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第六章 ハンター編其の四 遊ぶにゃ~
161 女王、帰還にゃ~
しおりを挟む女王一行と海で遊び終わり、わしはビーダール王都に向けて飛行機を離陸させる。機内では海の話題と、わしの説教で盛りあがり、太陽が地平線に落ちて行く光景にも盛りあがっていたが、しだいに寝息へと変わっていった。
「ありがとう」
「にゃ?」
膝の上に猫型のわしを乗せ、優しく撫でる女王の感謝の言葉に、わしはどうしたのかと振り向く。
「海に連れて来てくれた事よ」
「そう言って、また怒るにゃ?」
「それはシラタマが悪いのよ!」
「ほら~。女王も寝るにゃ。疲れているから怒りっぽくなってるんにゃ」
「まったくシラタマは……。そうしたいところだけど、まだ気持ちが落ち着いていないのよ」
「女王も楽しかったんにゃ」
「楽しかったわ。久し振りに、女王の権威を脱いだ気分よ」
女王は自分の肩を回し、軽くなったような仕草をした。
「やっぱり重いかにゃ?」
「そうね。サティに耐えられるかどうか……」
「さっちゃんは我が儘なところはあるけど、強い子だから大丈夫にゃ」
「そうだといいけど……」
「心配にゃら、民に任すかにゃ?」
「民に?」
わしの出した案に、女王は撫でる手が止まる。
「民が代表を決め、その代表が国を治めるにゃ」
「それは国家の理想ね。でも、無理だわ」
「そうだにゃ。優秀な人材が多く必要になるにゃ。それと民の教育にも、もっとお金を割かないといけないにゃ」
「民の教育か……なるほど」
「まぁ王族の独裁も、女王のような立派な人がいれば、民も幸せに暮らせるにゃ」
「褒めてくれるのね」
わしが褒めると、女王は嬉しそうな声になった。
「わしみたいにゃ異形の者を、街のみんにゃは受け入れてくれたにゃ。わしは街のみんにゃに感謝してるにゃ」
「ウフフ。私が褒められるより、民が褒められるのはいいものね」
「そういうところにゃ。だから、民も国が好きになるにゃ」
「私のして来た事は間違いじゃなかったのね。シラタマ。ありがとう。でも……」
「でもにゃ?」
「なんでそこまで国に詳しいのよ!」
「シーーーにゃ! みんにゃ寝てるにゃ~」
「あ……」
女王が突然大きな声を出すので、わしは慌てて止めた。女王はそれでも納得のいかない顔をしているので、少し正体を明かす事にする。
「わしが詳しいのは……」
「詳しいのは?」
「猫だからにゃ」
「猫だから? そんなわけないでしょ!」
「シーーーにゃ!」
正体を明かすのは、本当に少しだったので……いや、ただのボケだったので、また怒鳴られてしまった。すると、女王も諦めたような顔になった。
「話したくないなら、それでいいわよ。シラタマの話は勉強になったわ。猫に教わったのは癪だけどね」
「わしも女王の民だから、少しは力になれてよかったにゃ」
「民じゃなくて、ペットになってくれたら、もっと力になれわよ?」
「……城に火魔法、撃ち込んでいいかにゃ?」
わしが女王を脅すボケをすると、どこからともなく声が聞こえる。
「だから、わたしのお家壊さないで~。むにゃむにゃ」
「さっちゃん?」
「サティ?」
「「ぷっ」」
「にゃはははは」
「アハハハハ」
「シラタマちゃ~ん。むにゃむにゃ」
わしと女王の話に、さっちゃんが寝言で割り込んで来たので、二人で吹き出して笑う。そうして笑い疲れたのか、女王も目を瞑る。
わしは静かになった機内で一人、飛行機を操縦し、ビーダール王都が近付くと静かに着陸する。それから車に乗り換える為に寝てる者を起こすが、起きない者は抱き抱え、車に乗せる。
ビーダール王都に着くと、帰りが遅かったから門兵に心配されたので、謝って宿に戻る。宿でも起きない者がいたが、何人か寝た振りをしていた。怒りたかったが、わしも疲れているので、黙ってベッドまで運んだ。
そして、リータとメイバイの待つ部屋へ……
ガシッ!
「シラタマちゃ~ん。むにゃむにゃ」
「さっちゃん。起きてるにゃ!」
「起きてないよ。むにゃむにゃ」
「喋ってるにゃ~!」
「シラタマ。もう諦めなさい。むにゃむにゃ~」
「女王まで……」
こうして、今日もさっちゃんと女王にがっしりロックされて、眠りに就くわしであったとさ。
翌朝、バハードゥとハリシャが宿へ来て、王族みずから王都の案内をしてくれる。ちなみに、東の国王族と侍女、イサベレ以外は別行動だ。
「これだよこれ。もう一度乗りたかったんだ」
「いいですよね~」
どうやらバハードゥは車に乗りたかったみたいだ。ハリシャも前回乗った事があるので気に入っているみたいだ。あれこれ聞かれるのは面倒臭いので、二号車に押し込んで発車する。
トロトロと走る車は、馬に乗った兵士に案内され、市場を中心に回る。女王は特産品を売り付けられているみたいだ。
どちらかと言うと女王のほうが乗り気で、たくさん買い漁っていた。服やスパイス、東の国では珍しい宝飾品。全てわしの次元倉庫行きだ。
買い物が終わると、ビーダールの高級料理店で食事をとる。城とは違い、家庭料理に近い料理だったが、スパイスが効いて美味しかった。
ここでもバクバク食べていたら、さっちゃんに行儀が悪いと頬袋をつつかれた。そのせいで皆に笑われて、恥ずかしい思いをする事となった。
食事も終わり、昼一の鐘が鳴り終わると宿に戻り、皆を車に押し込む。そうして最後に押し込む予定だった女王とバハードゥは別れの挨拶を交わす。
「ペトロニーヌ陛下。短い滞在期間でしたが、満足していただけましたか?」
「ええ。楽しめたわ」
「まだ、国はごたついておりますので誕生祭には行けませんが、心より祝いの言葉を述べさせていただきます」
「ありがとう。バハードゥ王も民の為、一刻も早く、国を建て直せるように祈っている」
「はっ! ありがとうございます」
バハードゥと握手を交わした女王が車に乗り込むと、バハードゥはわしにも別れの挨拶をする。
「シラタマ。こんなに早く、ペトロニーヌ陛下に会わせてくれて感謝する」
「気にするにゃ。また遊びに来るにゃ~」
「ハハハ。いつでも歓迎する。またな」
わし達はバハードゥに見送られ、ビーダールをあとにする。車から飛行機に乗り換え、南の国の砂漠で小休憩。再び離陸し、東の国の王都へ辿り着いた時には、日が暮れてしまった。
城の訓練場に降りるには光が足りないので、街外れに着陸し、車に乗り換える。そして【光玉】を車の上に灯し、城門に到着。
女王の権力で、初めて車を王都で走らせる事が出来た。だが、今回だけの特例らしい。馬に乗った騎士の案内で、城までノロノロ走り。野次馬の見守る中、やっとこさ城に到着。もう遅いので皆を降ろして解散となった。
女王には泊まって行くように言われたが、逃げた。だって、リータとメイバイの目が怖かったんじゃもん。
そうして追い付いて来たリータとメイバイと手を繋ぎ、家路に就く。家に帰ると旅の疲れを取るべく、お風呂に飛び込む。
「「「ハァ~~~」」」
温かいお湯に浸かると、三人の気持ちの良さそうな声が重なった。
「やっぱり、家のお風呂はいいにゃ~」
「そうですね~」
「やっとシラタマ殿にも抱きつけるニャー」
「そ、それはホドホドでお願いするにゃ~」
「え~! この三日、全然相手をしてくれなかったじゃないですか~」
わしが抱きつく二人を軽く拒否すると、よけい強く抱き締められてしまった。
「にゃ!? 苦しいにゃ~。てか、さっちゃん達に捕まっていたから、仕方ないにゃ~」
「シラタマ殿は、王女様に甘いニャー!」
「そうかにゃ? よくケンカしてるにゃ」
「羨ましいです~」
「私もシラタマ殿とケンカしたいニャー」
「二人とは、いつまでも仲良くしたいにゃ」
「「シラタマ(殿)さん……」」
二人は感動しているよに見えたので、このいい雰囲気の中なら聞いてくれるかもと、ついでにお願いをしてみる。
「だから怒らないで欲しいにゃ~」
「「それはで出来ません!」」
「にゃんでにゃ~!」
「シラタマさんが悪いからです」
「シラタマ殿が悪いニャー」
「わしは悪い事にゃんてしてないにゃ。いつも被害者にゃ~」
「よく抱きつかれているじゃないですか?」
「抱きつく人が悪いにゃ!」
「よく挟まれているニャー」
「挟む人が悪いにゃ!」
「「強く断らない、シラタマ(殿)さんが悪い!」」
二人してそんなに怒らんでも……。でも、断ったらいいって事なのかな?
「じゃあ……二人も離れてくれにゃ……」
「そんな……」
「ひどいニャーーー!」
うそ……なにその絶望したような顔……
「じょ、冗談にゃ。にゃ?」
「「シラタマ(殿~)さ~ん」」
「泣くにゃ~。ごめんにゃ~」
結局、強く言えないわしであった……
翌朝、前日の激しいスキンシップで毛が乱れたわしは、目覚めてすぐに猫型に戻って、二人の拘束から抜け出し、一人でシャワーを浴びる。
最近、朝風呂が日課になってきておる。ここまで来ると虐待じゃないか? ちょっと強く言うと泣くし、どうしたものか……
こうなったら、さっちゃんに頼まれた旅に出るか? 二人と一緒に旅に出れば、心配事も減って、激しいスキンシップは減るかもしれん。そうなれば、必然的に怒られる事も減る!
また怒られる心配をしておるな。おっと、早く戻らないと二人が目覚めてしまう。
わしはお風呂から上がると寝ている二人の間に潜り込み、人型に変身する。そして、二人が起きるのを待って、朝食、ブラッシング、掃除を行う。
掃除が終わると、一人で城に向かう。さっちゃんを訪ね……
「なんで逃げるのよ!」
怒られ、さっちゃんの計らいで女王を訪ね……
「なんで逃げるのよ!」
怒られる。落ち着いたところで、女王の依頼であった護衛依頼、輸送依頼の依頼完了書を貰う。そして、女王が買い付けた物を在るべき所に出して行き、おやつとお茶をご馳走になって城をあとにする。
労いの言葉と撫で回しを貰ったわしは、櫛で毛並みを調えながら、商業ギルドへ依頼完了書を提出する。
エンマにも撫で回され、また櫛を出して、ハンターギルドへ向かう。昼二の鐘が鳴り終わった頃に辿り着いたギルドでは、待ち合わせをしていたリータとメイバイと合流し、黒燕と黒鮪の素材を買い取ってもらった。
買い取りを済ましたら、暇そうにしていたティーサに報告書と依頼完了書を提出して談笑する。
「はい。依頼完了書も報告書も処理が終わりました。皆さんお疲れ様でした。でも、また変わった素材を持ち込みましたね。どこに居たのですか?」
「それは女王の依頼に関わるから言えないにゃ」
「あ! 場所は非公開でしたね。失礼しました」
「それにしても暇そうだにゃ~」
「オフシーズンですからね。狩の仕事は減りますが、女王陛下の誕生祭の仕事は増えて来てますよ」
ふ~ん。オフシーズンでも、それでハンターは食いっぱぐれないのかな?
「あ、そうそう。ギルマスからの伝言です」
「スティナの……」
「そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ。第二回キャットカップの開催日時が決まりました。指定依頼なので、空けておくように言われています」
「キャットカップ……ティーサもまたキャットガールになるにゃ?」
「あ……」
「ほら。嫌そうな顔になったにゃ」
「どうしましょう?」
「スティナに言えばいいにゃ」
「そんなこと出来ません! 猫ちゃん助けて~」
「にゃ! くっつくにゃ!! 離れるにゃ~」
ティーサが抱きついて来ても、ちゃんと拒否している。ほら? わし、悪く無い。
「「悪い!!」」
「にゃんでにゃ~~~!」
こうして女王からの旅の依頼は、最後まで心を読まれ、怒られて終わるのであった。
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