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《108》上の空
しおりを挟む数日間立ち直れないほどのショックだが、今日はアレクシスが初めて生徒会役員として顔合わせをする集まりだ。
うじうじしている暇はない。
「アレクシス・ボース・パトリックです。生徒会役員として誠心誠意努めてまいります。よろしくお願いいたします」
1度の狂いもない礼に、我が弟ながら感心する。
ふと、原作を思い出した。
本当なら、無名家紋の出であるアレクシスの生徒会進出は、学園でかなりの話題になるはずだった。
しかし、自分の存在のせいでそれほど皆の関心を引かなくなっていたのだ。
まあ些細なことだし大丈夫だろう。脳内解決かせたところで、ロイドの後ろに、もう1人の新入役員が姿を現した。
ブラックブルーの短髪に、鋭い目。
ノワはあっと声を上げた。
オスカー・ダビド・シヴァー。
第二皇子と共に、今回の戦において大きな功績を上げた家紋だ。
先日の剣練部で、彼は1学年の中で一際良い動きをしていた。
剣の腕前と家紋の格式は殆どの場合比例する。それを知っているノワは、練習後彼について調べたのだった。
1学年の中にも、注意すべき有名人や家紋の者がいる。シヴァーはそのうちの一人だった。
彼は、驚いたようにノワを見つめていた。
「シヴァー?」
何度目かのロイドの呼び掛けに、オスカーはやっと我に返ったようだった。
「····オスカー・ダビド・シヴァーです。よろしくお願いいたします」
促され、抑揚のない声がつげる。
落ち着いた態度は、練習の時とは違い、冷たい雰囲気を感じさせた。
「上の空か?」
ロイドが眉をひそめる。
「申し訳ありません」
オスカーは言い訳もせず謝罪した。
彼は真面目な生徒だ。訳もなくくだらない失態を犯すなんて、ノワには考えられなかった。
その後は、フィアンによって今後1年間のスケジュールが伝えられていった。
解散の声のあと、手を挙げたのはオスカーだった。
「先程の無礼を挽回できるよう、尽力します」
やはり礼儀正しい学生だ。
重い空気を払底したのは、フィアンの含み笑いだった。
「今後に期待してる」
これは、1年前の自分もかけられたことのある言葉だ。
あれは社交辞令だったんだ。
考えてみれば、彼が自分だけに期待しなければいけない理由なんて存在しない。何人に同じ言葉を言ったとしても、ガッカリするのはおかしいことだ。
そしてノワの他に、今現在、同じ空間で似た想いを抱える人物が一人。
アレクシスは、ノワが慕ってやまない男を前に、えもいえぬ劣等感にさいなまれていた。
肩書きだけでは無い。既に感じ取ることが出来る洗練された雰囲気に、フィアンと自分は根本から『違う』のだと、思い知らされるようだった。
「····良い例が、最初の招集に遅れて来たノワが、今ではすっかり全員の信頼を得ているということかな」
ユージーンが、優美な笑みを浮かべる。
どうやら、初日に遅くやってきた1年の頃の失態をいじる気らしい。
「ははは、そうだな」
フィアンが軽快に笑う。
今から一年前、ノワはこの場で冷遇を受け、疎外感を感じていた。
それが今では信頼しているとまで言われている。誇らしくて、ノワはにこりと笑った。
努力は報われる。今改めてそれを確認することが出来た。
不意に、強い視線を感じた。
ノワはニコニコしたままそちらへ目をやった。
「!」
緑青の瞳はハッと見開かれ、すぐに視線を逸らされた。
「シヴァーもなにか目標を決めてみたらどうだ?」
フィアンが提案する。
「目標ですか?」
「ああ」
光を纏って伏せられた黄金のまつ毛は、金粉を振りかけたみたいだ。
フィアンは思い出したように言葉を続けた。
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