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そうだ。新婚旅行へ行こう
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その瞬間。僕の身体が宙を浮いた。
「えっ? か、海さんっ?」
正確には、抱きかかえられた、だ。決して軽くはない僕の身体を、海さんは突如として抱きかかえた。
僕はお姫様抱っこみたいに横抱きにされて、そのまま部屋の奥へと連行される。どこへ連れて行かれるの? と、思いながらも、落ちないようにと海さんの首にぎゅっと抱きついた。すると、海さんは声なく、大丈夫だとでも言っているように僕の肩を抱く腕に力を込める。
ぎゅっとされて、僕の鼓動がさらに早くなる。でも、不思議と不安はなかった。
何でだろう? すごく、安心する。ドキドキするのに、海さんの腕の中にいることが、とても安心する……。
「海さん……ん、んん……」
てっきりお布団だと思っていたお部屋の奥には、立派なベッドがあった。その上にゆっくりと降ろされ、そして寝かされると、海さんは僕に覆い被さるようにしてしっとりと唇を僕のそれに重ねた。
さっきも散々されたキスだけれどそれとは違って、啄ばむような優しいキス。僕の唇の感触を確かめるように、角度を変えて僕の唇にキスをする海さんの唇……すごく柔らかくて、気持ちいい。
海さんの唇の感触をもっと感じたくて、僕は自然と海さんの唇を食むように薄く開いてそれに吸いついた。やっぱり柔らかい……。すごく気持ちいい。
もっともっと吸い付きたくて、僕は何度か角度を変えてそれを繰り返す。すると、薄く開く僕の唇の中に、海さんは舌を挿し込んだ。僕の唇の内側をゆっくりと舐め回すと、その奥にある僕の舌に絡ませた。ザラリとした感触。ついさっきも感じたものなのに、まるで違うように感じるのは……僕も海さんの舌に吸いついているからなのかな?
「ん……ふ、んんぅ……」
あったかい……すごく、気持ちいい……。さっきの一週間分のキスよりも、すごく。すごく……。
僕は海さんの首に回す腕に力を込めた。もっと海さんが欲しいなって思って、海さんを僕に引き寄せるように。
「んあ……海さ……」
すると海さんは、僕に応えてくれるように、もっと深く唇を重ねてくれる。頭がぼんやりする程、深く唇を重ねて、舌を僕に絡ませる。でも、僕が苦しくないようにちゃんと呼吸もさせてくれる。
「ん、んん……」
はあ、と。どちらからともなく息を吐き出しながら、少しだけ唇を離す。海さんの黒い目がすぐ近くにあって、変な顔をしている僕を映していた。涙を浮かべているなんて全然気づかなかった僕の目尻に、海さんは唇を寄せてそれを拭うように優しく吸った。その優しい、僅かな行為も、僕の背中をゾクゾクと震わせる。
「んぅ……」
「お前は……嫌か? 私とこんなキスまでして……」
僕の質問には答えず、僕に質問をする海さん。いつもだったら、先に答えてって思うところだけれど、頭の中がぼんやりとしているからか、僕は海さんに答えていた。
「ううん……嫌じゃない、よ」
すると、海さんは僕の頬を優しく撫でてくれた。優しくて、でもちょっと冷たい海さんの手に、僕も自分の手を重ねた。
とても懐かしい感覚。なぜ、懐かしいと感じるのか、それはわからないけれど。こうして広いベッドに二人、顔を寄せ合って見つめ合うことが、とても……幸せだって感じる。
大袈裟だろうか。でも、こうして海さんに触れられることも、微笑んでもらえることも、ほっぺを触ってもらえることも。
ずっと。ずっと……ずうっと、望んでいたことだったから。
「柳?」
「え?」
海さんが怪訝な顔をして僕を見る。どうしたの? って、海さんに尋ねる前に、僕はほっぺに冷たいものを感じた。
「え……何で……僕、泣いてる、の?」
どうして涙が溢れてきたのか、海さんもわからなければ僕もわからなかった。でも、悲しいことがあったわけでもなく、怖い思いをしたわけでもなく。僕の目からは、ポロポロと涙が溢れてきた。
海さんが心配そうな顔で僕を見る。でも、ああそうか、と……僕は理由がわかった。
嬉しいんだ。すごく。
僕の夢が、まるで叶ったようで。嬉しいんだ。
こんなに誰かを愛しいと思う気持ちで、海さんと一緒にいられることが。
すごく、すごく嬉しいんだ。
「海さんっ……」
僕は海さんに抱きついた。理由はわからないけれど、何故だか無性に抱きつきたくなった。海さんの、大きな背中に腕を回したくって、僕は海さんの名前を呼んで抱きついた。
そして涙をボロボロと零す僕を、海さんは疎ましいと思わずに、優しく微笑んで背中を撫でてくれた。僕が泣き止むまで、落ちつくまで、安心するまで。
優しく、優しく撫でてくれた。
そうなんだ。これがきっと……。
わからなかった僕がずっと、海さんに抱いていた感情なんだ。
「えっ? か、海さんっ?」
正確には、抱きかかえられた、だ。決して軽くはない僕の身体を、海さんは突如として抱きかかえた。
僕はお姫様抱っこみたいに横抱きにされて、そのまま部屋の奥へと連行される。どこへ連れて行かれるの? と、思いながらも、落ちないようにと海さんの首にぎゅっと抱きついた。すると、海さんは声なく、大丈夫だとでも言っているように僕の肩を抱く腕に力を込める。
ぎゅっとされて、僕の鼓動がさらに早くなる。でも、不思議と不安はなかった。
何でだろう? すごく、安心する。ドキドキするのに、海さんの腕の中にいることが、とても安心する……。
「海さん……ん、んん……」
てっきりお布団だと思っていたお部屋の奥には、立派なベッドがあった。その上にゆっくりと降ろされ、そして寝かされると、海さんは僕に覆い被さるようにしてしっとりと唇を僕のそれに重ねた。
さっきも散々されたキスだけれどそれとは違って、啄ばむような優しいキス。僕の唇の感触を確かめるように、角度を変えて僕の唇にキスをする海さんの唇……すごく柔らかくて、気持ちいい。
海さんの唇の感触をもっと感じたくて、僕は自然と海さんの唇を食むように薄く開いてそれに吸いついた。やっぱり柔らかい……。すごく気持ちいい。
もっともっと吸い付きたくて、僕は何度か角度を変えてそれを繰り返す。すると、薄く開く僕の唇の中に、海さんは舌を挿し込んだ。僕の唇の内側をゆっくりと舐め回すと、その奥にある僕の舌に絡ませた。ザラリとした感触。ついさっきも感じたものなのに、まるで違うように感じるのは……僕も海さんの舌に吸いついているからなのかな?
「ん……ふ、んんぅ……」
あったかい……すごく、気持ちいい……。さっきの一週間分のキスよりも、すごく。すごく……。
僕は海さんの首に回す腕に力を込めた。もっと海さんが欲しいなって思って、海さんを僕に引き寄せるように。
「んあ……海さ……」
すると海さんは、僕に応えてくれるように、もっと深く唇を重ねてくれる。頭がぼんやりする程、深く唇を重ねて、舌を僕に絡ませる。でも、僕が苦しくないようにちゃんと呼吸もさせてくれる。
「ん、んん……」
はあ、と。どちらからともなく息を吐き出しながら、少しだけ唇を離す。海さんの黒い目がすぐ近くにあって、変な顔をしている僕を映していた。涙を浮かべているなんて全然気づかなかった僕の目尻に、海さんは唇を寄せてそれを拭うように優しく吸った。その優しい、僅かな行為も、僕の背中をゾクゾクと震わせる。
「んぅ……」
「お前は……嫌か? 私とこんなキスまでして……」
僕の質問には答えず、僕に質問をする海さん。いつもだったら、先に答えてって思うところだけれど、頭の中がぼんやりとしているからか、僕は海さんに答えていた。
「ううん……嫌じゃない、よ」
すると、海さんは僕の頬を優しく撫でてくれた。優しくて、でもちょっと冷たい海さんの手に、僕も自分の手を重ねた。
とても懐かしい感覚。なぜ、懐かしいと感じるのか、それはわからないけれど。こうして広いベッドに二人、顔を寄せ合って見つめ合うことが、とても……幸せだって感じる。
大袈裟だろうか。でも、こうして海さんに触れられることも、微笑んでもらえることも、ほっぺを触ってもらえることも。
ずっと。ずっと……ずうっと、望んでいたことだったから。
「柳?」
「え?」
海さんが怪訝な顔をして僕を見る。どうしたの? って、海さんに尋ねる前に、僕はほっぺに冷たいものを感じた。
「え……何で……僕、泣いてる、の?」
どうして涙が溢れてきたのか、海さんもわからなければ僕もわからなかった。でも、悲しいことがあったわけでもなく、怖い思いをしたわけでもなく。僕の目からは、ポロポロと涙が溢れてきた。
海さんが心配そうな顔で僕を見る。でも、ああそうか、と……僕は理由がわかった。
嬉しいんだ。すごく。
僕の夢が、まるで叶ったようで。嬉しいんだ。
こんなに誰かを愛しいと思う気持ちで、海さんと一緒にいられることが。
すごく、すごく嬉しいんだ。
「海さんっ……」
僕は海さんに抱きついた。理由はわからないけれど、何故だか無性に抱きつきたくなった。海さんの、大きな背中に腕を回したくって、僕は海さんの名前を呼んで抱きついた。
そして涙をボロボロと零す僕を、海さんは疎ましいと思わずに、優しく微笑んで背中を撫でてくれた。僕が泣き止むまで、落ちつくまで、安心するまで。
優しく、優しく撫でてくれた。
そうなんだ。これがきっと……。
わからなかった僕がずっと、海さんに抱いていた感情なんだ。
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