超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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 孝宏が荷物の中から、絵本を取り出そうと手を伸ばしたその時、大きな音と共に車がグラリと揺れた。

 何度も繰り返し、外から何かがぶつかっているようだった。

 まるで波打つような、悲鳴にも似た鳴き声を聞いて、カウルが一番に反応した。揺れが止まった一瞬を逃さず、外に飛び出す。

 しばらくすると、揺れがやや小さくなり、カダンとルイが続けて外に出た。

 マリーと最後に孝宏は、完全に揺れが収まってから車を降りた。


 外ではカダンとカウルが牛の手綱を短く持ち、懸命に車から離そうと牛を引いていた。

 牛は酷く興奮した様子で、首を振り繋がれた手綱を解こうと躍起になっている。


「カダン、まさか近くに何かいるのか?」


 一つ目の太陽が沈み、残った小さな太陽も今まさに沈まんとしている。

 林の中にそれを探して目を凝らすが、辺りはすでに薄暗く、林には一足早く夜が訪れている。


「いや、変な匂いはしない、音も。少なくとも、すぐ近くにはいないと思う」


「なら、どうしてこうなるんだ!?」


 カウルは何とか宥めようと、いつもと変わらない口調で牛に話しかけた。普段であれば、他の誰が無理でもカウルにだけは従う牛も、今回は興奮が静まる様子はない。


「その中なら安全だから。二人ともそこにいて」


 結界の外からルイが言った。

 確かに、薄っすらと青く色づく半球が、車を中心に覆う。孝宏はそれを内側から掌でなぞった。

 ルイに言われなくても、これでは外に出ようがない。


 ルイの指先から魔力が零れた。こぼれた魔力は空中で、パチンと弾け消えていく。


「見えない壁があるのね。車を覆っているの?」


 マリーが恐る恐る手を伸ばし、カーブを描く結界を確かめている。彼女の目には結界が、無色透明であるに違いない。

 その時、マリーの手元を飾る、これまではなかった花に、孝宏が気が付いた。


「なあマリー。その花ってもしかして、村の……あの花?」


「そう、可愛くて結構良いでしょう?カウルが作ってくれたの。魔法で枯れないようしてくれたの」


 マリーの左腕の手首を飾るのは、村の跡に咲いた春告草だった。

 白い花の腕輪は沈みかけの太陽の光に反射して不自然に光る。

 孝宏は風になびくそれを、初めは糸でも絡まっているかと思ったが、指を絡めようとしても、取るどころか触れることすらできない。


「もしかしてこれが魔法か?慣れねぇな、これ」


 見えなくとも魔法とか魔力と言ったものは、孝宏にとって不便を感じるものではなかった。

 たが、これまではまったく見えなかったのだ。見えないことに対して違和感はないが、むしろこうして見えてしまった時に戸惑ってしまう。


「へえ……カウルが魔法までかけて作ったの?それは本当に珍しいね」


 いつの間にか結界の中に、ルイが入ってきていた。

 孝宏は思わず結界を、手で触って確かめた。固い壁が、確かにそこにある。


「結界を張ったのは僕だよ?出入りも自由に決まってるじゃないか」


 孝宏はルイの向こう側、結界の外から視線を投げかけるカウルと目が合った。すぐに反らされたが、気になるのか、必死に牛を宥めながらも、何度もこちらを見ている。

 その事に肝心のルイとマリーは気が付ていない。


「この腕輪が気になるの?」


 マリーが手首を数回捻り、それに合わせて、腕輪もくるりと回転した。ルイに見せる為というよりは、寧ろマリーはそれを楽しんでいる節がある。

 ルイは表情をピクリとも変えず、マリーの手を取り、腕輪をマジマジと眺めた。


 俯くルイの顔を、マリーからは見えないが、しゃがんでいた孝宏には、しっかり見えていた。

 ターバンを巻いたルイの目から、光が消える。


「えと、何か……」


 マリーははにかみ訊ねた。


「うん……まあ……」


 ルイは生返事を返した。


「カウルは魔法が苦手だから。ちょっと驚いただけ」


 カウルは道具をなしに魔術を使わない。少なくとも孝宏は一度も見たことはなかった。

 意中の相手に贈り物をするというのは、国や世界が変わっても、何なら種族が変わっても同じような意味合いを持つもので、マリーがはにかむのもそういう事なのだろう。

 ルイの心中を察するにだいぶ居心地が悪くも感じるが、孝宏としてはやじ馬根性の方が勝った。

 この後ルイがどうするのかが気になって仕方なかった。


(まさかここで喧嘩とか始まらないよな?)


 孝宏から見たルイは、自分の感情を隠すのが思いの外下手だ。

 そんな彼が無表情でいる。ターバンで顔を隠していても良く解る。

 孝宏にはそれが返って彼の感情を良く表している気がしていた。

 やがて顔を上げたルイは、複雑そうにしながらも笑顔だった。


「この花さ…………大切にしてやってよ。特別な花だから」


「解ってる、もちろんよ。春を呼ぶ花なんでしょう?カウルに教えてもらったの。それに村に咲いた花なんだから特別よ」


「そうだけど…………違うよ」


 ルイはさも可笑しそうに笑った。

 ルイが後ろを振り返り、カウルと目が合った。互いの真剣なまなざしが交叉し、先に根負けしたのはカウルだった。

 カウルが目を逸らし、ルイがふっと笑う。

 ルイはマリーの耳元に顔を近づけた。

 わざとそうしたのだ。カウルが二人を見てる。


「春は恋の季節だから。それは将来を誓う花なんだよ」


 ルイの肩越しにカウルと目が合い、マリーの耳が赤く染まる。




 春に咲く花に、託すのは恋心。



 散った想いを乗せ、駆け抜けるのは春の風。



 願いを秘めて、胸に抱くのが夢の花。








 それはルイの失恋が決定的となった瞬間だった。

















 

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