ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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お色気研修デート(4)

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「まあいいか。そろそろ出るぜ。とりあえず松田と淳には今から俺とこいつのどちらかとデートして、口説いてなにかしら学べ」
「「雑!?」」
「なにかしらってなに? 私はなにに巻き込まれているの?」
「あー、まあそれもそうだよな。やっぱ松田は俺が担当するから朝科は淳に色気の出し方を教えてやって。なんか今度の仕事、声に色気を出さなきゃなんだって」
「ああ、乙女ゲームに出演するって言っていたものね」
 
 上手い。
 石動が事前にごまかしていてくれたおかげで「なぜ色気を学ばなければならないのか」をすんなり納得して受け入れてもらえた。
 
「でもなんで松田くんまで?」
 
 わかりやすくマツダが硬直する。
 ゲーム会社社員と紹介されている以上、松田にまでそれを学ぶ意味は当然疑問に思うところだろう。
 どうごまかす、と淳と松田が石動を見る。
 
「は? そんなのモサすぎて不愉快だからに決まってんだろ。せめて一緒に仕事してもいいと思える程度の人間性と清潔感を身につけろって思わん? 一応俺たちと同級生だった時期もあるんだぞこいつ」
「あ~~~~」
 
 納得されてしまった。
 松田がわかりやすくショックを受けているが、眼前に揃う国宝級お色気イケメンに言い返せるわけもなく、俯くしかない。
 一応、前回神野の授業を受けてから「お風呂は毎日入るようになりました」とか言っていて石動がこめかみに青筋を立てながら「は? 毎日風呂もシャワーも入ってなかったってこと? 殺すぞ?」と怒られていたので淳はフォローの言葉が出てこなかった。
 
「ちなみに槇さんは? ご一緒するのかな?」
「いえ、お邪魔なようでしたら別件の仕事もありますので私はここで」
「槇はいらね」
「石動くんはマネージャーさんにも口が悪いんだねぇ。そんな態度では愛想をつかされてしまうんじゃない?」
「そもそも俺、こいつ嫌いだし。社長にも『別に仲良くする必要はない』って言われているし」
「ええ……? 君の事務所、不可思議な体制なんだね……?」
 
 それはそう。
 仲が悪くてもいい、仲良くする必要も、仲良くなろうとする必要もない。
 ギスギスしていても、仕事だけは完璧にすればいい。
 “仕事に影響を出さない完璧さ”が求められる。
 
「うちは後藤くんの方がスケジュールパンパンで大変そうだよ。あの子卒業までマネージャー業を覚えるのは無理だろうねぇ」
「なに、あんな逸材裏方に置く気なのかよ?」
「彼自身の希望でね。まあ、ライブのあと隅で落ち込んでいるのもよく見たし、カウンセリングにも行っているようだからしばらくはそれでいいのではないかな。彼のスペックなら安定したあと表に出てくなればいつでも出られると思うし」
「あー。な。もったいねえけど……」
「そうだね。実際もったいないとは、私も思うけれどね」
 
 後藤、卒業後は秋野直芸能事務所でマネージャーになる予定らしい。
 淳もそれはもったいないと思うが、家を出て宇月と二人暮らしをしながらカウンセリングを続ければ、あの不安定さは改善されるだろう。
 彼が限界なのは素人目から見ても明確。
 
「というわけでこのモサいオタク野郎は俺が改造してくる」
「前に出るシごとの人ではないのだから手加減してあげてね?」
「制限時間は二時間な」
「え……まさかの制限時間付き……!?」
 
 割と本当に驚かれたが、槇を見送り朝科と淳、石動と松田に分かれて『色気のマンツーマン授業』が実地されることに。
 カフェで槇以外のメンバーの支払いをさらりと済ませて石動は松田とともにビル内の美容院へ行くらしい。
 
「なるほど髪型からか。うんうん、髪型も十分イメージを変えるものだよね。淳くんもまたずいぶん私の在学中とイメージが変わった。オレンジ色もとてもよく似合っている」
「ありがとうございます。先輩も髪を伸ばしたんですね」
「長髪は日織ひおりくんの担当みたいなところがあったんだけれど、あの子の場合作曲に夢中になって髪を切りに行く暇がないとかそういうずぼらな理由だからね。私が長髪担当になってあの子にはこまめな散髪に行かせるようにしたのだよ。卒業して淳くんに会えなくなってから、裏方の仕事をすることが増えて出不精気味でね、あの子。それを改善するべく『作曲作業配信』で表の仕事もさせているんだ。……まあ、あの作業配信にあそこまで需要があったのも驚きだけれど」
「あ……あはは……」
 
 事情がリアル。
 
「と、雑談はこのくらいにしよう。せっかく久しぶりに会えて、尚且つ君を独り占めまでできる貴重な機会だ。それで、役のために色気の出し方を学びたいのだったね?」
「あ、は、はい。そうなんです。上総先輩にはその……オタクは色気の出し方がなっていないといつも怒られてしまって。去年の魔王軍の……朝科先輩たちのMVを見て勉強しているんですけれど、だから自分が同じように出せるかと言われるとそれは難しくて」
「うんうん、よくわかるよ。我々も非常に試行錯誤したからね」
「やっぱりそうなんですか?」
「それはもう!」
 
 強く頷く朝科曰く、この路線を目指すきっかけもまた冬に淳が湯治魔王軍一年生で残った朝科たちのライブを応援しに来てくれたことだという。
 あのライブの時に、自分たちは観に来てもらう努力を怠っていたように思った。
 歌もダンスも練習して、それなりに観られるものにはなっていたがそれでもお客さんは集まってくれない。
 それ以外にも、『この人たちを観に行きたい』と思わせる“武器”が必要だろう――と。
 
「武器……!」
「おかしな話だよね。『魔王軍』などと物騒な名前を冠むっておきながら、我々は武器も持たずに戦場へ赴いていた。相手にされないのは当たり前だ。先輩たちは私たちになにも教えてくれないから、と自分たちの武器は自分たちで探して鍛えたし、それは間違っていなかったと思う。……まあ、日守くんのことはその風潮をそのまま受け継いでしまった私の完全なるミスだったようにも思うけれどね。今なら」
「え、あ、いえ……あれは本人の資質も関係していることだったと思うので」
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