悪魔皇子達のイケニエ(番外スピンオフは別紙へ移動)

亜依流.@.@

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一章

70.わるい子

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後ろから、強い力に身体を引き寄せられた。


「·····───こんなところ、来たらダメだよ」


「ひゃう」


足先から地面が離れてゆく。
後ろの人物にくるりと体制を反転させられ、ぬいぐるみみたいに抱きかかえられた。

清々しくて、少し寂しい匂い。
こちらを見下ろすヨハネスの瞳は、影のせいで暗く感じた。

ミチルは大人しく抱えられて地上へ出た。


(良かった)


あのおかしな空気に戸惑っていた。

  彼の言うとおり、ここは自分が立ち入ってはいけない場所のようだ。
たまたま転げ落ちた時から理解していた。勝手な行動をすることさえ許されていないのだから、もしもここにいるのを見つけたのがヨハネスでなければ、大目玉をくらっていただろう。

良かったと、再度、心の中でつぶやく。
彼は変人に変わりないが、暴力的ではないし、声を荒らげて怒るようなこともしない。
黙っていてくれと頼めばダリアにもバレずに済むはずだ。

早速お願いしようと相手を見あげる。
下から見ると、高い鼻やまつ毛が女神の造りものみたいだ。
呼びかけるが、彼はこちらを見なかった。


(··········?)


聞こえなかったのだろうか?


「ヨハ·····」

「わるい子」


陶器みたいな唇が呟いた。
びっくりして目を見開く。
ヨハネスは前を向いたまま歩き続けた。

やがて扉の前にたどり着いた。
自分の部屋の前だ。
彼の片手が離れてゆく。扉を押す白い手は、水にしては光沢のある液に濡れていた。

ベットのふちへ下ろされる。
それまで一言も言葉を発さないヨハネスは、やはり無言のまま戸棚の方へ行ってしまった。

なんだか後ろ姿が冷たい。
シワひとつない白シャツのせいで、さらに素っ気なく見える。


「動いちゃだめだよ」


ベットの前に跪いた彼がこちらの足首を掴む。
コットンに含まれた消毒液が、ツンとエタノールの匂いを漂わせる。
傷口に少し染みた。


「痛い·····」

「··········」


ヨハネスは震えた足先を固定するため、手のひらに少し力を入れただけだった。


"お利口さんだね"


いつもだったらそんなことを言って、大袈裟なくらい心配したり頭を撫でたりしてくるくせに。
次の瞬間、ミチルは甲高く叫んだ。

茶色い傷薬は幹部に塩を塗るような痛みを催した。
それがもう一度傷口を拭おうとする。


「や、やだ」


ミチルは足を振り上げてヨハネスから逃れた。

ベットを後ずさり、シーツをにぎりしめる。


「おいで」


呼び掛けには首を横に振る。
痛いのは大嫌いだ。
だからもう治療はいらない。彼だって分かってくれるだろう。

しかしヨハネスは、ゆったりした声で呟いた。


「今日のうさぎちゃんはわるい子だよ」

「!」


幼い子供を叱り付けるのと同じような言葉だ。
知ったことではない。幼児じゃないんだから、彼にわるい子だと責められたって、痛くも痒くもない。

全部こっちの勝手じゃないか。
何かあっても、自分でなんとかできる。

それなのに、彼に怒られるのは、なんでこんなに悲しい気分になるんだろう。


「いや」


わるい子だったらなんだって言うんだ。
頭を撫でて褒められるのが嬉しかったなんて嘘だ。


伸びてきた腕は、押しのけたはずなのに、容易くこちらの両手をベットへ押さえつけた。
もがいてみるが、ビクともしない。


「·····!」


半開きになった股の間に硬い腿が侵入してきた。


「··········ぁ·····!」


内側の手首に弾力のある湿りが当てられ、ちゅうと吸いつかれれば、そこは熱く痺れた。

口付けは手首から腕、上腕へと、徐々にこちらへ近づいてくる。
唇に吐息がかかる。ミチルは思わず目を瞑った。


「うさぎちゃん·····」


触れることなく気配が離れていったころ、我慢の知らない本能が飛び出していた。

獣耳を揺らすのは易しく感情のない声音だ。


「──逃げられないね」






















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