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第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

250 開戦前にゃ〜

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 メイバイの家族の対面を済まし、本格的にサボろうとしたら、リータから待ったが掛かった。
 暇なら奴隷紋を帝国兵に掛けろとお達しが下り、渋々、ワンヂェンの元へ行く。わし一人働くのは腹立たしいので、ノエミも巻き込んでやった。

 リータとケンフは帝国兵の列の整理に回り、わしは流れ作業で奴隷紋を掛ける。何人もの苦しむ声と作業に飽きて来ると、魔力を多く込めて、耐え難い快感を与えてみる。
 そのせいで、数人目覚めさせてしまったようで、わしを見る目が怖くなった。リータに泣き付いてみたが、自己責任と逆に怒られ、しゅんとする。

 そうこうしていると夜が来て、会議が始まる。各自報告と提案等を聞き、任せると言って会議が終わる。

 もっと話し合う事は無いのか? 猫だからわからないにゃ~。イテテ。

 リータに両頬を引っ張られて会議が終わり、リータの独占抱き枕となって就寝する。


 次の日も前日と変わらず、会議と奴隷紋。違う点を言えば、農作業組が作物を収穫して来たらしく、どうするかの話になった。
 現在、街の者は商売が出来ず、食糧は炊き出しでまかなっている。なので、ジャガイモと肉以外の料理が出来るので、そちらに回してもらう。

 もう街の事はウンチョウ、センジをダブルトップで上手く回してくれ。また人任せにしてる? 猫だからいいんじゃ。イテテ。

 今日もリータにほっぺたを伸ばされ、奴隷紋を掛ける。流れ作業に飽きて来ると、また魔力を多く入れて緩急を付ける。そうして、目覚めさせた男に言い寄られていると、メイバイが助けに来てくれた。
 ついでにリータの事を愚痴ってみたが、わしが悪いの一言。やはり女は、恐い生き物だ。イテテ。

 ほっぺを引っ張るなら、膝に乗せないで! 仕事中なんですよ? 昨日は寂しかった? リータが今日は一日抱いてろって言った? それは少し迷惑……じゃないです! うれしいな~。

 メイバイは顔を曇らしたのも束の間、すぐに笑顔でわしを撫で回す。本当に仕事の邪魔であったが、言い出しづらかったから、ゴロゴロ仕事をする。


 そんなこんなで一日も終わり、ラサの街は完全に、猫耳軍の占領下に入ったのであった。


 街を占領して三日目の朝。二人に抱かれて眠っていると、コウウンの部下が窓を叩き、すぐに会議室に来るようにうながされる。
 緊急を要する内容みたいだったので、準備を簡単に済まし、リータとメイバイにはゆっくりしていていいと言って、走って向かう。

 会議の参加者は全員集まっていなかったが、主要メンバーは集まっていたので、すぐに始める。

「コウウン。急ぎの用とはなんにゃ?」
「敵が動きました」
「それは一大事にゃ。規模と、どのルートを通っているか教えてくれにゃ」
「はっ! 規模は……」

 コウウンの話では、偵察部隊が帝都に着いたのが一日半前。早馬で、かなり飛ばしたそうだ。
 そこで帝都に戻る一万の兵を確認し、一日休ませた後、ラサに向けて出兵したとのこと。
 偵察部隊は無事なのかと聞くと、わしの渡した望遠鏡が役に立ったらしく、遠くから監察できたので、問題無いとのこと。

 帝国軍のルートを地図で確認していると、会議の残りのメンバーも集まって来る。なので説明はウンチョウに任せて、わしはコウウンと話し合う。
 戦場の場所が決まると会議の再開。農作業組には、戦が始まる前までに出来る事はしてもらい、戦の日は完全休業を指示。
 センジとウンチョウには、街の治安維持をお願いする。それだけ決まると、わしはやる事があるので、議長をウンチョウに丸投げ……任せて、会議室をあとにする。


 車に戻ると、リータとメイバイと一緒に、のんびり朝食。会議は続いているのに何をしているか? 朝メシじゃ。またサボッてる? そんなわけないよ~。イテテ。

 二人に両頬を引っ張られてから、ケンフとノエミを誘って車でお出掛け。車を飛ばし、荒れ地に着くと皆を降ろす。

「こんな所まで来て、なにしてるんですか!」
「みんな会議してるんだから、戻るニャー!」

 リータとメイバイが凄い剣幕でわしに詰め寄って来たので、車の中で軽く説明した事を、今度は詳しく説明する。

「わししか出来ない仕事で来たんにゃけど……」
「「え?」」
「ここが戦場になる予定にゃ。だから、ここに罠を仕掛けようかにゃ~と……」
「じゃあ、さっき言ってたのは本当なんですか?」
「そうにゃ」
「サボる為に来たんじゃないニャー?」
「そうにゃ」
「ごめんなさ~い!」
「ごめんニャー!」
「ゴロゴロ~」

 まったく信用はされてなかったが、謝って来たから許す。撫で回すのは謝罪かどうか、わからないが……

 二人が落ち着くと皆に望遠鏡を渡して、わしの仕事の邪魔が入らないように頼む。探知魔法は遠くに飛ばしているが、弱い獣相手にわしが出張でばるのは時間の無駄だ。
 わしの作業中、何匹かの獣が寄って来ていたが、リータ達が気付いてくれて、簡単に狩っていた。
 黒い獣も一匹迫って来ていたが、皆で協力して倒していた。なかなかバランスの取れたいいチームだ。

 お昼休憩を挟み、作業の続行。日が沈み掛けた頃にようやく終わったので、車に乗り込み帰宅する。
 夜の会議は、明日の出発時間と兵の配分を決めてから、今日は早めの就寝となった。


 そして翌日、猫耳軍総数二千二百人が街を出発する。内訳は、猫耳族の戦士九百人、支援部隊四百人、奴隷兵九百人。
 偵察部隊から、帝国軍が分かれた、もしくは先陣が出たとの報告はないが、念の為、戦える者と街の治安に必要な人数は残して来た。
 いざとなれば高い壁もあるので、籠城すれば問題無い。ウンチョウが指揮をとって、上手くやってくれるはずだ。

 猫耳軍が半日ほど行進すると、戦場予定地に到着する。ここで陣を張り、各隊長クラスを集め、明日の予定を話し合う。
 会議が終わると、昼食と明日の準備。各隊長が魔道具の使い方や役割を皆に聞かせている姿がある。

 わしはサボっていると、リータ達がうるさいので、罠の最終確認という名目のサボり。サボっているわけじゃないですよ~。散歩じゃないですって~。

 リータとメイバイと鬼ごっこをしていると、日が暮れ始める。なので、皆の食事の輪に入り、和気あいあいと食べる。だが、そろそろエミリの料理が恋しくなって来た。

 次元倉庫から取り出して食べようかな? リータ達も欲しい? じゃあ、夜食にしよう。

 お風呂に入り、車でエミリのおツマミとお酒をたしなむ。だが、ノエミとワンヂェンに嗅ぎ付けられて、仕方なく振る舞う。ケンフはかわいそうだから、直々に誘ってあげた。
 車の中では、王都の騒がしい毎日を懐かしみ、ワンヂェンがうらやましそうに聞いている。ノエミまで、今度遊びに来ると言っていた。

 話に夢中になっていたが、明日は決戦だ。早く寝ないといけないので解散。
 ワンヂェンは仲間の寝床に戻って行くが、ノエミとケンフは動かない。だから、二号車を出してそこで眠ってもらう。

 ノエミを襲うなよ? こんな子供を襲わないか。……ま、魔法は使うな! ケンフも謝れ!

 結局、レディーのノエミとケンフを狭い車の中で寝かせるわけにもいかず、ケンフは二号車のソファー。ノエミは、わし達の車のソファーで夜を明かす。

 朝になると朝食を済まし、戦の最終確認。偵察部隊からの連絡では、帝国軍は予想通りわし達の本陣に迫っているとあり、別働隊も無いとのこと。予想到達時刻は正午となっている。

 なので、お腹がへらないようにパクパク。そんなに腹に入れて大丈夫か? 腹を刺されたら大変な事になる? へ~。戦とは、そんなものなのか。パクパク。

 リータ達も周りに合わせ、食事はほどほどで、わしをにらんでいる。そうこうしていると、遠くに土埃が見え始めた。


「来ましたね。すごい数です」
「蟻の比じゃないニャー!」
「シラタマ君が居なかったら、逃げ出しているわね」

 帝国軍だ。その圧倒的な数に、リータ、メイバイ、ノエミが、緊張した顔で帝国軍を眺めている。

「コウウン。頼むにゃ~」
「はっ! 皆、位置につけーーー!」

 わしの指示からのコウウンの命令で、猫耳兵はいそいそと動き、陣形を組む。前衛が横に並び、数列。その後ろに後衛と人数合わせの支援部隊。少し横に長い長方形の形になると、敵の進軍を待つ。
 しばらく待つと、帝国軍が視界に入り、分厚い人の壁がゆっくりとわし達に近付く。さらに待つと、前進していた帝国軍がピタリと止まり、わし達と同じような陣形を組んだ。

 お互い動かず、睨み合いになると、わしはコウウンに話し掛ける。

「あちらさんも、同じ陣形かにゃ?」
「そうですね。しかし、兵力が四倍も違いますから、厚みがまったく違います。こちらの戦力を見て、物量で攻めるつもりなのでしょう」
「奇襲や、隊を分ける可能性はどうにゃ?」
「偵察部隊から、その様な報告は受けていないので、無いでしょう。そんな事をしなくとも、この兵力差なら、私ならそんな愚策は行いません」
「そうにゃんだ。じゃあ、成功しそうだにゃ」
「油断は禁物ですが、まさかあの様な罠があるとは思いもしないでしょう」

 わし達が話し合っていると、帝国軍に動きがあった。

「……向こうから馬が来たにゃ」
「口上の使者でしょうか? 我々も行きましょう」
「わかったにゃ」


 わしとコウウンは、帝国軍の使者らしき者の声が届く場所まで近付く。すると、使者は声を高々に宣言する。

「これより、セイチュウ将軍の言伝を読み上げる。『ただちに降伏せよ! しからば、命だけは保証する。降伏せぬ場合、一兵足りとも命は無いと思え!』……返答は如何いかに!?」

 わしとコウウンはその言葉を聞いて、猫耳兵達より前に出て応える。

「その言葉、そっくりそのままお返しするにゃ~」
「にゃ~? ……猫が立って喋ってる!?」
「あ、そう言うのは、いらないにゃ。ちなみにだけど、わしが猫耳族の王で、最高責任者にゃ。だから、わしの言葉が返答にゃ」
「猫が王だと……」
「さっさと、セイチュウ将軍に伝えて来いにゃ~!」
「あ、ああ……」

 使者は、頭にクエスチョンマークを何個も付けて帰って行った。しばらく待つと、また馬が駆けて来たが、乗っている男が違っていた。
 男は馬上で口上を述べ、わしはさっきと同じ返答をし、クエスチョンマークを付けて帰って行く。

 そして、また馬が駆けて来る……

「これより、セイチュウ将軍の言伝を読み上げる。『ただちに降伏せよ! しからば、命だけは保証する。降伏せぬ場合、一兵足りとも命は無いと思え!』……返答は如何に!?」
「にゃん回やらせるにゃ~~~!!」
「ね、猫が喋った!!」
「だ~か~ら~~~」

 猫のわしの姿が納得できないからか、なかなか戦は始まらないのであった。
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