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その命あるかぎり…誓えますか?

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 その後、しばらく蒼さんが入院をすることになったと、おにいさんへ連絡が入った。僕は一人でも平気だったんだけど、流石に義務教育中の僕を一人にしとくわけにはいかないと、璃々子さんが僕を引き取ると話した。でもそれはお父さんと顔を会わせることになる、というわけで。

 僕が作ったグラタンには一切手をつけないおにいさんは、面倒が嫌いとばかりに璃々子さんの提案に乗るよう無理やり話を終わらせようとしたんだけど、僕が渋るので……

『じゃあ、海のところに泊まればいいわ。柳ちゃんが一緒なら海の女の子を取っ替え引っ替えする悪い癖も直るでしょ』

 って、おにいさんの悪い癖とやらを聞いて首を傾げる僕に、電話越しの璃々子さん曰く名案! を残して彼女は電話を切っていった。

 おにいさんも、璃々子さんの名案! は流石に嫌だったのか、折り返し電話を掛けたけれど、そこは母の力なのか一枚上手の璃々子さん。すぐに携帯の電源を落としたらしい。おにいさんが「チッ!」と舌打ちをしてた。

 結局のところ、僕はグラタンを食べ終えるとすぐに荷物を纏めるように言われ、再びおにいさんの車に乗って移動をすることになった。

 おにいさんのお家は璃々子さんとは別らしく、独り暮らしらしい。どこに住んでるのかな~って車の外を眺めていると、何だか高いマンションばかりの土地に入っていく。え、どこ? ここどこ? と、不安になる僕を他所に、車はとある地下の駐車場へと入っていった。これは翌日のことだけれど、おにいさんが住むというマンションの外観を目にして僕の口から出た感想は「でかっ!!」だった。

 そんな陳腐な感想しか出ない僕なものだから、おにいさんの部屋へと通されたときも……

「広っ!」

 だったんだろうね。おにいさんは聞いてないみたいで無反応だったけれどね。しっかし、高層マンションの最上階とは……お金持ちめっ!!

 僕はキョロキョロしながら荷物を持っておにいさんの後について行くと、幾つかあるお部屋の内の一つを使うように言われた。そこには何もなくて、全く使われていないようだった。

 僕、地べたで寝ればいいの?

 おにいさんは終始無表情。でも、僕に先にお風呂場を使うよう案内を済ませると、最低限必要な物は揃っているから勝手に使いなさい、とだけ言ってお部屋の内の何処かに行ってしまった。

 人が住んでるはずなのに、内装に飾り気がないせいか、生活感がないように思える、寂しいお家。それが僕の感想だった。

 それに僕、すんごく嫌われてるみたい。と、思いながらシャワーだけ借りた。あ、シャンプーとトリ、いやコン……リンスの代わりのやつも使わせて貰ったけど。でも、全く嫌われてるようでもなかったみたい。僕がお風呂場にいる間に、僕が使うことになるお部屋に何処かからソファを運んでくれていた。ついでにブランケット二枚と枕も。

 蒼さんのお家に初めて来た時とおんなじだなあって。何だかちょっぴり嬉しかった。

 まあ、そこからが結構大変だったんだけど……。





 ――――…





「あれっ? また食べてない! も~僕のことは嫌っててもいいけど、ご飯だけは粗末にしちゃ駄目って……大人ならわかれや! あんにゃろ~!」

 同じ屋根の下で暮らすことになったとはいえ、基本的に僕とおにいさんはお部屋が別々。ご飯の時間も別々。お風呂も別々、寝る時間も別々で……顔を会わせることすらない。

 一体僕は何の為におにいさんのお家にいるのかわかんないような生活だった。心配を掛けちゃいけないと、僕は一時の住まいが変わったことを友達には内緒にしていた。しばらくすれば元に戻るはずだし、と。

 それでも、生活費ということでおにいさんから貰うお金はかの偉大な諭吉さんが十枚ほどで……。こんなに貰っても贅沢な使い方がわからない僕は自分の食事を作るついでにおにいさんの分も作ることにした。でも最初のグラタンを始め、作っても作っても全く手をつけてくれないものだから、いい加減止めようかと思っていた頃……

 ある日、夕立に遭いつつ買い出しから帰ると、玄関先で五日ぶりにおにいさんとばったり会った。しかも何故か上半身裸で。髪も濡れてるし、お風呂にでも入ったのかな? にしても、おにいさん意外にもムキムキの身体してるな……ちぇっ。

 おにいさんはといえばずぶ濡れの僕を見て、眉を顰めつつ聞いてきた。

「何ですか。そんなにずぶ濡れになって……雨宿りという言葉を知らない馬鹿ですか」

「それは知ってるけど……しょうがないじゃない。アイスクリームを買っちゃったんだから……」

 ついつい、半額の二文字に惹かれて買っちゃったアイスクリーム。おにいさんは食べないかもって思ったけど、ここぞとばかりに四個も買っちゃったから、溶かしちゃ駄目だって駆け足で帰ってきたのに。

 馬鹿って言われた。馬鹿って言われた~!

 びちゃびちゃの僕は買い物籠を床に置きながら、雨水を含んで重くなった服をその場で脱ぎ始める。重い~! と、身体に纏わりつく服をよいしょ、よいしょと脱いでいると、僕の頭にふかふかのバスタオルが掛けられた。

「あれ、使っていいの?」

「使わずに部屋に上がるつもりですか? 住むことは許しますが、この家を汚すことは許していません。さっさと拭きなさい」

「ありがとう!」

 僕はおにいさんの厚意にニコッと笑いつつお礼を言うと、髪から雨水を拭い始めた。おにいさんはジッと、僕のことを見ていたようだけど、すぐに買い物籠を持って部屋の奥へと行ってしまった。

 僕はその背に向かって大声を掛けた。

「あ! 中にアイスクリームが入っているから、それだけ冷凍庫に入れといてねー! 四個! 四個だよー!」

「煩いな……」

 何か聞こえた気がするけど、気にしない! アイスクリームさえ守って貰えれば僕は本望だ!

 おパンツ一丁になった僕は、濡れた服を抱えてバタバタと洗濯機の下へと走る。洗濯機も普段は別々に使っているけれど、今は使っていいのかな……?

 洗濯機の中を確認すると、おにいさんの服が中に入っていた。どうやら、今から使うつもりだったらしい。どうしよう。僕も使いたいんだけどな……。

 頭に乗っけたタオルで引き続き髪を拭きつつ考えていると、いつの間にか背後に立っていたおにいさんが「どいてもらえますか?」と、洗濯機の中の服を取ろうとしていた。僕と一緒に洗うのが嫌なんだね。

 でもさ。

「ねえねえ、一緒に使おうよ。洗濯機が回り終わったら僕が乾燥機に掛けるし、アイロンも掛けるよ。その方がお得だよ」

 それに別々だと洗う量も少ないもんね。勿体ないよ。

 そう思って提案したことだけど、おにいさんは却下した。

「貴方の下着と私の衣服を一緒に洗えと? 絶対に嫌です」

「下着くらい、お風呂場で洗うよ。ね、服ならいいでしょ? だってこの服、おにいさんのお下がりだよ」

 ほら! と。僕は濡れてびちゃびちゃの服をおにいさんに差し向けた。

 おにいさんは、「は?」とまるで知らない様子だった。

「見覚えない? 璃々子さんから息子のお下がりで申し訳ないけどって、よく服を貰ってたの。ブーツとかもおにいさんのお古だよ。おにいさんは成長が早かったし、寮に入っていたから殆ど着せられなかったって残念そうに言ってたよ」

 じゃなきゃ、お洒落なお洋服を僕が着るわけないじゃない。もちろん、僕の為にって璃々子さんに連れられて服を買いに行くこともあったけど、息子さんの話を聞いてから勿体ないねって僕がお願いしたの。ほら、お洋服屋さんに行くと試着があるでしょ? あれがどうしても恥ずかしくって。だからタダで貰えるのはとてもありがたかった。

 こんなに大きな息子さんだったなんて会うまで知らなかったから、病室で会った時は驚いちゃったけどね。

 でもおにいさんはそっけなく答えた。

「覚えがありません。元は私の衣服であれ、今は貴方の物なのでしょう? であれば、もはや私とは関係がない」

 おにいさんは、おパンツ一丁の僕を残してそこを後にした。

 む~! もう、一人で洗濯機を使うもんね! ついでにお風呂、入っちゃえ!

 僕は一人、既に沸かしてあったぽかぽかのお風呂に入ることにした。

 この時、気付けば良かったんだよね。お風呂が沸かしてあった理由に。

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