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冬に咲く花
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「少し位は眠かったり、怠かったりしない?」
調子が良いに越したことはないと思うが、彼には違うらしい。
真剣な目つきで床の文字を、床に付けずになぞり始めた。
「おい、ルイ。どうしたんだ?」
カウルがルイの背中越しに床を覗くが、ルイは構うことなくポケットから紙を取り出し、床の文字と照らし合わせている。
「魔法陣、この設計図とはあっているけど……」
ルイが自信なさげに呟く。相変わらず表情は曇ったまま。
今のままで何がいけないか尋ねたい気持ちと、邪魔をしてはいけない理性とがせめぎ合い、結局何も言えず次の言葉を待ったが、ルイは《調べる》と言い残し、自身の部屋に引きこもってしまった。
一方の孝宏は呆け有り余る体力を持て余していた。
このままじっとしているのは耐えられず、無意識にアグラをかいた膝を揺らす。
「光の力が強すぎるんだよ」
カダンが文字の一部、陣の端、壁に接する部分を指差した。
「この式じゃあ、光が集まりすぎる。タカヒロがじっとしていられないのはそのせいだね。多分ココとココを入れ替えて、これをココに加えれば良いと思うんだけど……」
カウルが浅く、何度も頷く。
そればかりか地球出身の二人までもが同様に頷くあたり、置いていかれているのは孝宏だけだ。
カダンとカウルは当然として、地球人の二人まで頷くのはどういう訳だろう。
自分の意識がない間に、世界に馴染んだ二人に途方もない距離感を感じる。
「つまりね、バランスが大事なんだよ。一方の力が強いから、本来とは違う作用が生まれる。魔法はそういうものなんだ」
カダンが説明してくれても、孝宏にはさっぱり理解できない。
「まあ、解らないのも無理はないか。しょうがないから説明してやる」
カウルが大げさに咳払いをした。
「そっちの世界ではどうかは知らないが、闇は夜に通じ、光は昼に通じる。傷や体を癒すのは夜で、すなわち闇。光は活動するのに必要な力をくれる。単純に言えば通常よりも強力な力と、強靭な肉体を手に入れることができる。便利なようだがその反面、体に疲労が蓄積されても気付きにくい。多用すれば気が付かない内に体の機能が壊れ、最悪突然死ぬことだってある」
そのあとをカダンが引き継ぎ続けた。つまりね、と孝宏に笑顔を向ける。
「今のタカヒロが元気なのは、光が作用していて体は癒えていないのに、無理に動かしているということ。光の力がなくなれば、とたんに動けなくなるよ。地球だって、ずっと動き続ければ体を壊すでしょ?薬で誤魔化しても、癒えてはいないから倒れちゃう。それと一緒だよ」
夜になれば眠りについて、体を休めると同じ。
今一番必要なのは動く体ではなく、傷を癒し休めるということ。
それならば、寝心地の良いベッドなり、気分的にも休める場所があるだろうに。
それが台所で寝転ぶはめになっているのはどういうわけだろう。確かに心地よいが釈然としない。
孝宏以外の四人が魔法陣談義に花を咲かせて数分後、ようやくルイが部屋から出てきた。
「思ったより早かったな。魔法陣の式はわかったか?」
「もちろん。伊達に魔術師を目指してないよ。本当は、本なんて見なくてもだいたいわかっていたんだけど、念の為に確認しただけだよ」
ルイは手に持った紙を見ながら、床の文字を数箇所書き換え、最後に床を三回叩いた。
「魔法を使うって言っても、呪文を唱えたり、杖を振り回したりするわけじゃないんだ」
想像していたのは、テレビや映画で見る長いローブを身にまとった魔法使い。
杖を振り回し、又は精霊を使役し、呪文を唱え奇跡を起こす、あからさまなやつだ。ルイはそのどれもしない。ローブはないとしても、呪文くらいは期待していた。
「呪文や道具を使うこともあるけどね、今回はいらないよ。陣があれば十分だよ」
「そんなもんなんですね……」
孝宏は急にふらりと意識が揺れ、にやりと笑ったルイの顔が歪んで見えた。初めに頭が、次に肩と腕が重くなり、ついに寝床の上に仰向けに横たえた。
「二、三日後には動けるようになっていると思うから、もう少し我慢してよね」
(目は黒いと思っていたけど、なんだ赤みがかっていんだな)
今はそんなの関係ないだろうに、孝宏はどうしてかルイの瞳に見入っていた。
(キラキラして綺麗だな)
「我慢も何も、体が動かないから、さっきと違ってすげぇだるい……」
何となく目を閉じたが眠くはない。だが指を動かすのも面倒なほどで、不便さは感じない。どうでも良い事ばかり考える。
きっとそのうち夢を見ないほどに寝てしまい、それこそ広がる闇に包まれるのだろう。
調子が良いに越したことはないと思うが、彼には違うらしい。
真剣な目つきで床の文字を、床に付けずになぞり始めた。
「おい、ルイ。どうしたんだ?」
カウルがルイの背中越しに床を覗くが、ルイは構うことなくポケットから紙を取り出し、床の文字と照らし合わせている。
「魔法陣、この設計図とはあっているけど……」
ルイが自信なさげに呟く。相変わらず表情は曇ったまま。
今のままで何がいけないか尋ねたい気持ちと、邪魔をしてはいけない理性とがせめぎ合い、結局何も言えず次の言葉を待ったが、ルイは《調べる》と言い残し、自身の部屋に引きこもってしまった。
一方の孝宏は呆け有り余る体力を持て余していた。
このままじっとしているのは耐えられず、無意識にアグラをかいた膝を揺らす。
「光の力が強すぎるんだよ」
カダンが文字の一部、陣の端、壁に接する部分を指差した。
「この式じゃあ、光が集まりすぎる。タカヒロがじっとしていられないのはそのせいだね。多分ココとココを入れ替えて、これをココに加えれば良いと思うんだけど……」
カウルが浅く、何度も頷く。
そればかりか地球出身の二人までもが同様に頷くあたり、置いていかれているのは孝宏だけだ。
カダンとカウルは当然として、地球人の二人まで頷くのはどういう訳だろう。
自分の意識がない間に、世界に馴染んだ二人に途方もない距離感を感じる。
「つまりね、バランスが大事なんだよ。一方の力が強いから、本来とは違う作用が生まれる。魔法はそういうものなんだ」
カダンが説明してくれても、孝宏にはさっぱり理解できない。
「まあ、解らないのも無理はないか。しょうがないから説明してやる」
カウルが大げさに咳払いをした。
「そっちの世界ではどうかは知らないが、闇は夜に通じ、光は昼に通じる。傷や体を癒すのは夜で、すなわち闇。光は活動するのに必要な力をくれる。単純に言えば通常よりも強力な力と、強靭な肉体を手に入れることができる。便利なようだがその反面、体に疲労が蓄積されても気付きにくい。多用すれば気が付かない内に体の機能が壊れ、最悪突然死ぬことだってある」
そのあとをカダンが引き継ぎ続けた。つまりね、と孝宏に笑顔を向ける。
「今のタカヒロが元気なのは、光が作用していて体は癒えていないのに、無理に動かしているということ。光の力がなくなれば、とたんに動けなくなるよ。地球だって、ずっと動き続ければ体を壊すでしょ?薬で誤魔化しても、癒えてはいないから倒れちゃう。それと一緒だよ」
夜になれば眠りについて、体を休めると同じ。
今一番必要なのは動く体ではなく、傷を癒し休めるということ。
それならば、寝心地の良いベッドなり、気分的にも休める場所があるだろうに。
それが台所で寝転ぶはめになっているのはどういうわけだろう。確かに心地よいが釈然としない。
孝宏以外の四人が魔法陣談義に花を咲かせて数分後、ようやくルイが部屋から出てきた。
「思ったより早かったな。魔法陣の式はわかったか?」
「もちろん。伊達に魔術師を目指してないよ。本当は、本なんて見なくてもだいたいわかっていたんだけど、念の為に確認しただけだよ」
ルイは手に持った紙を見ながら、床の文字を数箇所書き換え、最後に床を三回叩いた。
「魔法を使うって言っても、呪文を唱えたり、杖を振り回したりするわけじゃないんだ」
想像していたのは、テレビや映画で見る長いローブを身にまとった魔法使い。
杖を振り回し、又は精霊を使役し、呪文を唱え奇跡を起こす、あからさまなやつだ。ルイはそのどれもしない。ローブはないとしても、呪文くらいは期待していた。
「呪文や道具を使うこともあるけどね、今回はいらないよ。陣があれば十分だよ」
「そんなもんなんですね……」
孝宏は急にふらりと意識が揺れ、にやりと笑ったルイの顔が歪んで見えた。初めに頭が、次に肩と腕が重くなり、ついに寝床の上に仰向けに横たえた。
「二、三日後には動けるようになっていると思うから、もう少し我慢してよね」
(目は黒いと思っていたけど、なんだ赤みがかっていんだな)
今はそんなの関係ないだろうに、孝宏はどうしてかルイの瞳に見入っていた。
(キラキラして綺麗だな)
「我慢も何も、体が動かないから、さっきと違ってすげぇだるい……」
何となく目を閉じたが眠くはない。だが指を動かすのも面倒なほどで、不便さは感じない。どうでも良い事ばかり考える。
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