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〖第十四話〗
しおりを挟む帽子を脱いだディックは、ヒラヒラと手を振ってみせた。
「リチャード卿」
セシルが彼に会釈する。
どうやら、ディックとはリチャードの愛称だったらしい。
「イヴァン様は不在です」
「ああ、知ってるよ」
午後から約束をしているから早く来たんだと言うディック。
彼の目的は、ネロにあった。
ディックは初めて会ったときのようにネロの頭を撫でる。
スッキリとした二重は、優しげに細められた。
「可哀想に。冷血ご主人様が居ない間、今度は意地悪な執事に虐められてたのかな?」
傷がないか見てあげよう、と囁くディック。
こころなしか息が荒い。ネロの腰にまわされかけた手は、セシルに阻止された。
「少しくらい味見したっていいじゃないか」
ディックは諦めたように首をすくめ、ベッドに腰かける。
「それで、君はさっき大分鬼気迫る様子だったけどどうかしたの?」
「ネロ様が御乱行遊ばせているようでしたので」
セシルは変わらず無表情で答えた。
ディックが思わずというふうに吹き出す。
「この可愛い仔ネコちゃんは、ご主人サマの留守中に一体何をしてたのかな?」
ネロの頬を、長い人差し指が撫でた。
セシルが大きな咳払いを落とす。
ディックは「はいはい」と首を振った。
「御乱行遊ばせね、ネロのエロ気に執事が御乱行遊ばせないと良いけどさ」
ぶつぶつ言いながら、彼はネロに視線を戻した。
「とりあえず、この鎖は外しちゃおうか。セシルが鍵を持ってるんだろ?」
「致しかねます」
セシルが、否応なしに提案を却下する。
「イヴァンから許可をもらってる」
ディックは得意気に宣言した。
セシルはベルトに掛けていた沢山の鍵の中から正確に一つだけを選ぶ。
彼は絹手袋を外し、ネロの首輪に触れた。
角ばった手が首元へ直に触れる。ネロは、なんだか変な感じだった。
無意識に身をよじらせる。
「何だこいつ、俺の手で身体ピクピクさせやがって…感じてるのか?えっろ…」
「リチャード卿」
ずしっ、と威圧感のこもった声が、自分の行動へ勝手に台詞を加え出したディックを咎める。
悪かったよと謝るディックに、悪びれた様子はない。
セシルはネロから首輪を外した。
鎖から開放された首元が軽い。
ネロは飛び跳ねるようにベッドから降りた。
力を入れたはずの足首はしかし、かくりとバランスを崩す。
「あっ」
転びかけたネロは、セシルに支えられ危機を逃れた。
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