23 / 330
一章 帝都で夜遊び
023 依存症
しおりを挟む奴隷館にあるオーナーの自室では、フィリップと久し振りに会ったキャロリーナが盛り上がりすぎて3時間ぐらい話もできず。2人とも疲れたので1時間ほど休んでから、ようやく世間話になった。
「僕がいない間、何か変わったことあった?」
「そうねぇ……衛兵が男の子を捜してるとぉ、夜中に動き回っていたわぁ」
「それって僕のことだよね? だったら捕まってないのはわかったんじゃない??」
「そっちの線は消えたってだけよぉ。貴族の使いとか言う人もぉ妖精を探しに来てたしぃ」
「それもたぶん僕のことじゃない?」
「あ、やっぱりそうなのぉ??」
妖精の正体はキャロリーナも薄ら気付いていたみたいだけど、聞く前にフィリップが消えていたから確証は持てなかったみたいだ。
「お貴族様にも追われてるってぇ……」
「僕の情報網だと、本物の妖精だと思ってるみたいだよ。貴族ってバカだよね~」
「うん。貴族の情報にも明るいってことわぁ、そういうことなのかなぁ~?」
「僕もバカだった!?」
言い訳のつもりが墓穴を掘ってしまったフィリップは、秘密にしないともう来ないとか脅して世間話に戻る。
「てか、いまだに捜してるの?」
「ううん。1週間ほどぉ? 君が消えた上にぃ一切情報が出て来なかったから諦めたみたいよぉ」
「情報が出て来ない? 僕ってかなり目立っていたのに、そんなことあるの??」
「君は気付いていないみたいだけどぉ、夜に生きる者には凄く人気が高いのよぁ」
キャロリーナ曰く、フィリップの遊び方が豪快だから、ここ数ヶ月の夜の街はめちゃくちゃ景気が良くなっていたらしい。
娼館に足を運べば2人分払った上にチップを渡す。クラブに行けば自分は飲まないのに高い酒を注文して女性にたらふく飲ませる。酒場に行けば女性には奢り、ナンパして宿屋も潤う。
フィリップ1人で、夜の街1年分の経済効果があるから、自然と箝口令が敷かれていたらしい……
「うっわ……そんなに使ってたんだ……」
「ビックリでしょぉ? うちもツケの領収書見るの怖かったものぉ」
「それ、先に言ってよ~。白金貨2枚ぐらい先に渡しおくから!」
「うん。そんな物ぉ、ポンポン出て来るのも怖いわねぇ」
「あ、使いづらい? 金貨200枚渡そうか??」
「そっちのほうが助かるけどぉ……どこに持ってるのぉ??」
「こ、今度持って来る」
「はぁ~。白金貨1枚で当分足りるからぁ、金貨は細かく持って来てくれたらいいからぁ。そんなに簡単に大金を用意できる君は、本当に怖いわぁ~」
「たはは」
白金貨だけでもそうそう拝めないのに2枚も出て来たのだからキャロリーナも勘繰ってしまったが、フィリップが金持ちすぎるので素性に踏み込むことは完全に諦めた模様。
命の危険すら感じたのかもしれない。もしくは、夜の経済損失を計算したか、はたまたフィリップとの楽しい一時を失うことが怖かったのか……
「まぁ、みんなが守ってくれてるのはわかったけど、それは利益がある人だけの意見だよね。野郎ならたいして利益がないから、小金掴ませたら喋ると思うんだけどな~」
まだ謎が残っていたのでフィリップが予想を言うと、キャロリーナは首を横に振った。
「たまに男共を誘ってぇ、うちの系列以外の店に行ってたでしょぉ?」
「あ、それも知ってたんだ……」
「酒場でジャンケン大会なんて開いていたらぁ、嫌でも耳に入るわよぉ」
「だって~。キャロちゃんの紹介状だけじゃ、ハタチだと信じてもらえないと思ったんだも~ん」
この件を補足すると、キャロリーナの息の掛かっていないクラブや娼館に行く時には、フィリップ1人で行くと面倒くさいことになりそうだから、数人の酔っ払いを身元保証人として連れて行っていたのだ。
決め方はその酒場にいる野郎共でジャンケン大会。全てフィリップ持ちで募集するのだから、負けた野郎共もフィリップが来なくなると次に参加できなくなるので、衛兵にも「子供なんて知らない」と嘘をついていたみたいだ。
「なんだか全員、僕に依存しているみたいで怖い話だね……」
「確かにぃ……このままじゃ君なしじゃ経済が回らなくなるかもぉ……」
「あ~あ。楽しくやってたのにな~……もうちょっと来る頻度落とそっかな~」
「その場合わぁ、ここにわぁ??」
「隔週ぐらい??」
「毎日来てよぉ~~~」
「一番依存している人がここに……」
週2だった契約が週7になっているのだから、キャロリーナが文句なしのナンバー1。ひとまず週1は必ず来ると言って、徐々に依存度を下げようと思うフィリップであったとさ。
翌日の夜は、ミアの酒場に顔を出したフィリップ。入るなり酔っ払いに囲まれたので、相当心配していたことは伝わった。でも、野郎には興味がないので「もう奢らないぞ」と脅して追い払い、カウンター席に着いた。
「よかった~。殺されたかと思っていたよ~」
ここでもミアが絡み付いてフィリップの心配。店主も心配していたらしく、娘がフィリップに胸を押し付けていても微笑ましく見てる。
「ちょっと他の町に行ってただけだよ」
「他の町って……そこに家族が住んでるの?」
「ううん。ただの娼館巡り」
「最低だな……」
たんに詮索をかわそうと嘘をついただけなのに、フィリップは彼女気分のミアに冷たい目を向けられてしまった。
「なんかゴメンね。僕のせいでみんなに変な嘘をつかせちゃったみたいだね」
「もう知ってるんだ! 噂好きだから、イロイロ聞かせてあげようと思ってたのに~」
「うん。聞かせてくれる? 楽しみだな~」
「じゃあ、ベッドに行こう! そこで聞かせてあげる!!」
「仕事は!?」
ここにも、フィリップ依存症がもう1人。いつもは宿屋でしてるのに、自室に連れ込むミアであった……
「マスター、これだけあれば充分でしょ? 今日は全部僕の奢り! 騒げ~~~!!」
「「「「「うおおおお~~~!!」」」」」
「うわあああ~~~」
でも、聞き耳を立てられたら困るから、フィリップは戻って来て金貨を数枚積んで、酔っ払いを焚き付けるのであった。
1人だけ、涙ながらに叫んでいる人がいるけど……
12
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
猫王様の千年股旅
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む白猫に転生させられた老人。
紆余曲折の末、猫の国の王となったけど、そこからが長い。
魔法チートで戦ったり技術チートしたり世界中を旅したりしても、まだまだ時間は有り余っている。
千年の寿命を与えられた猫は、幾千の出会いと別れを繰り返すのであった……
☆注☆ この話は「アイムキャット!!? 異世界キャット漫遊記」の続編です。
できるだけ前情報なしで書いていますので、新しい読者様に出会えると幸いです。
初っ端からネタバレが含まれていますので、気になる人は元の話から読んでもらえたら有り難いですけど、超長いので覚悟が必要かも……
「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨミ」で同時掲載中です。
R指定は念の為です。
毎週日曜、夕方ぐらいに更新しております。
【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子
ma-no
ファンタジー
【クライマックス突入!】
ここは乙女ゲームが現実となった世界。悪役令嬢からの数々の嫌がらせを撥ね除けたヒロインは第一皇子と結ばれてハッピーエンドを迎えたのだが、物語はここで終わらない。
数年後、皇帝となった第一皇子とヒロインが善政改革をしまくるものだから、帝国はぐちゃぐちゃに。それを止めようと「やる気なし皇子」や「引きこもり皇子」と名高い第二皇子は悪役令嬢と手を組む。
この頼りなさそうな第二皇子には何やら秘密があるらしいが……
はてさて、2人の運命は如何に……
☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。
1日おきに1話更新中です。
虹色の子~大魔境で見つけた少年~
an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。
この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。
世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。
機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。
大魔境に、聖砡の反応あり。
聖砡。
恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。
アイムキャット❕❕~猫王様の異世界観光にゃ~
ma-no
ファンタジー
尻尾は三本、体は丸みを帯びた二足方向の白猫。実はこの中身は地球で百歳まで生きたジジイ。
神様のミスで森に住む猫に異世界転生したジジイは、人里に下りたらあれよあれよと猫の国の王様に成り上がり。国を発展させたり旅をしたりして世界を満喫していた白猫は、またまた違う世界に飛ばされちゃった。
その世界は勇者と魔王が戦う世界。最強の猫王様の取った行動とは……
☆注☆
このお話は「アイムキャット!!?」という作品の特別編ですが、前情報無しでも楽しめるように書いてあります。話自体も小説一冊分程度でまとめる予定ですので、是非とも暇潰しに読んでください。
そして行く行くは、本家のほうへ……(願望)
毎日一話、最終回までノンストップで更新する予定ですので、宜しくお願いします!
「小説家になろう」「カクヨム」で同時連載しております。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる