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《34》先客
しおりを挟む「好き·····だよ」
「どのくらいですか?」
畳み掛けるようにして聞かれる。
身じろぐと、さらに間を埋めるように強く抱きしめられた。
「い、いちばん、大好き·····」
口にした台詞は、先程とは別の意味を持つ言葉に感じる。
「俺も好きです」
勿論、嬉しいはずだった。
が、釈然としない心のわだかまりを感じる。
ノワはうーんと眉を寄せた。
(なにか、見落としてる気がする·····)
アレクシスの抱擁から開放されたのはそれから10分後。
戻ってこないノワを心配した父親が、声をかけに来た頃だった。
目を覚ました頃、事は既に過ぎ去っていた。
捕らえられた侵入者は5人。
20から30代の大柄な男たちだった。
彼らは叔父に雇われた暗殺者で、ユージーンの暗殺に成功すれば、報酬として頭金の10倍を受け取る予定だったという。
「どういう訳か、彼らが来る前に警報機が作動しまして·····」
刺客は待機していた衛兵団に呆気なく捕まった。
「あの者達の他に侵入者は?」
ユージーンが問う。
侍従はいいえと首を振った。
確かに、小柄な人物を拘束した。
"ジェダイト様!"
アレは、夢でも幻でもない。
そしてその"侵入者"の特徴はしっかりと記憶している。
声、体躯、そして「忘れ物」から絞れば、特定することが可能だろう。
侵入者が自ら非常警報を発動させるとは、気でも狂ったのだろうか。
それも、ただ警報機だけを作動させ去っていくとは──遠くを眺めていたユージーンは、ふと、ある日の出来事を思い出した。
「·····」
「如何致しましたか?」
「·····いいや」
込み上げたのは、ある種の高揚感だった。
『パーティーの次の日の夜』
警報を鳴らすことにこそ、理由があったとするならば?
「本当に」
甘い余韻を持った声が、空中を浮遊する。
「興味深いよ」
出会った頃の印象は、礼儀知らずな新入生。
無知な振りをして、ある時はこちらが驚くような活躍を見せた。
ノワ・ボース・パトリック。
──お前は一体、何者なんだ?
─────────────────
夏季休暇中、ノワは以前と違うアレクシスに悩まされた。
無表情で口数が少ないことは昔から変わらない。
しかしふとした時に、監視されるような視線を感じた。まるで閉じ込めるように抱きしめられたのも変な気分だった。
兄弟同士の抱擁は、相手の腰や背を撫でるものだろうか。
思わず鳥肌が立った時には、正体不明の背徳感にかられた。
(それもこれも、アレクが無駄にイケメンになりすぎるからだよ·····)
長いようで短い夏季休暇が終わり、ノワは始業式の前日に寮へ戻ってきていた。
事は数日前。学園から生徒会のメンバーへ、招集がかかったのだ。
先日のパーティーの反省会でもするのだろうか。
荷物を置いたノワはすぐに生徒会室へ向かった。
「失礼します」
指定された時間の五分前に部屋へ到着し、扉をノックする。
扉を開けた先には先客がいた。
振り返ったのは、スラリと背の高い紳士だ。
「やあ、パトリック」
ユージーンは白い歯をこぼして微笑んだ。
「あ·····」
一度この男に殺されかけたのだ。
口内が乾いて、頭の中は真っ白になった。
扉が音を立てて閉まる。
気まずい。
「いつまで扉の前にいるんだい?」
まるで借りてきた猫のようだ、と笑うユージーン。
容姿だけを見れば、やはりおとぎ話の本からでてきた王子様のようだ。ノワは部屋の中央まで足を進め、会長席の前に落ち着いた。
チクタクという時計の音が、異様なほど耳に響く。
やはり、とても気まずい。
「ところで、休暇は穏やかに過ごせたのかな」
ユージーンが話題を振る。
ノワは慌てて頷いた。
「はい!パーティーが終わってから、実家に帰省しました」
「それはいつ頃?」
「?」
質問の意図がわからない。
「えっと、2週間くらい前で·····」
「へぇ」
相槌は、普段より半音低い気がした。
「では、帰省していない間は寮で休暇を?」
(なんで、こんなこと聞くんだろう)
ただの会話作りなら構わないのだが、それにしては脈絡の掴めない質問だ。
視線が絡む。
微笑んだ彼に見蕩れそうになり、ノワは再びハイと返事をした。
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