルカの元気のいい声で、ルーフは目が覚めた。
どうやらうつ伏せになったまま、熟睡していたらしい。

「んー…。ぁんだよ、うるせぇなぁ…」

目を擦りながら掛け時計を見るが、寝起きのせいか視界がボヤけて見えづらい。
窓の外に視線を移すと、薄暗い空に朝焼けが広がり始めていた。
時間は分からないが、まだ早朝だ。

ー…まだ寝ていたい。

再びテーブルにうつ伏せになったルーフの肩を、ルカが叩いて起こす。

「シロが戻ってきたぞ！こっちに向かって飛んできてる！なあ、ルーフ起きろって！」

「…んー、分かった。後で行くわ」

眠気に勝てずに愚図るルーフの腕を、ルカは引っ張った。

「なんでだよ。ずっとシロを待ってたくせに！一緒に迎えてやろうぜ？ほら、お・き・ろっ！」

「うるせぇってー。分かったよ」

ルーフは首を掻きながら、欠伸をしてダラダラと立ち上がると、急かすルカに背中を押されて店の外に出た。

すでに外に出ていたアリスは笑いながら「やっと起きたのね。ほら、見て！」と空を指差した。

その方角を見ると、眩しく輝く朝日を背に、黒い竜と水色の龍がすぐそこまで近づいてきている。

陽の眩しさに目を細めたルーフは、黒い竜の姿を見て、笑みが溢れた。

2匹の竜がふわりと地上に降り立つと同時に、人の姿に戻った。
ルカとアリスは、すぐに駆け寄って抱きしめ合い、笑顔で挨拶を交わしている。
ルーフは、その様子を少し離れた場所で、腕を組んで見守っていた。
しかし赤い瞳は、すぐにルーフの姿を捉えた。

「ルーフ！ただいまっ！！」

朝日より眩しい笑顔と、たった一晩でどこか逞しくなった雰囲気を纏ったシロが、ルーフに勢いよく飛びついた。

「うわっ！」

バランスを崩しそうになったルーフだったが、しっかりとシロを受け止めて、優しく抱きしめた。

ー…ちゃんと俺の元に帰ってきてくれた。

ルーフはふと、そんな事を思って安堵した。

心のどこかで、シロが竜人たちの影響を受ければ、自分もアスディア竜人の国で暮らしたいと思うのではないかと不安があったのだ。
しかしルーフの腕の中には、いつもと変わらず、ルーフを慕う可愛いシロがいる。

ー…この可愛い竜を離したくない。これからもずっと2人で暮らしていきたい。

ルーフの心に小さな独占欲が生まれた。

ルーフは両手で、シロの頭をぐしゃぐしゃと撫でてニカッと笑った。

「おかえり、シロ！」