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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。

14.視線

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「魚は沢山いるのに針、ピクリとも動きませんね…。」

釣り糸を垂らした湖を覗き込み、シロは口を尖らせた。
水は透明度も高く、魚が釣り針を避けて優雅に泳ぐ様子が見える。

「まあ、そのうち食い付くだろ。ゆっくり待ってようぜ。忍耐ってやつよ。」

「忍耐…。」

ルーフは『忍耐』という言葉にはそぐわない脱力した格好で寝転がり目を閉じている。

静かな湖畔からは虫や鳥たちの声と、たまに魚が跳ねた水音だけが聞こえてくる。

ルーフは気持ちいいなぁ、と欠伸をした。

ギギィ…。

船が少し揺れたので目を開ければ、シロも隣で仰向けになって寝転んでいた。

「…忍耐って、こんなにもまったりして気持ちいい事なんですねぇ。」

「ああ。」
(違うけど。)

否定するのも説明するのも面倒に感じたルーフは適当な相槌を打った。

しばらく2人で流れる雲を眺めていると、シロは「僕、こんなにのんびり過ごしたの初めてです。」と呟いた。

「へぇ。」

「生まれてからずっと地下室で暮らしてたんです。ルーフさんは竜人の国アスディアって行ったことあります?」

「行くわけねぇだろ。あんな竜人まみれの国。」

「ははっ、ですよね。
僕はアスディアのローハン公爵家出身なんです。赤目の黒竜は魔王と同じ特徴を持つせいで『呪われた竜』として忌み嫌われるんですけど、まさに僕はその特徴を持って生まれてきたせいで家系図から抹消されて地下室に閉じ込められました。」

シロはポツリ、ポツリと自分の出生から公爵邸を逃げ出したまでの話をした。
自分でも何故こんなに話してしまうのか分からなかったが、ただルーフに自分の事を知って欲しいと思った。

「ー…それで魔力と体力が限界を迎えて倒れた時にルーフさんに助けてもらったんです。地下室で暮らしていた時は、世界は暗くて苦しいものだと思っていましたが、ルーフさんと出会ってから世界はこんなにも明るくて美しいものなんだって知りました。」

シロは体を起こし、ルーフに微笑みかけた。
ルーフもシロの方を見たが、すぐに目線を空に戻した。

「そうか?俺は世界なんてクソみてぇなもんだと思うぞ。お前もその内、嫌でも分かるさ。
期待すればすぐに裏切られて足元をすくわれる。上手く生きていきたいなら何事にも関心も責任も持たねぇことだ。」

「…そう…ですか。」

ルーフのあまりにも冷たい声に、シロは何も言えなくなって俯いた。

「まあ、でもその地下室から逃げ出した事は正解だな。俺だったら公爵邸ごと吹き飛ばしてから逃げるけどな。」

ルーフはニヤッと笑ってシロを見た。

いつもの声質に戻っている。
シロは少しホッとしながら「僕もそうすれば良かったです。」と笑った。



結局、何時間経っても魚は釣れず、ルーフは魔法を使って5匹ほど魚を捕まえた。シロは「なんで最初から魔法を使わなかったんですか?」と不思議そうに聞くと「俺は結果より過程を楽しむタイプなんだよ。」と意味はよく分からないがルーフらしい答えが返ってきた。

「おい、シロ。一般魔法の練習だ。魔法で焚き火台作って火を付けてみろ。」

「はいっ。」

シロは張り切って両手を出して力を込めた。

落ちていた枝や枯れ葉が一気に集まり5メートル程の焚き火台が作られ、炎が立ち上がった。
シロは嬉しそうに「出来ました!」とルーフを見上げたが、これじゃ火祭りレベルだ。

「いや、デカすぎだろ。やり直し。」

「すみませんっ!」


何度か挑戦していくうちに、やっと普通サイズの焚き火が作られ、2人は魚を焼き始めた。

空はいつの間にか真っ暗になり星が煌めきだした。
焼けていく魚を嬉しそうに見ているシロを見守っていると遠くの茂みから視線を感じた。

動物や人の視線ではない、明らかに敵意のある視線だ。

「誰だっ。」

ルーフは茂みに照明弾を放つとその周辺は一気に明るくなり、黒服を着た竜人が現れた。

ルーフの隣にいたシロは尻もちをついて震え出した。シロの表情は怯えて強張っている。

「…シロ、大丈夫か?」

ルーフは怯えるシロの背中を支えた。

「ローハン公爵様に散々迷惑掛けて世話になったくせに黙って逃げるなんて、お前はとことんクズだな。」

「ジ、ジン…。」

茂みから現れたのは、シロの教育係のジンだった。
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