上 下
253 / 755
第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

251 荒野の戦いにゃ~

しおりを挟む

 わしの姿のせいで、降伏勧告をする使者が何度も代わり、苛立ったわしが、こちらから使者を送るから待ってろと声を荒らげる。
 使者は、猫、猫と言って自陣に戻って行ったので、しばらく時間を空けてから、わしはシェンメイの走らせる馬に同乗して敵陣に向かう。
 敵陣近くになると、筋肉猫という言葉が聞こえて来て、シェンメイがギリギリと歯を鳴らしていた。

 敵陣とほどほどな距離になると、シェンメイは馬から降ろさずに、わしだけ飛び降りる。

「猫だ……」
「ぬいぐるみ?」
「ホワイト……トリプル?」
「アイツ達の話は本当だったんだ」

 うん。全員、頭にクエスチョンマークが浮かんだな。隙だらけじゃけど、いいのか? 魔法を撃ち込んでやろうか……
 まぁあちらさんも、使者で降伏勧告して来たし、礼儀に乗ってやるか。

 わしは音声拡張魔道具を使い、帝国兵に語り掛ける。

『え~。帝国兵のみにゃさん』
「「「「「猫が喋った!」」」」」
『わしは猫耳族の王にゃ!』
「「「「「猫が王?」」」」」
『降伏しにゃいと、みにゃ殺しにゃ~』
「「「「「猫が皆殺し?」」」」」
「「「「「………」」」」」

 帝国兵は、わしの皆殺し発言を聞いて顔を見合わせ、言葉を失う。

「「「「「ギャハハハハ」」」」」

 どうやら、面白い言葉と受け取られたみたいだ。

『うるさいにゃ~! セイチュウ将軍ってのを出せにゃ~!!』

 わしは怒りをあらわに叫ぶが、笑いは収まらない。そんな中、一人の男が兵を割って現れる。

「静まれ! 静まれ~~~!!」

 帝国兵は、男の声を聞いて静かになる。皆、肩は震えているが……

 男は、皆が黙るとわしの目の前までやって来た。

「お前が、セイチュウ将軍にゃ?」
「いや。私は部下の副将軍だ。それで、猫が猫耳族の王で間違い無いんだな?」
「そうにゃ」
「送った使者は、事実を話していたのか……」
「にゃんて説明したか知らにゃいけど、事実かにゃ? それで……降伏してくれるにゃ?」

 わしの降伏勧告に、副将軍は鼻で笑う。

「ハッ。この兵力差で、何故、我々が降伏するんだ。お前達が降伏しろ!」
「それじゃあ交渉は決裂したにゃ。戦にゃ~~~!」
「戦にもならん! 使者に王を使う愚行。ここで首を取ってやる!!」
「にゃ!?」

 副将軍は剣を抜き、わしに斬り掛かる。わしは驚きながら刀を抜くと、峰で受け止め、副将軍の腹にネコパンチを入れる。
 突然の出来事に力を入れ過ぎて、副将軍はくの字になってぶっ飛んで行った。

「シェンメイ。馬を出すにゃ!」
「で、でも、シラタマ王を置いて行くわけには……」
「すぐ追い付くにゃ! これは命令にゃ!!」
「は、はい!」

 シェンメイの馬が走り出すのを尻目に、わしは帝国兵をにらむ。帝国兵も副将軍が吹っ飛んだ姿を見て、臨戦態勢だ。皆、得物を抜いてわしを睨んでいる。
 そんな中、吹っ飛んだ副将軍が復活し、わしに怒声を浴びせる。

「貴様~~~!!」
「怒っているのはこっちにゃ! 使者に剣を向けるとは、どういう了見にゃ!!」
「目の前に大将が居たら、討つに決まっているだろ!」

 そうなの? ……うん。わしでも討つな。

「馬だ! 馬を射れ!!」
「【風玉】にゃ!」

 副将軍は、わしが逃げる術が無いと判断したのか、逃げるシェンメイに照準を合わせる。帝国兵は命令を瞬時に聞き入れ、複数人で弓矢を放つ。
 わしはシェンメイに降り注ぐ矢を、風魔法で全て叩き落としてやった。

「それじゃあ、戦の開始って事でいいかにゃ? ほにゃ、さいにゃら~」
「馬鹿が……どっちも逃がすか! 撃て! 撃て~~~!!」

 わしは別れの挨拶を済ますと、後ろ向きに走り出す。シェンメイや、わしに降り掛かる弓矢や魔法は、風魔法で撃ち落とす。
 しばらく走っていると、シェンメイの乗る馬と並走して、追い抜いてしまった。

「うそ……」
「にゃ!? 行き過ぎたにゃ~」
「なんで後ろ向きに走って馬より速いのよ!」
「えっと……猫だからかにゃ?」
「そんなわけないでしょ!」
「それより、攻撃範囲は抜けたから乗せてくれにゃ~」
「……必要なの?」
「にゃいけど~~~」
「はぁ……はいはい」

 わしがシェンメイの伸ばす手を掴むと、軽々と持ち上げられ、抱きかかえられる形で馬に乗り込む。
 帝国軍は兵の隊列を乱さない為か、追っ手を出さず、ゆっくりと前進している。

 しばらくすると、帝国軍と同じく、前進していた猫耳軍と合流する。そこで、すぐにコウウンの元へ向かう。

「お待たせにゃ~」
「ご無事で何よりです」
「アイツら酷いにゃ。いきなり使者に剣を向けたんにゃよ?」
「使者でも、大将ですからね。私でも、手練れの者に斬るように命令しますよ」

 うん。コウウンもわしと同じ考えか。じゃが、猫、猫と話が通じないから、わしが行くしかなかったんじゃ。

「それより準備は済んでるにゃ?」
「はっ! もう間もなく射出します」
「じゃあ、わしも配置にくにゃ~」
「お願いします」

 コウウンと会話を交わすと、猫耳軍の中央、最後尾に走る。わしは配置に就くいても、軍はさらに前進し、しばらくすると、コウウンが声を張りあげる。

『ぜんた~い……止まれ~~~!』

 コウウンの声で猫耳軍は止まる。まだ帝国軍と接触するには距離がある。弓や魔法でも、まだまだ届かない距離だ。

『弓隊。投撃部隊。発射準備~~~!』

 それなのに、コウウンは遠距離攻撃発射の指揮を取る。猫耳軍も、その命令に異を唱えず、素直に従う。
 弓を引き、投撃武器を構え、前衛さえも、木の槍を投げようと構える。届く距離ではないのに……。なのに、コウウンは次の命令を下す。

『放て~~~!!』

 コウウンの命令に、皆、一斉に遠距離攻撃を行う。ただし、出来るだけ高くに攻撃を放った。

「【突風】にゃ~~~!!」

 その攻撃に、わしは広範囲に風を送る。

 そう。高々と上がった遠距離攻撃に、わしが追い風を送り、帝国軍に届かせるという作戦だ。

 帝国兵は、届かない攻撃を笑って見ていたが、風に乗った武器が降り注ぎ、慌てふためく事となった。

「二射目~。放て~~~!!」
「【突風】にゃ~~~!!」

 その次も、その次も、攻撃は降り注ぎ、帝国軍は大打撃を受ける事となった。だが、ついに対抗措置が取られる。盾を頭上に構え、前進しだした。

『よし。ここまでだ! 後退準備~~~!』

 帝国軍は大打撃を受けているが、コウウンは追い討ちを掛けない。

『両翼。中央に集まりつつ、全軍後退~~~!!』

 猫耳軍は、追い討ちを掛けないどころか、後退しだした。わしはその波に乗らずに、コウウンが後退して来るのをジッと待つ。いや、動けなかった。

 あの感覚……。先の大戦で銃を放った時と似ている……。い、いまはそんな事を考えている場合ではない! 集中じゃ!!

 わしが両頬をモフモフと叩いていると、引き上げて来たコウウンが声を掛ける。

「王よ。どうかなさりましたか?」
「ああ。にゃんでもないにゃ。それより、首尾はどうにゃ?」
「これ以上無く、上々ですね。予想外の攻撃のせいで、帝国軍も我々に合わせて、固まって動いています」
「にゃはは。コウウンの作戦通りに動いてくれているんにゃ」
「はい。これほど上手く行くとは思いませんでした」
「わしとしては助かるにゃ~」
「いえいえ。このままなら、こちらの軍が傷を負う事が無いので助かります」
「それじゃあ、わしはリータ達と合流するにゃ。あとは任せたにゃ~」
「はっ! お任せください」

 わしはコウウンとの会話を終わらせると、後方に駆け、最初の位置から動いていなかった、リータ達と合流する。

「リータ、メイバイ。準備はどうにゃ?」
「大丈夫です!」
「私もニャー!」
「にゃはは。それは心強いにゃ」

 二人はわしの質問に、大きな声で返してくれた。

「ノエミとケンフも、準備は大丈夫かにゃ?」
「あとは押すだけでしょ? 楽勝よ!」
「出来れば強い敵と、正々堂々闘いたかったのですが……」
「二人は余裕そうだにゃ。ケンフには、残って居たら譲ってあげるにゃ。でも、みんにゃ。手負いの獣は危険だって事だけは忘れないでくれにゃ。まだにゃにが起こるかわからないからにゃ。十分気を付けてくれにゃ」
「ええ!」
「ワン!」
「はい!」
「わかっているニャー!」

 ノエミとケンフは軽口を叩くように返事をするので、注意するように促すと、リータ達も含めて力強く返事をしてくれた。

「よし! 合図があるまで待機にゃ~」

 皆、緊張感を持って待機するが、わしはリータとメイバイに撫でられるので、ゴロゴロと待つ。
 そうこうしていると、猫耳軍は元に居た場所まで戻り、停止する。

 その姿を見て、わし達は最前列に移動し、コウウンの隣に立つ。

「もうそろそろかにゃ?」
「はい。いけそうですね」
「合図と突撃の準備を頼むにゃ~」
「はっ!」

 わしの言葉にコウウンは、全軍を鼓舞する為に声を張りあげる。

『聞け! これより、王の攻撃の後、総攻撃を仕掛ける。皆、気を引き締め、作戦通り動くのだ!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」
『王よ! 帝国軍に、目に物を見せてください!!』
「わかったにゃ~~~!」

 わしは返事の後、一呼吸置いて広範囲に魔法を使う。

「土魔法……【解除】にゃ~~~!!」

 わしは前日に準備していた罠を仕掛ける。その結果、帝国兵は足場を失い、次々と落とし穴に落ちていく。

 わしの仕掛けた罠は簡単。広い土地に升目状に多くの穴を掘って、その上を硬い土魔法で蓋をしただけ。ただしその中には、これまた魔法で出した水が少量入っている。その結果……

「「「「「ギャーーー!!」」」」」
「足が~!」
「腕が~!」
「痛い~!」
「目が、目が~~~!」

 そこかしこから、帝国兵の悲痛な叫び声が聞こえて来る。しかし、升目状に穴を掘ったので、生き残りは半数近くいる。
 なので、次の魔法を使う。

「【旋風つむじかぜ・いっぱい】にゃ~~~!!」

 突如、穴の数だけ渦巻く風の柱が立ち上がる。穴の中心にマーキングしておいたので、正確、かつ、簡単に行えた。
 無数の【旋風】は、穴にあった少量の水と共に、ある物質を空に舞い上げる。

「トドメにゃ! 水魔法【霧】にゃ~~~!!」

 空に舞い上がった水と、ある物質は霧散し、帝国兵にまとわりつく。逃げ場は無い。もちろん猫耳軍が被害を受けないように、風魔法でガードしている。

「「「「「ギャーーー!!」」」」」
「目が、目が~~~!」
「痛い! 傷に染みる~!」
「股間が熱い~~~!」
「ヒッ。ヒ~~~!」
「「「「「辛い~~~!!」」」」」
「「「「「水~~~!!」」」」」

 そう。わしが使ったある物質とは、唐辛子モドキだ。これは戦争で使えるのではと、森で大量に集めておいた。
 唐辛子モドキは粉状になるまで細かく切り刻み、水と一緒に入れて霧に変えたので、辛さの激痛に耐えかねて、帝国兵はこのような事態となったのだ。

 う~ん。阿鼻叫喚……地獄絵図とはこの事じゃな。猫耳軍は……あらかじめ説明しておいたのに、恐怖で震えておる。
 気持ちはわかる。視界を失って、叫びながら穴に落ちて行っておるもん。

「シラタマさん……」
「怖いニャー!」

 どうやらリータとメイバイも、わしと同じ思いのようだ。なので、わざわざ口に出して同じ思いだとわしは伝える。

「わしもにゃ……」
「「「「「あなたがやったことでしょ!!」」」」」

 ええ。そうですよ~だ!

「「開き直るな(ニャ)!!」」
「にゃ~! ポコポコはやめてにゃ~~~!」

 わしは総ツッコミを受けた後、心の声を読んだリータとメイバイに、埋められ掛けてしまうのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

処理中です...