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re.《244》カマ
しおりを挟む「座れ」
「··········」
彼の目の前まで来たミチルは戸惑った。
ベンチは仰向けに横たわったでかい図体に埋まっている。
首を傾げていたら、相手の長い指はトントンと自身の下腹部あたりを弾いた。
どうやらそこに腰かけろということらしい。
彼の胸元に手をやって、恐る恐るよじのぼる。
彼が言ったのだ。
重いからってわめき出しても、自分のせいじゃない。
「危ねぇな」
「にゃんっ」
ずり落ちそうになったら腰を支えられて、アヴェルの上に馬乗りになった。
デカイ上半身がちょっと起こされる。じとりとした目線は、自分のテリトリーに入ってきた獲物を確かめるようなそれだ。
そして不服そうに眉がゆがまれる。
イカつい美形が訝しい顔をするのはちょっと怖い。
言う通りにしたじゃないか。
「虐められたのか?」
「!」
くるぶしを掴んだ手が膝からももの方へと伸びてゆく。
寝起きでバルコニーに来てるからスリーパー姿だ。
「臭いでわかるんだよ」
彼らの言う臭いは、多分フェロモンのことだろう。
臭いのは仕方ないけど、その臭いを嗅ぎとる能力が、アヴェルは他と違うのだろうか。
でも、臭いで何がわかるって言うんだ?
昨日から沈んだ気持ちを隠すように俯く。
ミチルは知らない。
彼の「分かる」が、臭いでもなんでもない、根拠などない第六感だということを。
ただいつも目で追っていたから気がついただけのことだ。
獲物はカマをかけられているとも知らずに案の定俯くから、アヴェルにとってはそれが答えだった。
「なぁ、お前って·····」
────なぜハッキリ嫌だと、助けて欲しいと言えないのか?
そんなこと聞かなくてもわかってる。
ミチルのことを全部知れる訳では無いが、ずっと見てきたのだ。
彼が故郷でどんな扱いを受けていたか。
植え付けられた悲しい過去が、今も彼を苦しめていることも。
そしてそれには、自分やほかの皇子達の愚かな過ちも含まれている。
感情に任せてミチルを問いただすなど言語道断だ。
「おい、また虐められたら俺に言え」
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