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いざ、輿入れ③
しおりを挟む自分に自分でツッコミしつつ、裾を捌いて丁寧に一礼する。ほとんど一夜漬けの所作だから何処かしら違和感があるに違いないし、着ていけと押し付けられた鮮やかすぎる空色のドレスは、暗い青灰色をしているユーフェミアの髪と目に全然合っていない。でもせめて、誠意とか感謝だけは伝わってほしい。
「温かい歓迎をありがとうございます。フィンズベリー伯爵家から参りました、ユーフェミアと申します。この度は身に余るご縁をいただき、恐悦至極に存じます。……幾久しく貴家のご繁栄の礎となれますよう、励んでいきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします」
最初の挨拶くらいは自力でしたいと、お世話になっていた家令さん達から教わって考えたものを、どうにか最後までつっかえずに言うことが出来た。ほっとした瞬間、先ほどにも勝る拍手が上がって思わずびくつく。良い人すぎやしませんか、ここの皆さん。
がしかし、さらにその上を行く人がいた。どうしようかと視線を向けた先で、ご当主ことセシリアまでちょっと涙ぐんでいたのだ。ぎょっとして固まったユーフェミアに、しきりにうなずきながら取り出したハンカチで目頭を抑えつつ、
「まあ、ちゃんと挨拶まで考えて来てくださったの……何て良い子、いえ、良いご令嬢なのかしら。弟は果報者ですわ、うちに嫁いでくださって本当にありがとう……!」
「いいいいいいいえっ滅相もない! あの、何だかすみません……!!」
既に十分オーバーリアクションなのだが、本人としてはそれでも気が済まなかったらしい。すたすた歩み寄られた末に両手をぎゅうううっ、と握りしめ、重ねてお礼まで言われてしまった。女神の如き美人さんに目の前で泣かれるとか、これでパニックになるなという方が無理な相談だ。
(どういうことなの弟さん! いったい今まで何やらかしてこの反応!? ……って、あれ?)
心の中でではあるが、自分で呼んでようやく気付く。一番いるべき人が足りなくないか?
「あの、セシリア様。弟さん――ええと、クライヴ様はどちらに?」
「それがねぇ、今ちょうど王城に行っているの。こんな日くらい休めばいいのに、急に招集がかかったからって。あの子ったら全く……ごめんなさいね、お仕事馬鹿で」
「い、いえいえ、とんでもない」
細かい指揮系統なんかは知らないが、大規模な事件や事故、災害などの有事には現場で動き回るのが騎士の役目、のはずだ。困ったものだと言いたげにため息をつく姉上、なかなか言い方に容赦がない辺りを見るに、こういうことは結構多いのかもしれない。邸の雰囲気が予想外だったので、ほんのちょっとだけどんな人なのかが気になってきたのだが、この分だとしばらく帰ってこなさそうだ。
とりあえずセシリアの方は泣きやんでくれたので、そこだけはほっとして内心胸をなで下ろしたとき、外で蹄の音らしきものが聞こえた。――その直後、どさりと何か重たいものが落ちる音に続けて、慌ただしい話し声、そして、
「セシリア様、大変です!! クライヴ様が……!!」
真っ青になって飛び込んできた、さっき扉を開けてくれた従僕の片割れが叫んだ内容に、温かい歓迎ムードが一気に吹き飛んだ。
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