悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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一章

16.持ち帰り

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彼の腕が振り上げられる。
殴られるのかと思って目を瞑るが、痛みはやってこない。
後ろに回った手が軽く背を叩いた。


「鈍臭いやつだな」


おまけで頭を撫でられる。
肩にかけられた布が滑り落ちる。

ミチルは素っ裸のままアヴェルを凝視した。

なんか、変だ。


「じっとしてろよ」


彼の奇行は続いた。

アヴェルが取りだしたのは黒のチョーカーだった。
真ん中には、リンリンと高い音を鳴らす鈴が付けられている。ペット用の首輪みたいだった。


「これで良いだろ」

「·····?」


あろう事かそれをこっちの首に嵌めてきた。
何がいいのかさっぱり分からない。
彼は伴侶をペットかなにかと勘違いしていないだろうか。でなければ、こんなものをつけるなど考えられない。

「どこかに行っても見つけられるようにするためだ」という。
やっぱりペットと勘違いしているようだ。


「お前、話せねえのか?」


ちまちまスープを飲んでいると、相手は新しいシャツに袖を通しながら聞いてきた。
ミチルはもごついた。

人間界で、自分の話を聞いてくれる人なんていなかった。
注目を浴びると鳴き声が出てしまいそうで、口を開けることすらなかった。ずっと手入れの届かない部屋に閉じ込められていたのだ。


「俺の名前は?」



暫くしてアヴェルが問いかけてきた。
真顔はどこか不服そうにも見える。

ミチルは初めて彼の名前を呼んだ。























「·····なに、その首輪?」


道端でばったり会ったのはハインツェとヨハネスだ。
この二人、昨日は取っ組み合いの喧嘩をしていたというのに、もう仲直りしたらしい。


「首輪は首輪だろ」

「勝手に付けんなよ。つーかもっと派手なのねえの?光るヤツとか」

「地味なのが良いんじゃねえか」


彼らの話には着いて行けない。
ヨハネスと目が合うと、彼は


「すごく似合ってて可愛いね」


と、満面の笑みで嫌味を言ってきた。


「ねーねー、チル」


近づいてきたハインツェが首輪をなぞる。
つり上がった目が細められる時は、たいてい良くないことを言われるんだ。


「どっちのがヨかった?」

「·····へ·····」


長い指はアヴェルをゆびさし、そして次に自分自身を指す。


「俺だろ」


自信満々に言ったアヴェルに失笑が続く。ハインツェはやれやれと両手を振った。


「俺の時は入れる前からグチョグチョだったもんね、チルチル」

「10回はイかせた」

「イッた回数とか(笑)多すぎて数えてらんねえっしょ」

「なんだ、逃げんのか?」


二人の旦那が真昼間から、それも大声で、情事の話を共有している。
有り得ない。彼らは最低だ。
ミチルは再認識した。

存在を消していると、ひょい、と、不意に身体が宙に浮いた。
覚えのある高さだ。


「··········?」


張り合うふたりの声が遠ざかってゆく。
ミチルは自分を抱えて歩くヨハネスを見上げた。
どこに行くんだ?
以前に、人を物のように持ち歩くのをやめて欲しい。

こっちを見下ろしたヨハネスが微笑む。
白薔薇が咲くような優美さだ。

たまに、彼は人の話を聞いてるのか分からない時がある。
昨日も、さっきだってそうだ。

下品な話を思い出して、ミチルはギュッと目を瞑った。
ヨハネスも2人の話を聞いていたはずだ。
それなのに、彼は全く興味を示さなかった。まるであの話の内容が分からないかのように無視したのだ。


(もしかしたら、本当に分からないのかも)


ミチルはある可能性にたどり着いた。
もう一度確認してみると、ヨハネスは同じくにっこりしてみせた。
まばゆいばかりの美貌だ。汚いことなど何も知らなさそうな(いや人肉は喰うが)、性的な事に無知でもおかしくなさそうな清い青年である。

薄暗い階段を登り、廊下を進む。
空き部屋をいくつも通り過ぎ、やってきたのは金に縁どられた扉の前だった。

片手で抱き上げられたままもう片方の手が無造作に扉を開ける。

白い部屋だ。
クローゼットとベット、バルコニーに続くガラス扉。
奥には別の扉が繋がっている。恐らくあっちに書斎があって、ここは彼の寝室なのだろう。

突然持ち帰りされた。


「や·····っ」


目の前で羽根が舞った。

柔らかいプラチナブロンドが頬を撫でる。
ミチルは目を見開いたまま固まった。

吸い付くような口付けを落として、ヨハネスは部屋の扉を閉めた。

──なんだ、今の挨拶みたいなキスは?

綺麗な顔が近づいてくる。
またキスされる。咄嗟に突き出した指先が、彼の頬を掠めた。





















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