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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

クリスタとヘルマン その2

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「なんだ、援軍か!?」
 
 味方の兵士は驚きの声を上げ、敵の兵士はうろたえるように辺りを見回した。
 クリスタの雷撃が功を奏して、シモンを取り囲む兵士の数が減った。

 手前に視線を戻すと、ヘルマンがだいぶ進んでいて近くに敵がいた。

「おのれ魔術師どもめ、ふざけた真似を!」

 ヘルマンに気づいた兵士が剣を振り上げて襲いかかろうとした。
 彼を援護するべきか迷ったが、それは杞憂だった。

 彼は振り下ろされた剣を片手で掴んで防御した。
 素手のはずなのに手が斬られる気配はない。 

「なかなかに便利でしてね、人間にもマナ強化は使えます」

 ヘルマンが誰にともなくいった。  
 そのまま、空いた方の手で氷魔術を発動して、敵を氷漬けにした。

「……エルネス、いきましょう」
「ええ、今なら」

 シモンが自由に動けるようになった分だけ、フォンス側が押し返していた。
 乱戦の膠着がほどけて、同士討ちになる危険が減っている。

「おおっ、カナタにエルネスですか!」

 シモンが剣を振るいながら、俺たちの存在に気づいた。
 どれだけ広い視野を持っているのだろう。

「二人とも、来てくれたのか!」

 正面で背を向けて戦っていたクルトも声を上げた。

「さあ、一気に攻めよう!」

 思いがけず、そんなことを口にしていた。 
 もしかしたら、戦場の熱気にあてられたのかもしれない。

 ――全身を流れるマナに意識を向ける。

 俺は少し照れくさい思いになりながら、雷魔術を発動した。
 まだ動ける敵に向かって雷撃を放ち、痙攣させて動きを止めていく。

 前衛はクルトたちが引き受けてくれるかたちなので、そこまで注意を向けなくてもよかった。少し卑怯かもしれないが、安全に越したことはない。

 敵側は、シモンを数で抑えられなくなった時点で負けが確定したように思う。
 
 俺やエルネス、クリスタたちが助力するまでもなく、彼は怒涛の勢いで敵をなで斬りにしていく。
 日本にいる時なら恐ろしい光景に見えたはずだが、今はその圧倒的な強さに神がかったものを感じている自分がいた。

 周囲に動くことのできる敵がいなくなった頃、緊迫した空気が緩んだ気がした。
 カルマンの兵士が無数に倒れているが、フォンスの兵士と思われる人たちも何人か犠牲になっている。

「カナタ、エルネス、よく来てくれた。感謝してもしきれない」

 戦闘を終えたクルトがこちらに近づいてきた。
 美しい光沢をもっていた防具が血に染まっている。

「間に合って良かったです」
「それから、そちらの二人も仲間なのか?」
「はい、女性の方がクリスタ、男性の方がヘルマンです」
「二人とも、協力に感謝する。遠くまで危険を顧みず、よく来てくれた」

 クルトは二人に近づくと、手を握って握手をした。
 ヘルマンはにこやかに握手を返し、クリスタは恥ずかしそうな顔を見せた。

「マ、マジでイケメン。カナタちゃん、こんな人がいるなら最初から教えてー」
「ははっ、クリスタの緊張感のなさはすごいですね」
  
 俺は思わず笑ってしまった。
   
「ふむ、たしかにクルト様はイケメンだと、私も思います」

 ヘルマンが真面目な顔でいった。
 彼にそういう趣味がないことを願うが。 
 
「君の仲間は愉快な人たちだな」

 クルトは二人のコメントを意に介さず、穏やかに微笑んでいた。
 ひとまず、援軍としての最初の戦闘は無事に終了した。
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