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冬に咲く花
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しおりを挟む突然、孝宏の両手から勢いよく、弾けるように火が吹き出した。
カダンは火の勢いに押され背中から地面に倒れた。すぐに起き上がり頭を振る。
火は孝宏の掌から吹き出して、上へ立ち昇る。
両手を地面に付いて体を支えていたため、吹き出した火は孝宏の腕をを一気に包み込み、全身に広がった。
皆に夢だと言われた、あの晩の痛みはさっぱり思い出せなかったが、全身を焼かれ絶望した記憶が鮮明に蘇り、同じように焼かれるのだと、孝宏は一瞬だけ身構えた。
しかし、火が噴き出したと同時に、内側の痛みも熱もすっかり消え、自身を包む火は不思議と熱くなく、幻覚を見ているのかとさえ思う。
オレンジ色の揺らぎに下から包み込まれた、ただそれだけだった。
あの時と違い、蝶も飛んでいないし熱くもない。
だからといって、違う現象と言い切れないのは、あの時も何一つ焼かれていなかったからだ。
孝宏が炎に包まれていたのは、あっという間だった。炎は散るように、パッと弾けて消えた。
「カダン……怪我ない?」
「タカヒロ、今すぐ服を脱いで」
孝宏は状況が理解できないまま、とりあえずカダンに声をかけた。
気迫の籠った表情で固まっていたカダンの、ちぐはぐな返答に、孝宏は初め、冗談を言っているのかと思った。
冬の真っ只中、誰もが厚着をして暖をとっているというのにだ。よりにもよって外で裸になれば、寒さで凍えてしまうだろう。
突然吹き飛ばされ、カダンが怒って仕返しをしようとしているのだろうとしか思えなかった。
孝宏は両膝を地面に付いたまま、上着の前部分を合わせて固く握り締めた。
「嫌だよ。決まってんだろ?」
カダンは一見落ち着いているが、息を潜めこちらを伺う目に苛立ちが見える。
「少しでイイから……ね?」
カダンは口元のみに笑みを浮かべ、穏やかに小首をかしげる。
(ね?って少しも可愛くない。こえぇぇぇ)
孝宏は肩をぐいっと押され、不安定な姿勢のまま、ころんと後ろに倒れた。
地面の上で仰向けになる。視界映る空と屋根の端っこ、そこにカダンが割り込んできた。胸の前でしっかり閉じた両腕を、無理やりほどかれ、片手で頭上に固定された。
「すぐ終わるからじっとしてて。乱暴はしたくなんだ」
「カダン、頼むから、状況を説明してくれない……かな?」
孝宏の声が震えた。カダンが本気だと分かれば、途端に自分がどうなるのか怖くなった。
先程までの彼とあまりにも違いすぎる。
揶揄い半分の雰囲気がガラリと180度変わった。目つきはさらに険しくなり、今の彼なら人も簡単に殺してしまいそうだ。
「タカヒロから変な匂いがするんだ」
本当ならここで嫌がって、多少なりとも抵抗するのが正解かも知れない。だが、カダンの気迫が、孝宏の気力も根こそぎ奪い取ってしまい、体が動かせない。震えるばかりで怯えてカダンを見上げるだけ。
涙を流さないのは、最後の抵抗だった。
カダンがシャツを捲し上げた。むき出しの肌が冬の寒空に晒される。
「やっぱり…………これ、凶鳥の兆しだ」
「………………はい?」
聞こえなかったわけではないし、別に期待を裏切られたわけでもない。
全く想像もしていなかった単語に、意表を付かれただけだ。
カダンは声を少し張り上げて、言い直した。
「凶鳥の兆しだよ。前はお腹に痣なんてなかったはずだよね?鳥に似た痣は凶鳥に兆しって言って、厄を呼ぶんだって前に言ったと思うけど」
「でも……」
「でもじゃないよ!?こうしてタカヒロのお腹にアザがあるんだ。どうして言わなかったの!?まさか忘れてたんじゃないでしょう?この痣はいつぐらいにできたの?」
押さえつけられた両手首に徐々に与えられる圧迫が増し、肌に砂利が食い込むが、幸か不幸かすでに手首の感覚が鈍くなっており、それほど痛みは感じない。
「痣?何のことだよ」
「タカヒロの腹にある火傷のような痣だよ」
(痣?何の事だ?)
孝宏自身に腹に痣がある自覚がなかった。
だから言われてもピンとこず、抑えられつつも頭をもたげ目を眇めた。すると、確かに腹に痣らしきものが僅かに見える。
(一体いつの間に?でも火傷みたい……いや、まさかこれって……)
「火傷っていうなら多分だけど、ここに来たばかりの頃かも。まだ、魔法陣の中で寝ている時。たぶんだけど」
最後にたぶんと付け足したのは、孝宏もはっきりと覚えていないからだった。
それに毎日風呂に入っているのにも関わらず、まったく気が付いていなかったのだから、いつの間にできたのだろう、というのが正直な感想だった。
唯一の心当たりがあの晩の出来事だ。
「そんな前に?どうして黙ってたの!?これは大変なことなんだよ、わかってる?いや、わかってないよね。凶鳥の兆しが現れたということは、始まるんだ、世の中を巻き込んだ騒乱が。少しでも早く警告できれば、それだけ多くの命が助かる可能性が高くなる。遅れればそれだけ、犠牲者も多くなる。それなのにこのまま、魔法も使えずにいたら、死ぬよ?孝宏はそれがわかっていない。危機感がない!」
押し寄せる波のごとく迫ってくる言葉の波は、半分も頭には収まらなかった。ただ、一方的な責めと、吐き捨てるような物言いに、腹の底からこみ上げるものがあった。
「タカヒロには勇者の自覚がなさすぎる!」
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