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3章

第4話

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《FRside》

「手伝ってくれてありがとう、アル」
「妻を助けるのは当然の役目だろ」

 隣を歩くアルが甘い台詞を吐きながら、俺の頭に軽くキスを落とした。あぁもう、本当にかっこいいんだから。
 ちょうど昼頃。今日はアルが久々の休日だったため、昨晩は大層盛り上がった。ついさっきまで寝ていたが、大図書館へと本を返すのを手伝ってくれた。
 アルの横顔を見上げると、アルもこちらを見てフッと微笑んでくれる。何とも幸せな時間に胸を躍らせていると、アルの手がそっと俺の腰に回った。するりと下から撫で上げるようなその手つきに、体がビクッと反応してしまう。

「ちょっとアル…。こんなとこで何考えてんの…」
「たまには部屋じゃねぇ場所でヤるのもいいな」
「ダメに決まってんでしょ!」

 腰を撫でている手をパシッと叩き落とすが、アルがそんなことで怯むはずもなく…。いやらしい触り方に昨晩の出来事を思い出す。お互いの愛を確かめ合うような、体を激しく貪り合うような夜だった。こんな誰が来るかも分からない場所では嫌なのに、体はそれに反して反応してしまう。アルの服をギュッと掴み、見上げる。

「アル…ダメ…」
「そんな顔で言われても煽ってるようにしか聞こえねぇよ」

 ゴク、とアルの喉仏が上下するのが目に入る。ガシッと腕を掴まれて、人通りのない場所へと連れて行かれる。そして体を壁へと押し付けられた。この前読んだばかりの恋愛の物語にもこんな描写が合ったような気がする。壁ドン、とやらだ。

「んぅっ、…」

 今朝振りのキス。唇が深く重なり、自然と体も密着する。腕を掴んでいた手はお尻に添えられ、ぎゅむっと揉みしだかれた。後孔からとろりと愛液が溢れ出てくるのを感じて軽くパニックになる。ただでさえ、昨日のせいで敏感になっているんだから、こんな場所で触られてしまったら発情してしまうのも無理はないよ。
 ぴちゃぴちゃとやけに大きく響く唾液の混じり合う音。ねっとりと口内を舐め回されるせいで、体が震える。お尻を揉みしだいていた手は割れ目に移動し、服の上から中指で後孔を押し潰された。

「んんっ…!?」
「は、ん…フィリア…」

 キスの合間に漏れる吐息とアルのいやらしい低い声に、内太腿が痙攣を起こす。もう我慢できないから、直接触って欲しい。アルのその長くて逞しい指で俺のイイ場所を弄って欲しい。そう思ったその瞬間…。


「どうか妹たちには手を出さないでください!」


 近くからそんな声が聞こえてきた。アルは名残惜しそうにゆっくりと唇を離す。離れたくないと言わんばかりに唾液が糸を引く。それを無理矢理断ち切るように舌で唇を舐めたアルの仕草に、キュンと胸が高鳴ってしまった。今はそんな状況ではないのに…。
 さっきの大声の持ち主は、たぶんエルダ様だ。アルは俺から離れて、声がした場所をそっと覗き込んだ。俺もその後ろから顔を出す。想像していた通り、アイダ様とイヴダ様を守るようにして立ちはだかるエルダ様がそこにいた。何人かの歳若い男性に囲まれている様子。見たことのない人たちだ。

「うるせぇな~。根性無しが!!!」 
「ほんと、何でこんな腰抜け野郎が次期当主なんだか。あのババアも相当頭イカれたのか?」
「そっちの可愛い可愛い子たちの方が次期当主にお似合いだぞ?」

 次々と聞くに絶えない酷い言葉を投げかけていく。黒髪に青紫の瞳。アーディ・エウデラード家の分家の息子たちだろう。あのババアとは、アーディ・エウデラード家御当主様のことだ。自分たちが直属に仕えるお方に、よくもそんな無礼なことを言えたものだ。あんな頼りのない小さな背中で必死に二人の子供を守っているなんて、やっぱりエルダ様は立派な人。それにしてもあのままにしておいたら直接的な危害を加えられるかもしれない。早く助けないと危険だ。そう思った俺は、一歩を踏み出す。

「おい、フィリア」
「アルも来て」

 有無を言わさぬ顔でそう言うと、アルは少し黙った後、大きな溜息をついた。アルはこの場では傍観者にでもなるつもりだったのかもしれないけど、俺は放っておけない。

「アーディ・エウデラード家への侮辱は本家への侮辱になるのでは?」

 俺の声に全員が一斉にこちらを見る。エルダ様は俺の顔を見るなり「どうして…」と呟いた。アイダ様とイヴダ様は、緊張の糸が一気に途切れたのか瞳から大粒の涙を流しながら俺の元へと駆け寄って来る。その場に屈み、二人を抱き締めた。

「じ、次期御当主様…」
「お、奥方まで…な、何故ここにっ」
「誤解なのです!」

 後ろにいたアルは、俺と子供の様子を見て驚きと不服が混じったような顔をしている。この子たちと仲良くして貰っているなんて、アルには言ってなかったもんな…。
 アルは三人の男性へと視線を戻すと、冷たい口調で言い放つ。

「何が誤解なんだ。言ってみろ」
「そ、それは…」
「ただ俺たちは、根性無したちと遊んでやろうと思っただけで…」
「そ、そうです!俺たちは悪くないです!」

 先程まであんなに威勢がよかったのに、今ではすっかり萎縮してしまっている。一部始終を見られていたというのに往生際が悪い男共だね。アルはどこからか黒い手袋を取り出して、装着していく。その様子に男性たちの顔がみるみる真っ青に染まっていった。

「嘘つけとは言ってねぇよ」
「ど、どうかお許しください!!!!!」

 地を這うような絶対零度の声色。男性たちは自分が今からどんな目にあうのかすぐに分かったようで、その場で膝をつき額を地面へと押し付けた。

「この件はアーディ・エウデラードの当主にもおまえらの当主にも報告させてもらう。妥当な処分をそこで受けろ」
「は、はい…」
「殺さないで、くださいますか…?」
「さぁな。気分次第だろ」

 そう言ったアルは、心底不機嫌な顔だった。その気になったらいつでも殺せるんだぞ?とでも言うような、そんな顔________。





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