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第二十三章 アメリカ大陸編其のニ アメリカ横断旅行、延長戦にゃ~
645 猫とオオカミにゃ~
しおりを挟む教会の地下で囚われていた原住民は夕焼けを見ていつまでも泣き続けていたが、日が落ちるのは時間の問題。この原住民はイサベレ教の信者なのでイサベレ達に預け、元奴隷の保養所である公爵邸に連れて行ってもらう。
わしはまだやる事があるので別行動。数日前に関わってしまった奴隷の収用所に走り、中を確認したら裳抜けの空。もうすでに保養所に案内されていたようだ。
これならわざわざ別行動する必要なかったと悔やみながら歩いていたら、猫騒動。砂浜に集まった人も居ただろうが、わしは身長が低いから見えなくて、立って歩く猫を知る人は極一部だったようだ。
道行く人がわしを指差して「猫? 猫? タヌキ??」とか言っている。
「タヌキじゃないにゃ~。猫だにゃ~」
「「「「「喋った!?」」」」」
タヌキじゃないと訂正したのも大失敗。立って喋る猫に驚いたアメリヤ国民は、またパニックになっていた。たぶん猫が喋ったから驚いたのであろう。いや、あんだけ脅しまくった声の主だからだ。
なんだか悲鳴をあげて逃げて行くので悲しいが、わしは屋根をぴょんぴょん飛び交い逃げて行くのであった。
「シラタマさ~ん。こっちですよ~」
公爵邸に着いても、わしを見た事のない原住民が猫騒動。その騒動を聞き付けてリータが駆けて来たので飛び付いた。
「ゴロゴロ~」
「どうしたのですか? 甘えて……」
「にゃんかみんにゃが怖がるんにゃ~」
「猫ですもんね。よしよし」
「もっといい言葉で慰めてにゃ~。ゴロゴロ~」
いつもの事なのでリータは掛ける言葉が思い付かないらしく、優しく撫でるだけ。しかしリータに抱かれる事で猫騒動は落ち着いたので、そのままジョージ13世が会議をしている部屋に連れて行かれた。
「お疲れ様にゃ~」
「シラタマさん!」
わしが労いの言葉を掛けると、ジョージは会議を止めてわしとリータの元へ寄って来た。当然、会議出席者が「猫、猫?」言っているから会議にならないけど……
「ジョージ君もこっちに来てたんだにゃ」
「はい。元奴隷の方に、王が謝罪しなくてはいけないだろうと思いまして」
「堪えたにゃろ?」
「いえ、それが……」
どうやらジョージが謝罪しても、簡単な単語しか知らない原住民しか居ないので、あまり伝わっていなかったようだ。
「あ~……通訳も見付けないといけないにゃ~」
「シラタマさんのような魔法が使える者が居れば助かるのですけど……」
「そっちはわしがにゃんとかするにゃ。それでいまは、にゃにを話し合っていたにゃ?」
「炊き出しの準備をしているのですが、思ったように食料が集まらないのです。議員が隠しているみたいでして……なので、国民から徴収しようかと話し合っていたところです」
「にゃるほどにゃ~。肉にゃらわしがいっぱい持ってるから、今日はそれでいいにゃろ」
「さすがシラタマさんです!」
「これも貸しだから、金は払ってもらうからにゃ~??」
「はい!!」
いまからの食料問題が解決すると、わしも会議に参加。
猫じゃ。だから猫じゃ。猫の国の王様じゃ。タヌキじゃない! 怖くないよ~? あの魔法はイサベレ様だからね~??
会議の内容は、わしの見た目に関する事ばかりだったのでキレたら、わしを膝に乗せて正しく同席しているリータが「アメリヤ王国を滅ぼそうとした魔法は全部わし」とか言い出したので、すかさずイサベレの仕業と訂正する。
それで信じたかどうかはわからないが会議は進んだので、明日以降の食料問題も解決した。
「みんにゃ~。ちょっと集合にゃ~」
公爵邸の庭に出るとイサベレ達は原住民の相手をしていたので、一度集めてわし達も会議。
「モフモフ~。おなかがすいて力がでないよ~」
「ほい。みんにゃもつまみながら聞いてにゃ~」
コリスがあんパンを欲しがる少年みたいな事を言うので、メガロドンの串焼きを全員に支給。モグモグしながら話し合う。
「みんにゃでここの人達を部族事に分けて、魔法が使える人を探してくれにゃ。そのあと、本格的にゃごはんにするからにゃ」
「「「「「モグッ!」」」」」
全員口に肉が入っていたから何を言っていたかわからないが、きっと指示は行き届いたと信じて、わしはジョージ達が集まる広い場所に移動する。
「ほいっとにゃ。こんだけ大きければ、みんにゃに行き届くにゃろ?」
「「「「「あわわわわ」」」」」
そして、20メートルオーバーの黒い魚を出したらジョージ達は腰を抜かしてしまった。
「死んでるから怖がる必要ないにゃ~。いまから捌くから、じゃんじゃん焼いてくれにゃ~」
わしが巨大な魚を簡単に捌くと、ますますあわあわするジョージ達。どうもこんなに小さな猫が怖いみたいだ。
アメリヤ国民はしばらく役に立ちそうになかったので、ヨダレを垂らしてわしを見ていたオオカミ族を呼び寄せる。その中で名前の知っているビジジルと言う立って喋るオオカミに念話で指示を出す。
「先に食べたいにゃら食べてもいいけど、オオカミ族で串焼きを作る手助けをしてくれにゃ」
「ああ。腹を空かせている者が多いのだ。一口だけ食べてすぐに焼かせる」
「う、うんにゃ。そんにゃ感じでよろしくにゃ~」
「やっぱり先に食べるんだ~」と思ったわしであったが口には出さず、巨大魚を捌いていたら、終わった頃にビジジルが戻って来た。
「それにしても、シラタマは凄いな。俺達でも、黒い生き物なんてなかなか傷を付けられなかったのに」
「にゃ? 黒い生き物なんて知ってるにゃ??」
「ああ。一度どこかから流れて来て、俺達の集落が壊滅し掛けたんだ。一族で戦ってなんとか倒せたがな」
ふ~ん。そんなに強くなさそうなのに、黒い獣を倒せたのか。ま、ビジジルでCランクハンターぐらいの強さがあるからいけそうか。でも、オオカミって事は、やっぱりチームプレーが凄いのかな? それとも……
「オオカミ族の中に魔法を使える人は居るかにゃ?」
「まほう??」
「こんにゃ感じの力にゃ」
わしが【鎌鼬】で地面に亀裂を作ると、ビジジルは初めて見たとのこと。しかし不思議な力は持っているらしく、カチナと呼んでいるらしい。
「そのカチナは、みんにゃ使えるにゃ?」
「ああ。強さに違いはあるが、一族の者は全員使えるぞ」
「それ、ちょっと見せてくれにゃ。あっちの壁まで全力で走って、帰りはカチナを使って戻って来てにゃ」
「わかった」
ビジジルは駆け足のポーズをしてから、20メートル先の壁に向かって走る。
二足歩行で走らんのか~い。四つ足じゃわい。それもけっこう速い。さすがオオカミってところか。さて……問題はここからじゃな。
わしがツッコミながら見ていたら、ビジジルは壁にタッチ。わしは【魔力視】と言う魔法を使いながらビジジルを凝視する。
やはりカチナは魔法の違う言い方じゃな。体全体に魔力の膜が見えておるから、間違いなくアレは肉体強化魔法じゃ。
おっと、もう戻って来た。時間にして半分。通常時から、およそ倍ぐらい力が跳ね上がったってところじゃろう。
「ビジジルが使ったカチナってのは、うちでは魔法と呼ばれている力にゃ」
「と言うことは、俺達でも地面を斬れるようになるのか?」
「訓練すればにゃ。でも、オオカミ族のみんにゃ魔法が使えるのは助かるにゃ~」
わしとビジジルが念話で喋っていたら、さっきまで「オオカミ、オオカミ?」とか騒いでいたジョージが近付いて来た。
「そのオオカミって……オオカミ族の??」
「あ、ちょうどよかったにゃ。紹介しておくにゃ。こちらはオオカミ族のビジジル君で、こちらは諸悪の根元であらせられるアメリヤ国王のジョージ君にゃ」
「なんだと……」
「シラタマさん! 言い方ああぁぁ!!」
わしの紹介の仕方が悪かったらしく、ビジジルが毛を逆立てて歯を剥くので、焦ったジョージにツッコまれてしまった。
「にゃはは。ちょっとした冗談にゃ。ビジジル。これを持って、カチナを流してみるにゃ」
まだ少し怒りの残るビジジルは、わしの渡した物にカチナを流したので、そのままジョージに意識を集中させる。
「じゃあ、ジョージ君。ビジジルにちゃんと自己紹介してみてにゃ~」
「言葉が通じないんじゃ、やっても……」
「いまの、お前か??」
「え??」
初めて意思疏通の出来た二人は、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔でお見合いしているので、わしが説明してあげる。
「それは念話の魔道具って道具でにゃ。相手が喋っている内容が頭の中で聞こえるんにゃ。じゃあ、ジョージ君……」
「申し訳なかった!!」
わしがまたジョージに自己紹介させようとしたら、それより先にジョージが頭を下げて叫んだ。
「余はアメリヤ王国を統べる者として、奴隷を使役する者を早くに止めるべきであった。オオカミ族の受けた痛みは、正直余にはどれほどのものかわかりかねる。しかし、誠心誠意謝罪して行く所存だ。どうか余を信じて、誰彼かまわず怒りをぶつけないでくれ! 頼む!!」
トップみずからのいきなりの謝罪にビジジルは困惑して、わしとジョージを交互に見ているので間に入ってあげる。
「聞いての通り、ジョージ君はいい奴にゃ。それも、奴隷に関してジョージ君はまったく関与していにゃいのに、ここまで反省しているんにゃ。だから信じてやってくれにゃい?」
「………」
「オオカミ族にも悪い奴は居たにゃろ? それと一緒でアメリヤにも悪い奴は居るんにゃ。その悪い奴を裁くには、ジョージ君の力が必要なんにゃ。ここはわしの顔を立てて、ジョージ君を信じてやってにゃ~」
どう返していいか悩んでいるビジジルに、追い討ちでわしも頭を下げたら答えは出たようだ。
「わかったから頭を上げてくれ。正直、白い肌の者を信じるのは難しいが、命の恩人のシラタマとイサベレ様の事は信じられる。だから二人の信じるジョージ王の事も信用しよう」
「感謝する!!」
許しが出たとジョージは喜び、ビジジルの手を取って握手を交わす。わしはその姿を微笑ましく見ているのであった……
よし! こんだけ通訳が居れば、わし達が間に入る必要はないじゃろう。オオカミ族、様々じゃ~。
いや、念話魔道具を使える人材を確保できて、喜んでいたのであったとさ。
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