655 / 755
第二十三章 アメリカ大陸編其のニ アメリカ横断旅行、延長戦にゃ~
645 猫とオオカミにゃ~
しおりを挟む教会の地下で囚われていた原住民は夕焼けを見ていつまでも泣き続けていたが、日が落ちるのは時間の問題。この原住民はイサベレ教の信者なのでイサベレ達に預け、元奴隷の保養所である公爵邸に連れて行ってもらう。
わしはまだやる事があるので別行動。数日前に関わってしまった奴隷の収用所に走り、中を確認したら裳抜けの空。もうすでに保養所に案内されていたようだ。
これならわざわざ別行動する必要なかったと悔やみながら歩いていたら、猫騒動。砂浜に集まった人も居ただろうが、わしは身長が低いから見えなくて、立って歩く猫を知る人は極一部だったようだ。
道行く人がわしを指差して「猫? 猫? タヌキ??」とか言っている。
「タヌキじゃないにゃ~。猫だにゃ~」
「「「「「喋った!?」」」」」
タヌキじゃないと訂正したのも大失敗。立って喋る猫に驚いたアメリヤ国民は、またパニックになっていた。たぶん猫が喋ったから驚いたのであろう。いや、あんだけ脅しまくった声の主だからだ。
なんだか悲鳴をあげて逃げて行くので悲しいが、わしは屋根をぴょんぴょん飛び交い逃げて行くのであった。
「シラタマさ~ん。こっちですよ~」
公爵邸に着いても、わしを見た事のない原住民が猫騒動。その騒動を聞き付けてリータが駆けて来たので飛び付いた。
「ゴロゴロ~」
「どうしたのですか? 甘えて……」
「にゃんかみんにゃが怖がるんにゃ~」
「猫ですもんね。よしよし」
「もっといい言葉で慰めてにゃ~。ゴロゴロ~」
いつもの事なのでリータは掛ける言葉が思い付かないらしく、優しく撫でるだけ。しかしリータに抱かれる事で猫騒動は落ち着いたので、そのままジョージ13世が会議をしている部屋に連れて行かれた。
「お疲れ様にゃ~」
「シラタマさん!」
わしが労いの言葉を掛けると、ジョージは会議を止めてわしとリータの元へ寄って来た。当然、会議出席者が「猫、猫?」言っているから会議にならないけど……
「ジョージ君もこっちに来てたんだにゃ」
「はい。元奴隷の方に、王が謝罪しなくてはいけないだろうと思いまして」
「堪えたにゃろ?」
「いえ、それが……」
どうやらジョージが謝罪しても、簡単な単語しか知らない原住民しか居ないので、あまり伝わっていなかったようだ。
「あ~……通訳も見付けないといけないにゃ~」
「シラタマさんのような魔法が使える者が居れば助かるのですけど……」
「そっちはわしがにゃんとかするにゃ。それでいまは、にゃにを話し合っていたにゃ?」
「炊き出しの準備をしているのですが、思ったように食料が集まらないのです。議員が隠しているみたいでして……なので、国民から徴収しようかと話し合っていたところです」
「にゃるほどにゃ~。肉にゃらわしがいっぱい持ってるから、今日はそれでいいにゃろ」
「さすがシラタマさんです!」
「これも貸しだから、金は払ってもらうからにゃ~??」
「はい!!」
いまからの食料問題が解決すると、わしも会議に参加。
猫じゃ。だから猫じゃ。猫の国の王様じゃ。タヌキじゃない! 怖くないよ~? あの魔法はイサベレ様だからね~??
会議の内容は、わしの見た目に関する事ばかりだったのでキレたら、わしを膝に乗せて正しく同席しているリータが「アメリヤ王国を滅ぼそうとした魔法は全部わし」とか言い出したので、すかさずイサベレの仕業と訂正する。
それで信じたかどうかはわからないが会議は進んだので、明日以降の食料問題も解決した。
「みんにゃ~。ちょっと集合にゃ~」
公爵邸の庭に出るとイサベレ達は原住民の相手をしていたので、一度集めてわし達も会議。
「モフモフ~。おなかがすいて力がでないよ~」
「ほい。みんにゃもつまみながら聞いてにゃ~」
コリスがあんパンを欲しがる少年みたいな事を言うので、メガロドンの串焼きを全員に支給。モグモグしながら話し合う。
「みんにゃでここの人達を部族事に分けて、魔法が使える人を探してくれにゃ。そのあと、本格的にゃごはんにするからにゃ」
「「「「「モグッ!」」」」」
全員口に肉が入っていたから何を言っていたかわからないが、きっと指示は行き届いたと信じて、わしはジョージ達が集まる広い場所に移動する。
「ほいっとにゃ。こんだけ大きければ、みんにゃに行き届くにゃろ?」
「「「「「あわわわわ」」」」」
そして、20メートルオーバーの黒い魚を出したらジョージ達は腰を抜かしてしまった。
「死んでるから怖がる必要ないにゃ~。いまから捌くから、じゃんじゃん焼いてくれにゃ~」
わしが巨大な魚を簡単に捌くと、ますますあわあわするジョージ達。どうもこんなに小さな猫が怖いみたいだ。
アメリヤ国民はしばらく役に立ちそうになかったので、ヨダレを垂らしてわしを見ていたオオカミ族を呼び寄せる。その中で名前の知っているビジジルと言う立って喋るオオカミに念話で指示を出す。
「先に食べたいにゃら食べてもいいけど、オオカミ族で串焼きを作る手助けをしてくれにゃ」
「ああ。腹を空かせている者が多いのだ。一口だけ食べてすぐに焼かせる」
「う、うんにゃ。そんにゃ感じでよろしくにゃ~」
「やっぱり先に食べるんだ~」と思ったわしであったが口には出さず、巨大魚を捌いていたら、終わった頃にビジジルが戻って来た。
「それにしても、シラタマは凄いな。俺達でも、黒い生き物なんてなかなか傷を付けられなかったのに」
「にゃ? 黒い生き物なんて知ってるにゃ??」
「ああ。一度どこかから流れて来て、俺達の集落が壊滅し掛けたんだ。一族で戦ってなんとか倒せたがな」
ふ~ん。そんなに強くなさそうなのに、黒い獣を倒せたのか。ま、ビジジルでCランクハンターぐらいの強さがあるからいけそうか。でも、オオカミって事は、やっぱりチームプレーが凄いのかな? それとも……
「オオカミ族の中に魔法を使える人は居るかにゃ?」
「まほう??」
「こんにゃ感じの力にゃ」
わしが【鎌鼬】で地面に亀裂を作ると、ビジジルは初めて見たとのこと。しかし不思議な力は持っているらしく、カチナと呼んでいるらしい。
「そのカチナは、みんにゃ使えるにゃ?」
「ああ。強さに違いはあるが、一族の者は全員使えるぞ」
「それ、ちょっと見せてくれにゃ。あっちの壁まで全力で走って、帰りはカチナを使って戻って来てにゃ」
「わかった」
ビジジルは駆け足のポーズをしてから、20メートル先の壁に向かって走る。
二足歩行で走らんのか~い。四つ足じゃわい。それもけっこう速い。さすがオオカミってところか。さて……問題はここからじゃな。
わしがツッコミながら見ていたら、ビジジルは壁にタッチ。わしは【魔力視】と言う魔法を使いながらビジジルを凝視する。
やはりカチナは魔法の違う言い方じゃな。体全体に魔力の膜が見えておるから、間違いなくアレは肉体強化魔法じゃ。
おっと、もう戻って来た。時間にして半分。通常時から、およそ倍ぐらい力が跳ね上がったってところじゃろう。
「ビジジルが使ったカチナってのは、うちでは魔法と呼ばれている力にゃ」
「と言うことは、俺達でも地面を斬れるようになるのか?」
「訓練すればにゃ。でも、オオカミ族のみんにゃ魔法が使えるのは助かるにゃ~」
わしとビジジルが念話で喋っていたら、さっきまで「オオカミ、オオカミ?」とか騒いでいたジョージが近付いて来た。
「そのオオカミって……オオカミ族の??」
「あ、ちょうどよかったにゃ。紹介しておくにゃ。こちらはオオカミ族のビジジル君で、こちらは諸悪の根元であらせられるアメリヤ国王のジョージ君にゃ」
「なんだと……」
「シラタマさん! 言い方ああぁぁ!!」
わしの紹介の仕方が悪かったらしく、ビジジルが毛を逆立てて歯を剥くので、焦ったジョージにツッコまれてしまった。
「にゃはは。ちょっとした冗談にゃ。ビジジル。これを持って、カチナを流してみるにゃ」
まだ少し怒りの残るビジジルは、わしの渡した物にカチナを流したので、そのままジョージに意識を集中させる。
「じゃあ、ジョージ君。ビジジルにちゃんと自己紹介してみてにゃ~」
「言葉が通じないんじゃ、やっても……」
「いまの、お前か??」
「え??」
初めて意思疏通の出来た二人は、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔でお見合いしているので、わしが説明してあげる。
「それは念話の魔道具って道具でにゃ。相手が喋っている内容が頭の中で聞こえるんにゃ。じゃあ、ジョージ君……」
「申し訳なかった!!」
わしがまたジョージに自己紹介させようとしたら、それより先にジョージが頭を下げて叫んだ。
「余はアメリヤ王国を統べる者として、奴隷を使役する者を早くに止めるべきであった。オオカミ族の受けた痛みは、正直余にはどれほどのものかわかりかねる。しかし、誠心誠意謝罪して行く所存だ。どうか余を信じて、誰彼かまわず怒りをぶつけないでくれ! 頼む!!」
トップみずからのいきなりの謝罪にビジジルは困惑して、わしとジョージを交互に見ているので間に入ってあげる。
「聞いての通り、ジョージ君はいい奴にゃ。それも、奴隷に関してジョージ君はまったく関与していにゃいのに、ここまで反省しているんにゃ。だから信じてやってくれにゃい?」
「………」
「オオカミ族にも悪い奴は居たにゃろ? それと一緒でアメリヤにも悪い奴は居るんにゃ。その悪い奴を裁くには、ジョージ君の力が必要なんにゃ。ここはわしの顔を立てて、ジョージ君を信じてやってにゃ~」
どう返していいか悩んでいるビジジルに、追い討ちでわしも頭を下げたら答えは出たようだ。
「わかったから頭を上げてくれ。正直、白い肌の者を信じるのは難しいが、命の恩人のシラタマとイサベレ様の事は信じられる。だから二人の信じるジョージ王の事も信用しよう」
「感謝する!!」
許しが出たとジョージは喜び、ビジジルの手を取って握手を交わす。わしはその姿を微笑ましく見ているのであった……
よし! こんだけ通訳が居れば、わし達が間に入る必要はないじゃろう。オオカミ族、様々じゃ~。
いや、念話魔道具を使える人材を確保できて、喜んでいたのであったとさ。
0
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる