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一章
13.小動物
しおりを挟むよりによって、気に入っていたシャツとベスト一式を尻に引き、明日早朝の会議用に掛けられていたスーツは、細い手の中でぐちゃぐちゃになっている。
このどマヌケ餌袋───喉元まで出た暴言を飲み込む。
乱暴な言動は控えろと、説教を食らったばかりだ。
「ああ、クソ、この餌袋が·····」
苛立ちを殺し、限界までマイルドにしたはずだが、宙ぶらりんになったままの小動物はまた目尻から水を零していった。
そして、震える両手は更に強くスーツをにぎりしめる。
しわくちゃだ。
「泣きたいのはこっちの方だぜ」
「ヒック」
「··········」
この前より匂いが和らいだ気がする。
例の薬を服用したのだろうか?
アヴェルはミチルをベットへ投げ落とした。
何はともあれ、美味いエサに変わりはない。今夜、ちょっとだけいただくとしよう。
「この俺の服を台無しにしたんだ。耳の一本くらい寄越せるよなァ?」
転がった餌がこっちを振り返る。
本当に面白いくらい震えている。服を脱がせようとすると、相手はやはり無言のまま背を向けてきた。
泣き顔は可愛いと思ったが態度はふてぶてしい。
少し虐めてやろうと、スラックスと下着を剥いだ尻に噛み付いた時だった。
「ひニャア·····っ」
「·····???」
大袈裟に震えた身体から、懐かしい鳴き声が聞こえてきた。
辺りがしんと静まり返る。
確かに、ミチルから聞こえてきたものだった。
「あ·····?なんだ、今の」
「·····っ」
ミチルは無言を貫いている。
見えるのは震える肩口と、マロン色の細い髪の毛だけだ。
「おい、なんだって聞いてンだよ」
尻を叩くと、「はくっ」と息を噛む音がした。
意地でも無言を貫くらしい。
手加減してやったが、もう少し強く叩いても良さそうだ。小さな尻は5、6回たたくと、みるみる真っ赤に染った。
このまま血が出るまで叩き続けて、服をだめにしたことを後悔させてやろうか。
アヴェルは先程言い渡された注意も忘れ、脳内で残酷な遊びを試行錯誤する。
「兎ってよォ、ケツと耳どっちが美味ぇんだ?」
ミチルに聞いてみたが、返答がないので独り言になってしまった。
それにしても喋らない。
そういえば講義の時もカタコトだった。言語障害でもあるのだろうか?
アヴェルは柔らかい髪をつかみあげ、ミチルを覗き込んだ。
「おい、無視してんじゃねえ、ぞ·····」
ドスをきかせた声はしりすぼみに消える。
ミチルは顔を真っ赤にして、ひたすらシーツを濡らしていた。
眉は弱々しく下がり、薄い唇は血色が良くなって桃色だ。
そんなカオをして、今までどうやって声を殺していたのだろう。
思わずまじまじと見つめていたアヴェルの下腹に、柔らかいものが押し付けられた。
「··········?」
そこには、白い毛玉があった。
柔らかく線の細い毛が、丸い形を作っている。
それはこっちよりもはるかに高い体温を持ちふわふわ揺れていた。
ミチルの尾てい骨辺りにくっついている。
シッポだ。
「にゃう·····っ?!」
それを握りしめるのと同時に、ミチルの尻が跳ね上がる。
思わず手を離す。
やっぱりさっきの鳴き声はミチルのものだ。
四、五歳の頃、人間界から連れてきた動物を飼っていた。
撫でようとすると逃げて、しかしたまにすり寄ってくる。唯一アヴェルが愛情を注いだ動物だった。
ミチルの鳴き声は、そのネコにそっくりだ。
「··········」
再度、今度は撫でるようにして手のひらで包んでみる。
「にぁ·····、っ?·····ゃう·······っ·····♡」
さっきふてぶてしがったのが嘘みたいにか弱い鳴き声だ。
あの猫と違うのは、ただ戸惑うほど艶っぽく鳴くことくらいだった。
「お前、ここ気持ちいいのかよ」
首を振るミチルを見ながら、アヴェルは毒気を抜かれてしまった。
姿を現したのは温かな耳だ。
甘噛みすると、それは震えながらうなだれた。
「イイんだろ?」
「にぁ·····っ♡」
シャツをひん剥いて、こっちを見ない彼の上に覆い被さる。
尻尾をしつこく撫で回していると、だんだん吐息が甘くなってゆく。
感度が良すぎるにしても、答えないなら感じないふりくらいしたら良いのに。
「なァ」
囁きかけると、甘い匂いを振り撒く耳がピクピク震える。
怯えながらも感じているのを知りながら、耳の付け根に噛み付く。
しゃっくりに混ざって悩ましい喘ぎ声が聞こえ始めた。
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