悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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17.ミルク

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陶器みたいな肌に、鮮血が滲んだ。


「··········!」


自分の爪の先に血が付着している。
ヨハネスのものだ。
謝ろうとしたミチルはしかし、次に目の前で起きた現象に目を見開いた。

傷口が、ふさがってゆく。
たった零点三秒の事だった。

彼は悪魔なのだ。それも、その族の頂点に君臨する皇族である。
浅い傷を治すことなど朝飯前だろう。

背中に冷たい汗が流れた。


「ごめんなさい·····」


呟くが返答がない。
恐る恐る見上げると、アクアの瞳はこれでもかと言うほど見開かれていた。
吸い込まれそうな透明感に息を飲み込む。


「お利口さんだね」


お利口さん。前にも言われた台詞で褒められた。
自分を傷つけた相手に、どうしてそんなことを言うんだろう。
やっぱり彼は少しヘンだ。

片手で姫抱きされたままもう片手で頭を撫でられる。
さっき酷いことをしてしまったので、大人しくしておく。
彼はしばらく頭を撫で髪をすくい、頬に触れてきた。大きなてのひらは簡単に顔半分を覆った。

ヨハネスは部屋に入ってから、いつまでも扉の前に立って、こっちを撫でくり回している。
本当に何がしたいのか意味不明だ。

ミチルはくすぐったくて、ちょっと首を振った。


「··········」


白魚のような指先が鼻をくすぐる。


「くしゅん」


くしゃみが出てしまった。

見つめてくる早朝の湖が、また見開かれて、そして細まれる。


「うさぎちゃん·····」

「·····っ」


彼がこっちに顔を寄せてくる。
身構えるより先に、湿りを感じた。

今度は鼻先にキスされた。


「俺のお嫁さん」

「··········へ·····っ」

「かわいいね」


ヨハネスが囁く。
なんだか嫌な動悸がした。

もう、早くおろして欲しい。
彼は新しいおもちゃに興味津々なようだが、こんなふうに見つめられて長く誰かと密着しているなんて、自分には似合わないことだ。

パクパク口を開閉したのち、ミチルは言葉が浮かばなかった。
辛い日々の習慣は抜けない。恐怖を感じると口は意味を無くし、呼吸が必要な身体は苦しくなる。


「うさぎちゃん、たくさん喋っていいんだよ」


指先が唇を撫でる。


「大丈夫だよ」


だいじょばない。
首を振ると、彼は少し悲しそうに首を傾げた。

ぎゅうと抱きしめられる。
それを最後に、ヨハネスは進行を再開した。
首につけていたチョーカーはそっと外された。


「·····っ」


降ろされたのは柔らかいベットの上だった。
身体が沈む。起き上がるのに苦闘していると、一度部屋の奥に消えたヨハネスが戻ってくる。彼の持つトレイには、銀縁の美しいカップとショコラ、クッキーなんかの菓子が沢山乗せられていた。

カップは引き寄せたサイドテーブルの上に置いて、菓子の乗った皿はベットに置かれる。
食べ物を直にベットに載せるなんてとても行儀の悪いことだ。もしも自分が人間界でした日には、3日間食事を貰えないだろう。


「うさぎちゃん、甘いの好き」


後ろに回ったヨハネスがこっちを抱き上げ、膝の間に落ち着かせる。
甘いものは大好きだ。
ミチルは頷いた。


「好きなだけ全部食べていいよ」


何度見ても長すぎるくらいの人差し指と親指がチョコレートをつまむ。
顔の前に持って来られるから、ミチルは困惑した後ちょっと口を開けた。

滑らかな曲線が舌を滑る。鼻から抜ける上品な甘みは、今まで与えられたどんな菓子より美味しかった。
続いてクッキーも差し出される。
それも含んで口を動かしていると、後ろから頬を撫でられた。


「ふくらんでる」


ふふと笑って、ひたすら頭を撫でられる。
なんだか恥ずかしくなって咀嚼を飲み込む。長い腕がそばのテーブルに伸びて、こっちへカップを差し出してきた。


「·····」


ホットミルクだ。
そういえばアヴェルも、ミルクがいいのかなんて聞いてきた。
猫みたいに鳴くからミルクを飲ませておけばいいと思ってるんだろうか。

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