「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟

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魔術師再び 後編

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「この大きな樹木の正体はノエ様だったのね」



 今は何の声も聞こえないが、きっと最後の力を振り絞って、自分に話しかけてくれたのだろう。手早く朝食を済ませると、メアリは立ち上がって、太い枝が指す方へ向かった。

 

 ツリーハウスはすぐに見つかり、メアリが戸の前で足を止めると、



「どうぞお入りください」



 中からニキアスの声がして、そっと戸口を開ける。

 彼は赤々と燃える暖炉のそばに立っていて、笑顔で迎えてくれた。



「やあ、待っていましたよ」



 怒りの感情に支配されないために、なるべくニキアスの顔を見ないようして部屋に入る。すばやく室内を見回して、奥の部屋へ続く廊下を見つけた。メアリは彼を無視しして通り過ぎようとするが、



「なぜ僕を無視するんですか?」



 悲しそうな顔で立ち塞がれてしまう。咄嗟に「邪魔をしないで」と怒鳴りそうになり、慌てて口をつぐむ。ここで答えてしまったら、呪いで樹木の姿に変えられてしまうからだ。



「さすがはメアリ様、そのご様子だと、知っているんですね」



 必死に顔を背けるメアリに、ニキアスも察したようだ。



「安心してください。あなたに呪いをかけるつもりは更々ありませんから。あなたにここに来てもらったのは、僕の庭を見てもらいたかったからです。魔の森に似せて作ったので、あなたにも気に入ってもらえると思って」



 ちらりと彼の顔を見ると、明らかに尋常ではない目をしていた。元より、人間を樹木に変えて森を作るなんて、常軌を逸している。



 ――どうしてここまで……。



 彼が変わってしまったのは自分のせいだろうか。

 いや、今は自分を責めるのはよそうと、メアリは頭を切り替える。



 ――アキレス様を見つけるのが先よ。

  

 それに呪いをかけるつもりはないと言われても、これまでのニキアスの行動を考えると、信用できなかった。さらに唇を強く閉じると、ニキアスはそれを見て薄く笑う。

 

「このまま僕を無視し続けるのなら、アキレス殿下がどうなっても知りませんよ」



 魔法の剣がある限り、アキレスには手を出せないはず。

 ハッタリだと分かっていても、平静ではいられない。



 ――早くアキレス様のところへ……。



 立ちはだかるニキアスを無理やり押しのけてメアリは走った。

 ノエに教えられた通り、栗色の扉を開けて中に入るものの、



 ――……いない?



 室内には真っ白なシーツをかけられたベッドと木製の机があるだけ。

 アキレスの姿はどこにも見当たらず、途方に暮れてしまう。



「殿下がこの部屋にいることをなぜ知っているのですか?」



 後ろからついてきたニキアスに不思議そうに訊ねられて、やはり彼はこの部屋にいるのだと確信する。けれどそれらしい人影はなく、メアリは慎重に部屋に入っていく。直後にバタンっと扉が閉まり、鍵をかけられる気配がして、しまったと思った。



 慌てて扉を叩くが、びくともしない。

 しばらくして、

   

「メアリっ、いるの? いたら返事をしてっ」



 扉の向こう側からアルガの声がした。

 反射的に返事をしようとしたが、



 ――待って、罠かもしれないわ。



 精霊たちはこの森には入れないはず。

 おそらくニキアスが魔法で声色を変えているに違いない。



 その後も自分を呼ぶ精霊たちの声がしたが、メアリは応じず、あらためて室内を見回した。もしかしてと思い、ベッドの下をのぞきこむと、そこにアキレスの姿を見つけて、ほっと胸をなでおろす。なんとか引きずり出したものの、ニキアスの魔法で眠らされているせいか、一向に目覚める気配がない。



 ――おとぎ話だと、眠りの呪いは愛する人のキスで解けるはずだけど。



 ドキドキしながら試してみたものの、アキレスは眠ったまま、ぴくりとも動かなかった。ふと、閉まっていたはずの扉が開いているのに気づいて、メアリは飛び上がった。慌てて扉の外を見れば、ニキアスが何かを抱えて外へ出て行くところだった。



 こっそりあとを追いかけると、彼が抱えているのが鳥かごだと気づいた。しかも、かごの中に閉じ込められていたのは金色の目をした梟で、メアリは走り出すと、その鳥かごをニキアスの手から奪い取った。



 そのままそれをアキレスのいる部屋へ持っていき、かごを開ける。



「さあ、これであなたは自由よ」



 すると梟はアキレスの体の上に留まると、吸い込まれるようにして消えてしまう。直後にアキレスが目を覚まし、メアリは歓喜して彼に飛びついた。



「よかった、ご無事でっ」



 アキレスは起き上がると、愛おしげにメアリを抱きしめる。



「君の剣のおかげで、眠っている間も鳥の姿になれたんだ。あいつに捕まった時はどうなるかと思ったが、助かったよ」



 それからおもむろにアキレスは立ち上がると、「決着をつけてくる」と言った。



「君はここで待っていて欲しい」



 夫のそばにいたかったが、戦いの邪魔はしたくないと思い、メアリはしぶしぶうなずいた。できることなら戦い自体やめて欲しかったが、ニキアスを倒さない限り、この呪いの森は存在し続ける。それだけは見過ごせないと、メアリは涙をこらえてアキレスを送り出した。



 それからどれほどの時間が経ったのだろう。



 しばらくすると自分を呼ぶ声がして、外へ出ると、周辺の景色が一変していた。ニキアスの呪いが解け、人間の姿に戻ったノエと護衛騎士がアキレスのそばに立っている。森を成していた樹木もたちどころに消えて、大勢の人々途方に暮れたように立っていた。



『魔術師を倒したんだね、メアリ』

『にしてもスゴイ数の人間だな』



 駆け寄って夫の無事を確認していると、いつの間にか精霊たちに囲まれていて、ほっとした。見ればアルガもノエに腕の中にいて、喜びの涙を流している。



『おい、アルガ、イチャつくのはあとにしろ』

『とりあえず事態を収拾しないと』



 精霊たちの力を借りて人々を元居た場所へ戻すと、メアリはアキレスと共に帝都へ戻っていった。帰りは魔法を使わなかったので、久しぶりに夫と長く一緒にいられて、メアリは幸せだった。







<end>

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