93 / 237
揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―
町長の説得 その2
しおりを挟む
やがて、町長の呼びかけによって、カセルの中心に町民や静養に来ていた者たちが集められた。
皆一様に不安そうな顔をして、成り行きを見守っている。
「先ほども説明した通り、滞在中の騎士様からカルマン侵攻の情報を知らせて頂きました。カセルの町民は協力して歩いて避難するので、静養に来られた方々におかれましては馬車で乗り合わせて避難してくださるようお願い申し上げます」
町長は丁寧な口ぶりで全体に聞こえるように話した。
それに反応するようにところどころでざわめきが生じた。
「カルマンが攻めてくるって本当なのか!!」
「せっかく静養に来たのに」
集まった者の中には不満を漏らす者もいた。
それを耳にしたクルトはいたたまれない気持ちになった。
「……お静かに願います! この中にはリーフマンから命を救われた方もいるはずです。それにフォンスの治安が維持されているのは騎士の方々が常日頃町々を見回りして下さるからです。レギナにお住まいでは分からないかもしれませんが、街道を安全に移動できるのもそのおかげなのです」
町長ははっきりとした声で言いきった。
クルトはその話に胸が熱くなるのを感じた。
「うちは妻と娘が助けられた。馬車一台、それと別に馬一頭に乗ってきたから、馬の方は使ってもらってかまわない」
「おおっ、ありがたい申し出です」
皆、町長の話に胸を打たれたようで不満をこぼす者はいなくなった。
それから、すぐに避難の準備が進められた。
静養地としての夜景は様変わりして、慌しい雰囲気が広がっていた。
町民は持てるだけの荷物を運び、馬車で移動できる者はすでに町を出ている。
クルトたちはその様子を見ながら、話し合いを続けていた。
「僕たちのために空いた馬を二頭用意してもらった。あまり得意ではないが、多少は乗馬の経験があるので、これに乗ってルカレア方面に行こうと思う」
「やっぱり、行くつもりなのね。私は道に詳しいし、馬に乗れるからついていくわ」
アデリナは真っ直ぐな視線でクルトを見た。
彼はその視線を受けて微笑み返した。
「君に負担をかけてばかりだが、案内はとても助かる」
「クルトを一人にすると無茶をしそうだから、ちゃんと見ていないと」
彼はアデリナと会話をしながら、シモンとヘレナのことを考えていた。
すると、シモンがおもむろに口を開いた。
「おれはついていきますよ。乗馬は得意で腕も立ちますから」
「そうか、君ならついてくると思った」
二人は思わずおかしくなって笑いあった。
そして、クルトは固まりきらなかった頼みをヘレナにすることにした。
「ヘレナ、君を危険なところへ連れていけないという思いもあるが、それとは別に頼みがある」
「何?」
「戦いに備えて魔術師の力を借りたい。ウィリデには伝手がないので、大森林のエルフの知り合いで協力してもらえる者がいるか探してほしい」
「うん、わかった」
ヘレナはいつもより力強い様子で頷いた。
クルトは巻きこむべきではないと思いながらも、エルフの魔術師の協力を得るか否かでは戦況が大きく変わると考えていた。
彼らが話していると、少し疲れた様子の町長がやってきた。
「クルト様、私たちと逃げるという選択もありますが……ルカレアに行かれるのですね」
「はい、そのつもりです。短い間ですが、大変お世話になりました」
「いえ、父君のオルド様も優れた方でしたが、ご子息のクルト様もご立派になられて……」
町長は感極まったように声を詰まらせている。
クルトはその言葉に感動を覚えた。
「――皆様、どうかご無事で」
そう伝えて、町長はこの場を去っていった。
まずは一つ前の町エスラへ向かうという話だった。
「それじゃあ、僕たちも行くとしよう」
クルトたちは用意された馬のもとへ歩き始めた。
カセルの町からは人の気配がほとんどなくなっていた。
皆一様に不安そうな顔をして、成り行きを見守っている。
「先ほども説明した通り、滞在中の騎士様からカルマン侵攻の情報を知らせて頂きました。カセルの町民は協力して歩いて避難するので、静養に来られた方々におかれましては馬車で乗り合わせて避難してくださるようお願い申し上げます」
町長は丁寧な口ぶりで全体に聞こえるように話した。
それに反応するようにところどころでざわめきが生じた。
「カルマンが攻めてくるって本当なのか!!」
「せっかく静養に来たのに」
集まった者の中には不満を漏らす者もいた。
それを耳にしたクルトはいたたまれない気持ちになった。
「……お静かに願います! この中にはリーフマンから命を救われた方もいるはずです。それにフォンスの治安が維持されているのは騎士の方々が常日頃町々を見回りして下さるからです。レギナにお住まいでは分からないかもしれませんが、街道を安全に移動できるのもそのおかげなのです」
町長ははっきりとした声で言いきった。
クルトはその話に胸が熱くなるのを感じた。
「うちは妻と娘が助けられた。馬車一台、それと別に馬一頭に乗ってきたから、馬の方は使ってもらってかまわない」
「おおっ、ありがたい申し出です」
皆、町長の話に胸を打たれたようで不満をこぼす者はいなくなった。
それから、すぐに避難の準備が進められた。
静養地としての夜景は様変わりして、慌しい雰囲気が広がっていた。
町民は持てるだけの荷物を運び、馬車で移動できる者はすでに町を出ている。
クルトたちはその様子を見ながら、話し合いを続けていた。
「僕たちのために空いた馬を二頭用意してもらった。あまり得意ではないが、多少は乗馬の経験があるので、これに乗ってルカレア方面に行こうと思う」
「やっぱり、行くつもりなのね。私は道に詳しいし、馬に乗れるからついていくわ」
アデリナは真っ直ぐな視線でクルトを見た。
彼はその視線を受けて微笑み返した。
「君に負担をかけてばかりだが、案内はとても助かる」
「クルトを一人にすると無茶をしそうだから、ちゃんと見ていないと」
彼はアデリナと会話をしながら、シモンとヘレナのことを考えていた。
すると、シモンがおもむろに口を開いた。
「おれはついていきますよ。乗馬は得意で腕も立ちますから」
「そうか、君ならついてくると思った」
二人は思わずおかしくなって笑いあった。
そして、クルトは固まりきらなかった頼みをヘレナにすることにした。
「ヘレナ、君を危険なところへ連れていけないという思いもあるが、それとは別に頼みがある」
「何?」
「戦いに備えて魔術師の力を借りたい。ウィリデには伝手がないので、大森林のエルフの知り合いで協力してもらえる者がいるか探してほしい」
「うん、わかった」
ヘレナはいつもより力強い様子で頷いた。
クルトは巻きこむべきではないと思いながらも、エルフの魔術師の協力を得るか否かでは戦況が大きく変わると考えていた。
彼らが話していると、少し疲れた様子の町長がやってきた。
「クルト様、私たちと逃げるという選択もありますが……ルカレアに行かれるのですね」
「はい、そのつもりです。短い間ですが、大変お世話になりました」
「いえ、父君のオルド様も優れた方でしたが、ご子息のクルト様もご立派になられて……」
町長は感極まったように声を詰まらせている。
クルトはその言葉に感動を覚えた。
「――皆様、どうかご無事で」
そう伝えて、町長はこの場を去っていった。
まずは一つ前の町エスラへ向かうという話だった。
「それじゃあ、僕たちも行くとしよう」
クルトたちは用意された馬のもとへ歩き始めた。
カセルの町からは人の気配がほとんどなくなっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
207
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる