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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

魔術の便利な使い方

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 俺はエルフの一団と別れてから、念のためエルネスに報告をした。
 彼の反応は予想した通りのもので、ウィリデに豪邸はないという返事だった。

 しかし、ウィリデは家を建てる技術は確立されているので、要望があればそれ通りの建物を造ることが可能だと知ることができた。
 エルネスと話し終えてから、それをイレーネたちに伝えると非常に喜んでいた。
 
 そんな感じで過ごしているうちに一日が過ぎていった。
 クルトが負傷している状態だったので、進むも退くも彼の回復待ちだった。


 翌日、クルトの話があるかと思いきや、フォンスの兵士たちと戦後処理をする流れになっていた。
 想定の範囲内とはいえ、あれだけの戦死体を片付けるのは大変そうだ。

 俺と兵士たちが防衛地点だった場所へ向かうと、暇を持て余したエルフたちが一緒についてきた。
 
 女性エルフも力持ちなのはリサで確認済みなので、彼女たちが手伝ってくれるのなら作業が捗りそうだった。それに何人か男性エルフもいる。

 作業場所に着いてから、まとめ役の兵士から説明があった後にそれは起きた。
 
「ねえ、運ぶとかそんなめんどくさいことしなくてもいいんじゃない?」
「うんうん、エルフが人間の死体を運ぶなんてちょっと……」
「そんなに着替え持ってきてないから、あんまり汚れるのは困る~」
「こんなところを見たら、好物の肉料理がしばらく食べれないよ」

 何やらエルフの皆さんが難色を示していた。
 まとめ役の兵士はエルフたちに指示したわけではないと思うのに、勝手に加わって勝手に不満をこぼしている。

 同族のエルネスが困惑した様子を見せ、フォンスの兵士たちもざわつき始めた。
 そして、俺もどうしていいのか分からないでいると、一人のエルフがこぼした。

「ねえ、まとめて魔術で焼いちゃおうよ」

 何だか軽いノリで言うもんだなと思った。
 それを口火に、他のエルフまで乗っかり始めた。
 
「うん、それいいかも」
「いいね、そうしよう」
「燃えすぎたら誰か水魔術で消火してね」
 
 エルネスと人間側の困惑をよそに、エルフたちは意見がまとまったようだった。

「さあ、いくよ」
「えい」
「とりゃ~」

 誰も口を挟めないでいると、宣言どおりに魔術が発動されていった。
 そこら中に広がった遺体に火がつき、さながら地獄絵図といった感じだった。

 もし、ここに戦国時代の絵師がいたならば、この様子を写し取ってカルマンに保存し、魔術師の脅威を後世に伝えようとしただろう。

 まあ、なんというか、それぐらいひどい光景だった。
 
 燃えた遺体から立ち上る煙や異臭に耐えられず、俺は安全地帯に移動した。
 当のエルフたちも、臭いだの、煙いだのいいながら動いていた。
 
「同じエルフのはずですが、育った場所が異なるとこんなにも感性に違いが出るとは驚きでした」

 ちょうど近くにエルネスが来ていた。
 彼はやれやれと言いたげで少し引き気味だった。

「援軍にきた集団は森育ちばかりみたいですね」
「豪邸を建てたいと口にしたり、奇抜に感じるところがあります」
「同じ森育ちでも、リサやヨセフはまともだったのに」
「二人はメルス出身ですが、あのエルフたちはアクリという集落の者がほとんどでしょうか」
「へえ、森の中に色んな集落があるんですね」

 大森林というだけあって、想像以上に広いということか。

「アクリはメルスよりも離れた場所にありますが、危険が多い環境なので、生きるために強力な魔術を使える者が多いそうです」
「そういえば、メルスで魔術師っぽい人はあんまり見なかったですね」
「メルス周辺も安全とは言いがたいですが、アクリの方が危険だと聞きます」

 エルネスの話には納得のいくところが多かった。
 魔術は鍛える要素が大きいので、必要に迫られなければわざわざ覚えようとはしないと思う。それにエルフの方が適性があるのなら、より成長するのも自然なことだろう。

 俺は立ち上る煙を眺めながら、そんなことを思った。

 関係ないところへ延焼することもなく、火葬もどきはキリがついた。
 防衛地点の前方には、死屍累々ならぬ灰と骨の広がる景色が続いている。

 煙に巻きこまれる心配がなくなったところで、最初と同じように集まっていた。
 エルフたちは火の魔術が上手くいったことにご満悦のようだった。

「エルフの方々、運ぶ手間が省けたのは助かるが、今度は骨や燃えかすをどうにかしないといけない。できれば手伝って頂きたいのだが……」

 まとめ役の兵士は下から物を言う感じでエルフたちにお願いをした。 

「ねえねえ、どうする?」
「ちょっと、めんどくさいかも」
「ええ~、マナに全然余裕があるし、手伝ってもよくない?」 
「ていうか、土魔術を使えば、すぐに終わるじゃん」

 再び話し合いという名の雑談が始まった。 
 そして、結論が出たと思われるタイミングで、一人のエルフが歩み出た。

「ここに埋めちゃっても問題ないでしょ?」
「う、うむ、後から通ることもあるだろうから、できれば平らにしたい。その条件が満たされるならば、さほどやり方にこだわらない……」

 まとめ役の兵士の言葉を聞くと、そのエルフは仲間のところへ引き返した。

「だって? みんな聞いてた? それじゃあ、土魔術使える人でやろっか」
「はいは~い」
「さくっと終わらせよう」

 火の魔術を発動しまくった時よりも、メンバーが厳選されていた。
 その中にはヘレナという少女もいた。

 俺が魔術を発動するよりも、簡素かつ自然な動作で魔術が放たれた。

 真っ黒な炭やら、カルマン兵の骨、散らばった灰。
 地面が隆起したかと思うと、それらを巻きこんで横向きに渦を巻いた。

 目を疑いたくなるような光景に注目していると、下側の地面が上にきて、炭や骨や灰は下の方に飲みこまれていった。
 マナ消費といい、その効果といい、圧倒的な魔術の使い方だった。

「……お、お見事。これでクルトが回復すれば、すぐに進軍できる」
「へへっ、わたしたち、すごいでしょ」

 エルフの一人が誇らしげにいった。
 ここまで実力に差があると、資質の違いは認めざるを得ないと感じた。

「ほう、腕の立つ魔術師がいるのは心強い。応援に感謝する」
「ク、クルト、ケガは大丈夫か?」
「エルネスの治療のおかげで問題ない。彼には世話になりっぱなしだ」
「いえ、共に戦う者として、当然のことをしたまでです」

 クルトが元気な様子でやってきた。
 彼の近くにシモンも立っている。

「うちの総大将も復活して、道もととのったみたいなので、カルマンの連中をぶっ潰しにいきましょうか。進軍の準備を頼みますよ」

 いつも通りのフランクな様子でシモンがいった。
 今までは受け身の戦いが多かったが、これだけ強力な魔術師がいれば有利に戦えるはずだ。
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