超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
72 / 180
冬に咲く花

69

しおりを挟む

「ご…………んな……ごめ……」


 虚ろな表情で火を眺める孝宏の瞳から、涙が一筋流れ落ちた。

 唇が繰り返す微かな呟きに気付き、労いの言葉を掛けようとした三人が言葉を飲み込み、しばし呆然と立ち尽くす。

 彼がこれほど素直に人前で涙を見せたのは初めてで、三人は顔を見合わせ、互いに心当たりを探るが、誰も思い当たらない。


「ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい」


 泣きじゃくるでなく、静かに涙を流しながら、繰り返し謝る孝宏。

 何に謝っているのか、カダンが尋ねた。

 すると孝宏は一瞬肩を大きく震わせ、唇を噛んで黙る。

 彼は明らかに怯えいた。


 孝宏は振り返った。カウルと目が合うと表情を強張らせたが、目を閉じ呼吸を整えると、体ごと向き合い、固い鉄の上で正座した。


 そして意を決し、口を開いた。


「俺、知ってた」


 告白しようと決心しても、いざ言うとなるとどうしても言葉が出ずに、今さら二の足を踏んでしまう。

 孝宏の唐突の告白に困惑した三人も、次の言葉を待っている。


「……何を?」


 痺れを切らしてカウルが尋ねた。

 ただ孝宏の様子から、良い話でないと、想像が付いているらしく、表情は曇っている。

 孝宏はカウルの目を見れず俯いてしまった。


「村が………襲われるって……知ってた」


 カウルが凍り付いた。


「それがどうしたって言うんだ?あれだろう?カダンが言っていた、夢の話だろう?ユウシャが現れたから次はってやつ。そんな事皆知ってる。カダンから聞いてたしな……そう言うことだろう?」


 カウルは自分で言っていても何か違う、そういうことではないと、心のどこかで解っているのだろう。声が震えている。

 ここでそうだと言って、話を誤魔化すこともできるかもしれないし、そもそも黙っていたなら誰も傷つかなかった。

 わかっていながら、孝宏は声を荒げ否定した。


「違う!この村が……って言うか、正確にはコレーが襲われるって知ってた。人がたくさん死ぬって解ってたんだ!」


 とんでもない事を、大声で口走った孝宏に、カダンはぎょっとし慌てて孝宏の口を塞いだ。


「自分が何を言ってるのか解ってる?」


 声を潜めて言ったがすでに遅かったようで、離れた所で見張りをしていた兵士が、訝し気にこちらを気にしている。

 今の話を聞かれていれば、孝宏は間違いなく連行されるだろう。

 兵士は両手で持つ槍を構え直し、こちらに歩いてくる。彼の目には困惑の中にも、敵意が見え隠れする。


「捕まりたくなかったら、少し黙ってて。良いね?」


 カダンは孝宏とカウルに念を押して、兵士に近づいて自分から話しかけた。


 兵士は不意に耳にした、不穏な話の審議を確かめたがっていたが、幸いにもはっきりと聞こえていなかった為、カダンが暗示で上手く誤魔化した。

 だが、このままここで話をしていると、今度こそ聞かれてしまうだろう。

 カダンは孝宏を休ませると言い、兵士たちが治療を受けるテントではなく、自分たちの車へ移動した。





 


 この世界に来た時、この国の言葉だけではなく、これから起こるであろう、いくつかの出来事を何故か知っていながらも、誰にも言わず黙っていたと、孝宏は正座し顔を俯けながら打ち明けた。


「どういうことだ?まさか皆を見殺しにするつもりだったのか!?説明しろ!」


 孝宏が言い終わるや否や、カウルは孝宏に掴みかかり、襟首をぎゅっと締め上げた。

 呻きながらも抵抗しない孝宏を、揺する彼の目は必死で、周囲の静止など耳に入っていない。


 否応なく目前に突きつけられるカウルの顔を、滲む涙で歪ませながら、孝宏は吐き出すように言った。


「本当になるなんて思わなかったんだ!これはただの…………俺の思い込みだって!……思って…………」


 孝宏は断罪される罪人の気分だった。


 異世界に来て、一番信じられなかったのは自分自身だと言ったら、彼らはわかってくれるだろうか。


 知らない言葉を当たり前のように喋り、記憶しているはずのない未来を知っていた。

 それらを受け入れるには、あまりにも変化が大きすぎた。


「だから、ごめんなさいか?」


 カウルの手が緩み、孝宏は苦しさから解放された孝宏が、大きく咽て背中を丸めた。

 大きく息を吸い込み、苦しくて唸っていたのが、いつしか嗚咽に変わり、両目から零れ落ちる大粒の涙が床に染みを残し、吸い込まれ消えていく。


 しばしの沈黙の後、孝宏は言った。
 

「違う……俺は帰りたい。地球に帰りたい。帰って友達に、家族に会いたい」


 カウルを見上げ、しっかりと目を合わせた。


「だから、ごめん!俺は勇者にはなれない…………俺は地球に帰りたい!」


 車内は水を打ったように静まり返り、思い沈黙の中、カダンが黙ったままフラりと外に出て、カウルがそれを追った。




 車内に取り残され、マリーと二人きりになった孝宏は、急に気恥ずかしくなり、袖で涙を乱暴に拭いた。


「家族に会いたいからって言って、誰があんたを責められるっていうのよ。私だって会いたいもの」


 マリーは立てた膝を両手で抱え、顔を埋めて言うのだから、声が少しくぐもっている。


「でも、マリーは帰らないんだろう?」


「ん、約束したから帰らない。」


 決して帰れないとは言わない。


 孝宏は息を整えると、おもむろに車の外に出た。先に出た二人を探す為ではない。


「どこに行くの?」


「さっきの場所に戻る。俺が見落としたやつが、まだ生きてるかもしれないし。それにあそこにいれば、いざって時に役に立てるかもしれないじゃないか」


「私も付き合う」



 結局孝宏とマリーは、朝を壁の上で迎えた。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

処理中です...