112 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
クリスタとヘルマン その1
しおりを挟む
俺たち四人は、前方に見えていた町に向かって慎重に移動していた。
以前、エルネスと話した時に気がかりなことがあって、大半の人がカルマンを恐れているものの、実際にどれだけ危険なのか把握できていないということだ。
俺とエルネスでクルトたちを助けた時はあっさりと引き上げたので、偵察を兼ねた部隊だったような気がする。
国同士の交流がない以上、カルマンのことは謎が多いのが現状だ。
仮に本隊が想像を超えるような規模だった場合、シモンやエルネスのような個の強さが際立つ戦力がいても、押し返せるかは分からない。
「カナタちゃん、心配そうな顔ね」
クリスタが無邪気な様子で声をかけてきた。
ふと、エレノア先生やリサを幼くしたような印象を受けて、これから戦いに赴くには若すぎる気がした。エルフが若く見えやすいのを差し引いても年下に見える。
「それはまあ、さすがに実戦間近なので」
「大丈夫、大丈夫。わたしとヘルマンがいるから、大船に乗った気持ちでいて」
「彼女の言うとおりです。戦いの中で、我々の実力をお見せしましょう」
二人の言葉は心強いが、カルマンと同様に彼らの実力も分からないままだった。
距離が近づくほど、町から騒がしい様子が伝わってきた。
単なる喧騒ではない。怒声や何か指示を出すよう声が混ざっている。
「敵と間違われるのは避けたいので、クルトたちと合流してから戦いましょう」
「はい」
町の入口まで敵と遭遇せずに、移動することができた。
すでに戦いの火蓋は切って下ろされたようで、道のところどころに両軍の兵士が倒れていた。
この前はクルトを助けるのに必死で気づかなかったが、その生々しい光景にめまいを覚えそうになる。
なるべく目を向けないようにしながら、フォンスの兵士を探した。
街道で戦いになっていればよいのだが、町の中では建物が死角になりやすい。
どこから襲撃を受けるか分からず、神経がすり減るようなストレスを感じた。
「……カナタさん、こっちです」
エルネスに呼びかけられて、民家の影に身を隠した。
「あっ、クルトにシモンが」
「ええ、二人はいるのですが、苦戦を強いられているようですね」
クルト、シモン、それから彼らの友軍と思しき兵士が数名。
それに対して、カルマン兵の数は十数人を超える。
魔術で援護したいところだが、乱戦になっていて狙いを誤る可能性がある。
エルネスも同じことを考えているようで、敵に気配を悟られないように注意しながら様子を窺っている。
「ふーん、なかなか大変そうなのね」
「一際腕の立つ方がいますが、集中的に狙われて苦戦していますな」
クリスタとヘルマンは半ば他人事のように、呑気な感想を述べた。
「……二人とも、敵に見つかりますって」
「カナタ様、我々にお任せを」
「さあ、はりきっていくわよー」
観察の時間は終わったとばかりに、二人は身を乗り出した。
カルマン兵はクルトたちに手一杯で気づく様子はなかった。
「カナタさん、実は僕自身も二人の実力を知らないところが多いのです」
「……えっ、本当ですか?」
俺たちの反応にかまわず、二人は少しずつ前に進んでいる。
個人差があるので正確には分からないが、マナのゆらぎと魔術発動の準備と思しき動きが確認できた。おそらく、これから魔術を使うのだろう。
「――せーの」
クリスタが片手をかかげると、雷の塊のようなものが発生した。
それらがピンポイントに敵の身体に飛んでいき、直撃した者から順番に痙攣を起こしていった。
以前、エルネスと話した時に気がかりなことがあって、大半の人がカルマンを恐れているものの、実際にどれだけ危険なのか把握できていないということだ。
俺とエルネスでクルトたちを助けた時はあっさりと引き上げたので、偵察を兼ねた部隊だったような気がする。
国同士の交流がない以上、カルマンのことは謎が多いのが現状だ。
仮に本隊が想像を超えるような規模だった場合、シモンやエルネスのような個の強さが際立つ戦力がいても、押し返せるかは分からない。
「カナタちゃん、心配そうな顔ね」
クリスタが無邪気な様子で声をかけてきた。
ふと、エレノア先生やリサを幼くしたような印象を受けて、これから戦いに赴くには若すぎる気がした。エルフが若く見えやすいのを差し引いても年下に見える。
「それはまあ、さすがに実戦間近なので」
「大丈夫、大丈夫。わたしとヘルマンがいるから、大船に乗った気持ちでいて」
「彼女の言うとおりです。戦いの中で、我々の実力をお見せしましょう」
二人の言葉は心強いが、カルマンと同様に彼らの実力も分からないままだった。
距離が近づくほど、町から騒がしい様子が伝わってきた。
単なる喧騒ではない。怒声や何か指示を出すよう声が混ざっている。
「敵と間違われるのは避けたいので、クルトたちと合流してから戦いましょう」
「はい」
町の入口まで敵と遭遇せずに、移動することができた。
すでに戦いの火蓋は切って下ろされたようで、道のところどころに両軍の兵士が倒れていた。
この前はクルトを助けるのに必死で気づかなかったが、その生々しい光景にめまいを覚えそうになる。
なるべく目を向けないようにしながら、フォンスの兵士を探した。
街道で戦いになっていればよいのだが、町の中では建物が死角になりやすい。
どこから襲撃を受けるか分からず、神経がすり減るようなストレスを感じた。
「……カナタさん、こっちです」
エルネスに呼びかけられて、民家の影に身を隠した。
「あっ、クルトにシモンが」
「ええ、二人はいるのですが、苦戦を強いられているようですね」
クルト、シモン、それから彼らの友軍と思しき兵士が数名。
それに対して、カルマン兵の数は十数人を超える。
魔術で援護したいところだが、乱戦になっていて狙いを誤る可能性がある。
エルネスも同じことを考えているようで、敵に気配を悟られないように注意しながら様子を窺っている。
「ふーん、なかなか大変そうなのね」
「一際腕の立つ方がいますが、集中的に狙われて苦戦していますな」
クリスタとヘルマンは半ば他人事のように、呑気な感想を述べた。
「……二人とも、敵に見つかりますって」
「カナタ様、我々にお任せを」
「さあ、はりきっていくわよー」
観察の時間は終わったとばかりに、二人は身を乗り出した。
カルマン兵はクルトたちに手一杯で気づく様子はなかった。
「カナタさん、実は僕自身も二人の実力を知らないところが多いのです」
「……えっ、本当ですか?」
俺たちの反応にかまわず、二人は少しずつ前に進んでいる。
個人差があるので正確には分からないが、マナのゆらぎと魔術発動の準備と思しき動きが確認できた。おそらく、これから魔術を使うのだろう。
「――せーの」
クリスタが片手をかかげると、雷の塊のようなものが発生した。
それらがピンポイントに敵の身体に飛んでいき、直撃した者から順番に痙攣を起こしていった。
1
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。


狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる