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《121》意味不明

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「僕以外の人とあんまり話してるイメージないけど····」


整った顔立ちは、キョトンと首を傾げた。


「パトリックくんがいるのに、他人と話す必要があるんですか?」


「·····ん?」


デリックは考えるように視線をさまよわせてから、付け足した。


「パトリックくんに関することなら話す必要はあると思いますが」


「えーと」


聞けば聞くほど意味不明だ。


「僕は、コンラッドくんが隣にいても他の人とも話すし、えーと、他の人もそうじゃない」


頭が混乱してきて、早口に言ったセリフは、自分すらよく理解していない。

デリックは仕方なさそうな顔で笑った。


「あ····はい、もちろんパトリックくんは他の人と話してもいいんです。ただ俺が···」


ノワは頭を抱えこみたくなる。
ひしひしと伝わってくるのは、初々しい好意だけだ。

こんなに好かれるようなことをした覚えはない。


「·····どうして、僕と仲良くしたいの?」

「!」


向けられたのは、あどけない表情。
彼は、一生懸命この場に相応しい言葉を探しているようにも見えた。


「パトリックくんは、格好よくて優しくて、勇敢で」


かっこいいとか優しいという言葉が似合う人間なら、他にも山ほどいるだろう。
勇敢というのは、身の程もわきまえず生徒会や臨時監督を務めていることに対する皮肉だろうか。


「可愛いです·····」

「···············」


ノワは渋い顔をしかけ、慌てて笑みを取り戻す。
目の前の男に、自分はどう映っているのだろうか。

最後のは聞かなかったことにして、辛うじて「ありがとう」と返す。
休憩時間は残り数分だ。残った水を喉に流し込みながら、ノワはデリックが一滴も水を飲んでいないことに気づく。

休憩時間が始まってすぐ、彼はこちらに走り寄ってきた。
それも自分の分など放ったらかしに、ノワの飲み水だけを汲んで駆けて来たのだ。


「これあげる」


でかい図体に向かって、ノワは残りの水を差し出した。


「へ?」


彼は驚いた顔をし、1歩後ずさった。


「ですが·····」


「?」


喉が渇いているはずだが、デリックは困ったように眉を寄せ、ボトルを受け取ろうとしない。

遠慮しているのだろうか?


「腕疲れた」


ぶっきらぼうに言いながら容器を押し付ける。
目が合った彼は、練習後すぐよりも汗をかいているような気がした。


「時間なくなるよ」


飲水を促す。
彼は挙動不審なほど瞬きを繰り返した。


「あの·····」


デリックがとうとうそれを受け取る。
回し飲みしてはいけないというルールでもあったっけ。
否、勿論そんなものは存在しない。


「本当にいいんですか?俺が、パトリックくんと同じボトルに、口をつけても····」


いい加減にしつこすぎる。
理不尽だが、苛立ってきた。ノワは口をとがらせた。


「脱水症状なんて起こしたらみんなに迷惑かかる。僕のが嫌なら、捨てて」

「嫌だなんて·····!」


そんな訳が、と呟いた声は、しりすぼみに消えてゆく。

デリックは次の瞬間、ボトルを勢いよく持ち上げた。

ガツ、と、容器が歯にぶつかる音がした。喉仏が大きく上下する。

やはり喉が渇いていたらしい。


鋭い笛の音が響く。
ノワはデリックの腕を引っ張った。


「行こ」

「!」


見開かれたアーモンド型の目は、しばらくせずとろけるように笑んだ。


「はい」


大型犬に懐かれたような気分だ。
不器用で変な編入生だが、悪い奴ではないらしい。











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