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一章
71.怒ってる?
しおりを挟む両手を束ねられ、片手で拘束される。
股に押し付けられた膝が少し離れる。不安に思って見上げる視線に気づいた彼は、しかしニコリともしてくれなかった。
空いた片手が触れたのは、薄い布越しの局部だった。
「ひ·····っ?」
指先はなぞるように動き始めた。
柔らかくはない爪に引っかかれ、もどかしさに戸惑う。
「ん、や·····っ」
ヨハネスはやめてくれなかった。
細い亀頭の先をくすぐられ、下着の中はまたじんわり湿り始める。
奥歯が痒くなるようなじれったさに腰を浮かせる。腹の下が弱く痙攣した。
「や·····ヨハネス·····」
彼らと一緒にいるようになってから、濡れやすくなったように思う。
気のせいではない。少しずつ変えられて、今では彼らの匂いを嗅ぐだけでも妖しい気分になる。
気づかれたくない。
しかし、願いは打ち砕かれた。
「甘い匂いがしてきた」
甘い声が耳の付け根に囁く。
ゾワゾワと毛が逆立つ。視線をさまよわせたミチルは、ギョッと目を見開いた。
シアンの瞳は濃く色付いていた。
これは、自分を執拗く貪る時とおなじ眼差しだ。
「·····い、ゃ·····っ」
身体が反応するのは生理現象だ。恐ろしい思いをして血管が縮むのと同じように、彼らに孕まされる準備を始める。
現在、避妊薬は摂取できない。
間違いがあったら取り返しのつかないことになる。
「こわくっても、やめてもらえないよ」
流れた涙をぬぐいながら、彼は絶望的なことを言う。
「もし、1人でどこかに迷ったら」
「ん、ゃ」
掴まれた腕が少し痛い。
膝で股下をさすられると、変な声が出てしまいそうだ。
「痛くて泣いちゃっても、うさぎちゃんひとりじゃ·····」
彼は自分がこの城から逃げようとしたとでも思ったのだろうか?
半音低くなった声が耳元に囁かれる。
次には、ビクビクと身体が浮き上がった。
あまりに強い刺激だった。
「ニゃッ"」
尖った奥歯に耳を噛まれたのだ。
気づいたのは数秒後。未だジンと痛みを広げる耳元を舐められ、また口を開ける気配がする。
「や·····!──にゃぅ"っ」
強く噛みつかれ、ざらついた舌で掬い取られる。
そうしながらも陰茎をなぞられれば、ミチルは呆気なく達した。
自分でも訳が分からないほど、強制的な射精だった。
「ニャ·····っ·····ぅ、っ·····♡」
今日のヨハネスはなんだか怖い。
まるで別人みたいだ。
「·····ごめんね、うさぎちゃん」
甘い声に呼応して蕾が縮む。
「わかって欲しくて·····」
両手はそっと開放された。
ミチルはしばらく鼻をすすっていた。
ヨハネスの言う通りだ。自分の勝手なんてとんでもない。
彼らの目の届かないところで何かあったら、助けてくれる人は誰もいない。
保護下で言うことを聞かないというのはそういうことなのだ。
噛み付かれた耳を優しく撫でられる。
なだめられるようなそれに安堵していた。
(もう、怒ってない·····?)
指の隙間から見上げたヨハネスの表情は穏やかだった。
そして初めて気がついた。
彼は初めから怒っていたのではない。
自分のために叱られるのは初めてだった。
「·····?」
用事が済んだはずだが、ヨハネスは離れていかない。
頬を撫でた手のひらが首筋、肩口へと降りてゆく。いやらしい触り方に、ミチルはぶんぶんと首を振った。
「嫌?」
「·····ん·····」
逡巡を誤魔化して頷く。
優しくも抜け目ない、普段のヨハネスだ。
隙あらば触れてこようとするのを阻止するために背を向ける。シャツがズリ下がったうなじへ、イタズラするように噛み付かれた。
「ひぁぁ」
汚れた服は脱がされて、腹の上には赤い斑点が彩られる。
抵抗の甲斐あって新しいスリーパーに着替えさせられたのが救いだ。
その後は、結局ベットでじゃれ合っているうちに日が暮れてしまった。
身体がとろけそうな時、初めてヨハネスを見た日のことを思い出す。
女神が男になったような美貌の青年だ。彼を天使のようだとさえ思った瞬間もあった。
性的なこととは無縁な、どこまでも澄む湖を思い浮かべたりもした。
全部間違いだ。
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