猫王様の千年股旅

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猫歴50年~

猫歴60年その3にゃ~

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 我が輩は猫である。名前はシラタマだ。国民がテロリストになって不甲斐ない。

 猫耳テロリストたちを荒野に残して来たわしは、猫耳市の近くに転移した。そして慰霊祭の行われている会場にインホワのフリをして潜り込み、王族席に紛れ込んだ。

「オヤジ~。間に合ったんにゃら、スピーチやれにゃ~」
「いや、まだやることあるんにゃ。すまないにゃ。みんにゃ、テロリストの首謀者はリュウホだったにゃ~」
「ウソ……諦めたはずじゃ……」
「わかったって言ってたニャ……」

 インホワの苦情は、リュウホの名前を使って逸らす。リータとメイバイは国政選挙の時の会話を思い出してくれたから助かった。

「あの時、シラタマさんはこのことを危惧していたのですね……」
「あ、確かにシラタマ殿だけ険しい顔をしてたニャー」
「ちょっとはにゃ。ここまでは想定してなかったにゃ。それより、負傷者はどうだったにゃ?」
「死者はゼロ、重傷者が5人、軽症者もそれほど多くはなかったそうです」

 重傷者はリータとメイバイの外科的治療とサクラの回復魔法で治してくれたので、猫耳市の被害は軽微。銃弾が当たった人以外は、パニックに巻き込まれて足を捻ったか擦り剥いたかぐらいの怪我らしいので、わしは胸を撫で下ろす。

「ところでテロリストたちはどうしたニャ?」
「ちょうど全員キャットトレインに乗ってたから、アメリカに置き去りにして来たにゃ~」
「またとんでもないことをさらっとやって来ましたね……」
「シラタマ殿だからニャー……」

 褒めてもらえると思っていたけど、けっこう引かれちゃった。サクラたちはわしを化け物を見る目で見ないでください。パパじゃぞ?
 ある程度お互いの知り得た情報を交換したら、わしはコソコソと王族席を離脱。裏手でスマホを取り出し、ソウ市にいるイサベレに繋いだ。

 テロの件は情報規制してもらったのでソウ市でも目立った混乱はなく、慰霊祭はつつがなく行われているみたいなので、帰りたい人は帰ってよし。あとでインホワたちが向かうことになっているから、合流するかは各自の判断に任せる。
 次にオペレーターのフユに連絡して、首謀者を報告。諜報部と情報を共有するように指示をしたら、わしは主催者席にいる猫耳市の市長の斜め後ろに立った。

 ちょうどインホワが、わしが書いたスピーチ原稿を読むために壇上に上がったので、市長は頭をブンブン振って「王様が2人……」とか混乱していたので「こっちが本物」と教えてあげた。
 そこでインホワの雄姿を写真に撮りながら、テロリストの件を報告。猫耳市からいなくなった者や、他に仲間がいないかも調べさせる。それらは諜報部に報告するように指示を出しておいた。

 あとは王族席に戻って、リータの膝の上でお昼寝。インホワが何か言っていたらしいけど、寝続けてやった。


 猫耳市での王族の仕事が終われば、全員飛行機に乗り込んで離陸。ソウ市にやって来た。

 ここではたいした仕事はない。慰霊祭のメインイベントはすでに終わっているので、わしたち王族は花を手向けて慰霊碑に手を合わせるだけ。
 ただ、テレビ局のインタビューがあったので、それもインホワに押し付けて全員でニヤニヤ見てやった。インホワがチクる一面はあったけど、わしはメイバイの腕の中でぬいぐるみに擬態していたので、なんとかバレずに済んだ。

 買い食いしまくっていたコリスたちを拾ってキャットタワーに帰ると、インホワがめっちゃキレていたので姿を隠す。というか、寝ないといけないので、リータたちにも協力してもらってフユの部屋で熟睡。フユは迷惑そうにしてたけど……
 夜になったらフユに進捗状況を聞いて、ごはんを食べたら転移。再びアメリカ大陸にやって来たら、朝になっていた。このために寝てたんだよ。


 猫耳テロリストは時差のせいで全然眠れなかったらしく、朝だというのに全員グロッキー状態。その中に、岩に腰掛けて項垂うなだれているリュウホを発見したので、わしはその前に立った。

「さてと……にゃんでこんにゃことをしていたか、答えは出たかにゃ?」

 わしの問いに、リュウホは生気無き目を向けた。

「あんたの言った通りだ……俺は、皆から注目を集めていたオッサンのようになりたかった……のかもしれない」

 リュウホが言ったオッサンとは、拷問を受けて片腕と片耳を失った猫耳族の男。魂からの恨みを子供たちに伝えていたので、その集会をわしがいつも潰していたのだ。
 
「それがわしの問いの正解だとしたら、言うことがあるにゃろ?」
「ああ……」

 リュウホは岩から滑り落ちるようにして土下座をする。

「俺が間違っていた! 本当にすみませんでした! 皆も、俺のせいで罪を犯させてしまった! 申し訳ない!!」

 わしに謝罪したリュウホは、次に仲間に土下座をして、またわしに向き直った。

「俺はどうなっても構わない! だから、仲間だけは、どうか許してください! お願いします。お願いします……」

 涙を流して懇願するリュウホを見たわしは、改心してくれたと優しい顔になった。

「それは無理にゃ」

 その顔を見た周りの猫耳テロリストは許してくれるものだと思っていたのか、開いた口が塞がらなくなってる。

「どうしてだ! 俺だけでいいだろ!?」
「いいわけないにゃ。死者はいにゃかったけど、銃で撃たれた人がいるにゃ。それにこんにゃ大それたことをやられては、国の面子めんつが立たないにゃ。ここで甘い裁きをすると、第二、第三のテロリストが現れて、今度はもっと酷いことをやらかすかもしれないからにゃ」
「見せしめにする気か!?」
「だにゃ。それが、お前たちのやった罪の重さにゃ。まぁわしは命まで取ろうとは考えてないから、素直に事情聴取に応じることをお勧めするにゃ。それ如何いかんによっては……わかっているにゃ?」
「クッ……」

 わしが少しだけ情けを掛けると、リュウホは諦めたように天を仰ぐのであった。


 猫の国では、事情聴取なんて超簡単。契約魔法を掛けるだけで嘘なんてつけなくなるので、犯人はペラペラ喋ってくれる。
 ただ、このままでは無罪の者を犯人に仕立て上げるのも簡単なので、聴取官は専門職に。裁判官から「不正に犯人にしてはならない」と契約魔法を掛けられた者が、正式に聴取官になれるので冤罪事件は起こらないはずだ。

 その契約魔法を教えたのがわしなんだから、余裕で使える。猫耳テロリストを一列に並ばせて、リュウホから順番に1人ずつ契約魔法を掛けながら銃も回収する。終わった者は、ノートパソコンを5台セットした場所に整列させた。
 このノートパソコンは衛星回線を繋いでいるので、各画面の先には裁判官と職員が数人座っている。名前と顔、罪の記録なんかをリアルタイムでやろうという算段だ。けっして、わしが楽がしたいというワケではない。

 リュウホの場合は、もうすでに顔が割れていたのでそこまで詳しく聞く必要はない。裁判官が簡単な動機と市民への発砲の有無、それと何個か質問して5分ほどで終了する。
 その後、リュウホはわしが連れて歩き、仲間の事情聴取をムリヤリ見させる。仲間の名前や住所や職業なんかは画面越しの職員が記録し、それを諜報部と共有。向こうは夜中なので、明日になったら裏取りしてくれるだろう。

 事情聴取は順調にスピーディーに進むなか、お昼に休憩を入れた辺りからリュウホの顔色が悪い。
 それでも仲間の話を聞かせ続けて全員の事情聴取が終わったら、職員が記録していたデータの中の一部を教えてもらったわしは、ノートパソコンをパタンと閉じた。

「いや~……にゃはは。まさかこんにゃ結果になるとはにゃ~……純粋に猫耳族を想っていたのは、2割しかいないとはにゃ~」

 リュウホの顔色が悪かったのは、100人以上いた仲間の動機のせい。わしもまさかの結果なので苦笑いだ。
 内訳は、リュウホの言葉に心酔していた者が2割強。他は理由が様々なので、愉快犯と称する。
 愉快犯の動機は、面白そう、楽しそう、遊んでて給料が出る、暴れられる、人を殺してみたい、頼まれたから、だとか。

 個人的には、3割ぐらいは愉快犯がまざっていると予想していたから、リュウホに見せ付けてやろうと思って連れ回したのだが、悲しい結果すぎてリュウホも一気に老けた。
 こんな結果になったのはおそらくだが、猫の国がお金持ちだから。貧しい国ならお金のためにテロリストになる人は多いだろうが、平和で食べる物に困らない国では愉快犯が増えるのだろう。
 それに猫耳市は、過去に酷い目にあった猫耳族を大量に受け入れてくれたのだから、元帝国人から徴収した潤沢な補助金が溢れていたので、こんなふざけた理由でテロリストになった輩もいるかもしれない。

「まぁ……元気出せにゃ。人生、にゃにが起こるかわからないんだからにゃ」
「うっ……慰めんなよ……」
「それよりも、お前が手の平の上で踊らされていたことも問題だにゃ~」
「慰めるなら最後までやってくれよ~」

 結局は、わしがトドメ。掛ける言葉が思い付かないわしであったとさ。


 事情聴取は朝早くからやったので、夕方前には終了。テロリストたちが何か物欲しそうに見ているけど、わしは塩対応だ。

「リュウホ。キャットトレインの非常食は、あとどれぐらいあるにゃ?」
「俺は何も食ってねぇから知らねぇ……」
「とりあえず調べて来いにゃ~」
「チッ……」

 リュウホは契約魔法で縛られているので、反抗したくても舌打ちが限界。信頼できる仲間だけを集めて非常食を数える。けっこう根に持ってるな。
 報告を聞いたら、もう数日持ちそうだったので何も出さず。ただ、しばらくここに置き去りにしてやろうと思っているので、このままでは確実に尽きる。なのでわしは、契約魔法に引っ掛からないようにゆる~っく指示を出す。

「え~。お前たちは現在、仮の罰を与えられている状態にゃ。だから、わしも何もしないにゃ。腹が減ったら、自分たちでにゃんとかするしかないにゃ。刑が確定するまで、死なないように頑張れにゃ~」

 さすがにこんな荒野では、死んでしまうとブーブー言われたけど、軽く命令して黙らせた。

「事情聴取をした中に、ハンターが数人いたからそいつらに狩りをしてもらったらいいんじゃにゃい? 水魔法を使える者も数人いたにゃ。足りなかったら、この近くに川があるから探せばいいにゃ。直接飲んじゃダメだけどにゃ」

 このセリフには、身に覚えのある者に視線が集中した。

「にゃんだったら、ここに国でも作ってみるにゃ? やりたかったらわしは許可するにゃよ? ここはアメリカ大陸にゃから、土地はけっこう余ってるからにゃ~」

 場所を発表したら、全員絶句。驚愕の表情。故障したキャットトレインを直すか、歩けば帰れるとか思っていたのだろう。

「んじゃ、ちょくちょく顔を出すにゃ~。バイバイにゃ~ん」
「「「「「待っ……」」」」」

 テロリストの待ったはしらんがな。わしは猫耳テロリストが一斉に手を伸ばした姿を最後に、その場から消えるのであった……
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