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オナニー愛好家と元クソ野郎が恋人になるまで

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 こんなにも待ち遠しく、長く感じた一週間は今まで無かったんじゃ無いだろうか。それ程までに待ちに待った週末。
 やって来たぜ!! ラブホテル!!!

 独特なネオンに彩られた独特な建物の前で拳を胸に感動に打ち震えている俺とは対照的に、隣では古町さんが折角の高身長を縮めオドオドしていた。

「き、来ちゃった……ど、どうしよう、どうしましょう」
「大丈夫ですか? 古町さん」
「は、はひっ!」

 俺とラブホテルの入り口を交互にチラチラと見る古町さんはいつもと変わらずの挙動不審。まるで俺が古町さんを引きずって無理やりラブホテルに来たみたいじゃないか。
 実際、当日になって日和る古町さんの腕を引いてホテル街まで来たんだけどさ……

 でも今回、ラブホテルに誘ったのも、この目の前のラブホテルを選んだのも古町さんなんだし、俺はラブホテル経験ゼロでここからどうしたら良いのか分からない超初心者なので、ここは古町さんに頑張って頂きたいんだけど、大丈夫かな?
 こんな状態で今までどうやってラブホテルを利用して来たのか疑問ではあるものの、いつもの古町さんを思えば予想通りと言えば予想通りだったかも。

「あ、あの……ほ、本当に……良いんで、すか?」
「勿論! 良いに決まってるじゃないですか。 その為に来たんですよ? ほらほら、ここで立ち止まってるのも恥ずかしいんで入りましょうよ」
「は……は、は、はいっ」

 週末のホテル街なんて、いつどんな人が通るか分からないし、男同士でこんな所に立尽くしている所なんて誰かに見られでもしたら……
 俺にそう言われて古町さんもその事に気が付いたのか、挙動不審ながらも慌てて入り口の自動ドアを潜った。
 
 入ってしまってからは腹を括ったのか吹っ切れたのか、古町さんは迷いなくフロントの奥にある大きな液晶パネルの前まで歩いて行った。
 俺と言えば、初めて見る物ばかりなラブホテルに興味津々で古町さんの後を付いて行きながらも、お上りさんよろしくあちらこちら視線を飛ばしていた。
 そんな俺を見下ろし、古町さんは沢山の部屋の写真が並ぶパネルを指さす。

「あの……へ、部屋の……希望、とか、は……ありますか?」
「部屋? 部屋かぁ~……うーん……いやぁ、いっぱいあり過ぎて希望って言われても良く分からないので、古町さんにお任せしても良いですか?」
「あ、はい……えっと、じゃ、じゃぁシンプルな部屋で……ここ、とか、どうですか?」
「おお、良いですね!」

 俺が指さされた部屋の写真に食い付いたのを見て、古町さんは慣れた感じで液晶パネルを操作し、出て来た鍵を持ってエレベーターへ俺をエスコートしてくれた。
 そう、エスコートだ。背中にそっと手を回されて、自然な流れでエレベーターまで案内されて、エレベーターの乗り降りですら完璧なまでにエスコートされてしまった。
 喋るとオドオドしてるのに動きは凄くスマートで、これは相当身に付いてるな。

「あの……どうぞ」

 扉の鍵を開けた古町さんに促され部屋に入ってもなお、古町さんのエスコートは続く。
 俺のジャケットをさりげなくハンガーに掛けてくれたり、俺の鞄を受け取って置いてくれたりで部屋よりも古町さんの完璧な所作の方に目が行ってしまう。
 マジで、なんなのこのスパダリ……

 若気の至りで経験豊富とは言ってたし、モテてたっていうのも否定しなかった位だったけど! この人、本気でモテまくってた人だ!! 寧ろ今でもモテてるだろ! 普段はオドオドしてるけど、顔は良いしエロテクあるしスパダリだもんな。オドオドしてるけど。
 それだって可愛いらしくないか? むしろプラスだろ。

 なんて考えてたら、ジッと古町さんを観察するみたいに見てしまってて、当の古町さんが目線を彷徨わせながら、え、あ、う……って母音を漏らしながらさっきよりも小さくなってしまった。

「あ……あの……廣邊君、あ、え……なにか、えっと」
「あ! すいません。いやぁ、古町さんって本当にモテるんだろうな、と思って。このホテルも良く利用するんですか?」
「う……あ、えっと……すいません、マナー違反なのは分かっていたんですが……昔に何度か……何分、こういう所を利用するのも数年振り、でして……それで、あの、少しでも勝手が分かっている所の方が、良い、と、思って……すいません」
「ああ! 待って待って! 別にそんな。え? 謝って貰う様な事ってあります?」

 予想外にしょんぼりと平身低頭、頭を下げられてしまって慌てる。

「他の誰かを連れて来た事のあるホテルに誘うというのは、少々デリカシーが……」
「そうなんですか?」
「あ! 勿論、この部屋は利用した事はありませんので!」
「全く気にしてません! 大丈夫ですから!!」

 このままだと土下座しそうな勢いの古町さんを宥めすかし、背中を押しつつ先に風呂へと入って貰った。
 その間に、俺は今度こそラブホテルなる物を満喫する為にも部屋の中を見て回る。
 俺の童貞丸出しの知識と先入観で見ると、かなりお洒落な室内にワクワクが止まらない。

 女性が利用するのを想定しているからかアメニティがわんさかあるけど、俺には用途不明で全部同じに見えるし、ベッド側にはコンドームが2個あったけど、サイズがMサイズじゃ古町さんには使えないな。
 ガサゴソ引き出しや戸棚と色々開けまくり、最後に冷蔵庫が2個あるのを発見。と思ったら、片方はアダルトグッズの自動販売機で、オナニー好きとしては思わずマジマジと物色してしまう。
 
 なるほど、これがラブホ名物?アダルトグッズの自販機か……
 電マにピンクローターはお約束だな。おお、バイブが何種類もある。あ、ピストンバイブだ、欲しいかも……え~? 八千円かぁ、貧乏学生には高いなぁ。アナル用グッズは無いのか?

「廣邊君?」
「だわぁ!!」

 アダルトグッズの自販機に夢中になり過ぎた俺は古町さんが風呂から上がって来ていた事に気が付かなかった。
 後ろを振り向くと、ボクサーパンツにガウンを羽織っただけの肉体美を晒した古町さんが戸惑った顔で立っていた。

 やっべぇ、思いっきりアダルトグッズの自販機を物色している、凄いダサい所を所を見られてしまったぞ。

「あ、いや、ちょっと、物珍しくって……アハハ、すいません。童貞感丸出しで」
「え!? 童貞?」

 しまった! ダサい所を誤魔化そうと思って更にダサい事を暴露してしまった。
 古町さんもそんなにあからさまにビックリしないでよ! そりゃぁ、古町さん位に経験豊富な人からしたら、童貞なんて非モテの看板を背負った存在は珍しいかも知れないけど。俺が生粋のオナニー愛好家だって所で察して欲しい。

「じゃ! 俺も風呂入って来ますね~」

 俺が童貞とか、そんな話は無かった。いいね! って事で俺は風呂場に逃げた。
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