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第三章
行方不明の村人
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観光牧場でポニーに乗ったことはあるが、本格的な乗馬は初めてだった。
二人乗りだというのに馬は力強い足運びで前進している。
風を切る感触が心地よく、いつまでもこうしていたいと思った。
もちろん、ミレーナにしがみついている状況というのもあるのだが。
「ミルランの村まではどれぐらい?」
「お昼までには着く。今日中に森に入りたい」
「人探しなら早い方がいいよね」
「うん」
背中越しの会話はいまいち盛り上がらず、事務的な内容に終始した。
美少女恋愛ゲームなら彼女を攻略するルートがあるのかもしれないが、今のところそんな気配はない――いわゆるフラグが立っていない状況だろう――。
こんなことならもっと女子と話すようにして、コミュ力を高めておくべきだった。
もどかしい気持ちを感じるものの、しつこく話しかけて関係を悪化させるようなことは避けたい気持ちだった。
ミレーナに動揺を悟られないように振る舞いつつ、流れる景色に目を向ける。
街道沿いは日本の都会のように人工的な気配は少なく、どこか牧歌的に見える。
自動車が道路を走る状況に慣れていることで、静かで落ちついた道に新鮮な感覚を覚えた。
王都は全体的に栄えているものの、少し離れてしまえば畑や草原が広がっている。
勇者召喚されなければ田舎に行っていたわけだが、意外と自分はのどかな光景が好きなのだと思った。
人通りもそこまで多いことはなく、そこまでせかせかするような雰囲気もない。
そんなことに思いを馳せつつ、両腕に伝わる感触に意識を戻した。
ミレーナとの関係性を維持するため、おっぱいに触らないように気をつけながら座っている。
馬に二人で乗るのは人生初めての出来事だが、たとえ走りが乱れるようなことがあっても、絶対におっぱいに触ってはならないと考えるとプレッシャーを感じた。
まさにおんぶにだっこのような状況のまま、やがてボーナスタイムの終わりを告げるものが見えてきた。
「あそこがミルラン?」
「うん」
ミレーナは村の外で馬を停めて、俺を先に下ろした。
その後に彼女は馬が逃げないように縄を木の幹に固定した。
ミルランの村はアインの町よりも少し規模が小さいようだ。
アインでは商店や素材屋があったものの、ここには民家しかないように見える。
見た感じの雰囲気では自給自足に近い生活を送っているっぽい。
村の入り口から少し歩いたところで、白髪の老人が姿を見せた。
彼はミレーナの存在に気づき、ゆっくりと近づいてきた。
落ちついた所作の人物で、俺たちを歓迎しているような雰囲気を感じた。
「よくぞお越しくださいました。旅団の方ですな」
「うん。私はミレーナ。彼はカイト」
「どうも、よろしくお願いします」
どのようにあいさつすればいいか分からず、とりあえず頭を下げておいた。
今度、サリオン辺りに礼儀作法を教わってもいいのかもしれない。
「わしは村長のモリッツです。こちらへどうぞ」
村の中心に木製の椅子やテーブルが置かれており、村人たちの交流の場のようだった。
今は誰もおらず、俺とミレーナはそこで腰を下ろした。
モリッツは反対側に腰かけて話を続ける。
「行方不明になったアルミンは婚約を控えておりましてな。恋人のスザンナのため、高価な野草を採取しようと森に立ち入ったようです」
「あの場所――幻魔の森は魔力が低い者が入ると迷ってしまう」
ミレーナはわずかに怪訝な色を見せた。
彼女がそんな反応を見せる程度には危ない場所ということだ。
自分が入っても大丈夫なのか懸念したが、モリッツの話を聞くことを優先するようにした。
「はい、その通りです。村の者には立ち入らんように周知していたのですが、二人の生活のためにアルミンは無茶をしたのでしょう。本来は村で解決せねばならんことですが、旅団の方なら力になってくださると」
行方不明のアルミンは村で慕われているのだろう。
こうして、お金をかけてまで探し出そうとなっている。
そこまで心配された経験はなく、彼のことが少しうらやましく思えた。
「大丈夫。私は幻魔の森に入ったことがある」
「おおっ、それは心強い!」
神妙な面持ちだった村長だが、ミレーナの一言で表情が明るくなった。
自分のことではないのに誇らしい気持ちになる。
「アルミンさんの状況が分からないから、すぐに出発する」
「ありがとうございます。どうかお気をつけて」
村長との情報交換が終わり、ミレーナと一緒に村の外へと向かう。
最初に姿を見せたのは村長だけだったが、俺たちを見送ろうと数人の村人がやってきた。
彼らのすがるような瞳が苦悩を物語っていた。
「どうかアルミンを見つけてください!」
村人の中の一人が悲痛な声で訴えた。
おそらく、アルミンの恋人のスザンナだろう。
「うん、任せて」
ミレーナははっきりした言葉で応じた。
淡々とした表情はそのままに、思わず惚れてしまいそうなクールな振る舞い。
彼女のことを詳しく知らずとも、今回の件に自信はあるのだと思った。
あとがき
読んで頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップのランキングが上がっており、HOTランキングも順調に推移しています。
村人アルミンは恋人との結婚を控えていて、価値の高い野草を採るために幻魔の森へ入ったようです。
ミレーナは足を踏み入れた経験があるようなので、彼女の活躍が期待されます。
二人乗りだというのに馬は力強い足運びで前進している。
風を切る感触が心地よく、いつまでもこうしていたいと思った。
もちろん、ミレーナにしがみついている状況というのもあるのだが。
「ミルランの村まではどれぐらい?」
「お昼までには着く。今日中に森に入りたい」
「人探しなら早い方がいいよね」
「うん」
背中越しの会話はいまいち盛り上がらず、事務的な内容に終始した。
美少女恋愛ゲームなら彼女を攻略するルートがあるのかもしれないが、今のところそんな気配はない――いわゆるフラグが立っていない状況だろう――。
こんなことならもっと女子と話すようにして、コミュ力を高めておくべきだった。
もどかしい気持ちを感じるものの、しつこく話しかけて関係を悪化させるようなことは避けたい気持ちだった。
ミレーナに動揺を悟られないように振る舞いつつ、流れる景色に目を向ける。
街道沿いは日本の都会のように人工的な気配は少なく、どこか牧歌的に見える。
自動車が道路を走る状況に慣れていることで、静かで落ちついた道に新鮮な感覚を覚えた。
王都は全体的に栄えているものの、少し離れてしまえば畑や草原が広がっている。
勇者召喚されなければ田舎に行っていたわけだが、意外と自分はのどかな光景が好きなのだと思った。
人通りもそこまで多いことはなく、そこまでせかせかするような雰囲気もない。
そんなことに思いを馳せつつ、両腕に伝わる感触に意識を戻した。
ミレーナとの関係性を維持するため、おっぱいに触らないように気をつけながら座っている。
馬に二人で乗るのは人生初めての出来事だが、たとえ走りが乱れるようなことがあっても、絶対におっぱいに触ってはならないと考えるとプレッシャーを感じた。
まさにおんぶにだっこのような状況のまま、やがてボーナスタイムの終わりを告げるものが見えてきた。
「あそこがミルラン?」
「うん」
ミレーナは村の外で馬を停めて、俺を先に下ろした。
その後に彼女は馬が逃げないように縄を木の幹に固定した。
ミルランの村はアインの町よりも少し規模が小さいようだ。
アインでは商店や素材屋があったものの、ここには民家しかないように見える。
見た感じの雰囲気では自給自足に近い生活を送っているっぽい。
村の入り口から少し歩いたところで、白髪の老人が姿を見せた。
彼はミレーナの存在に気づき、ゆっくりと近づいてきた。
落ちついた所作の人物で、俺たちを歓迎しているような雰囲気を感じた。
「よくぞお越しくださいました。旅団の方ですな」
「うん。私はミレーナ。彼はカイト」
「どうも、よろしくお願いします」
どのようにあいさつすればいいか分からず、とりあえず頭を下げておいた。
今度、サリオン辺りに礼儀作法を教わってもいいのかもしれない。
「わしは村長のモリッツです。こちらへどうぞ」
村の中心に木製の椅子やテーブルが置かれており、村人たちの交流の場のようだった。
今は誰もおらず、俺とミレーナはそこで腰を下ろした。
モリッツは反対側に腰かけて話を続ける。
「行方不明になったアルミンは婚約を控えておりましてな。恋人のスザンナのため、高価な野草を採取しようと森に立ち入ったようです」
「あの場所――幻魔の森は魔力が低い者が入ると迷ってしまう」
ミレーナはわずかに怪訝な色を見せた。
彼女がそんな反応を見せる程度には危ない場所ということだ。
自分が入っても大丈夫なのか懸念したが、モリッツの話を聞くことを優先するようにした。
「はい、その通りです。村の者には立ち入らんように周知していたのですが、二人の生活のためにアルミンは無茶をしたのでしょう。本来は村で解決せねばならんことですが、旅団の方なら力になってくださると」
行方不明のアルミンは村で慕われているのだろう。
こうして、お金をかけてまで探し出そうとなっている。
そこまで心配された経験はなく、彼のことが少しうらやましく思えた。
「大丈夫。私は幻魔の森に入ったことがある」
「おおっ、それは心強い!」
神妙な面持ちだった村長だが、ミレーナの一言で表情が明るくなった。
自分のことではないのに誇らしい気持ちになる。
「アルミンさんの状況が分からないから、すぐに出発する」
「ありがとうございます。どうかお気をつけて」
村長との情報交換が終わり、ミレーナと一緒に村の外へと向かう。
最初に姿を見せたのは村長だけだったが、俺たちを見送ろうと数人の村人がやってきた。
彼らのすがるような瞳が苦悩を物語っていた。
「どうかアルミンを見つけてください!」
村人の中の一人が悲痛な声で訴えた。
おそらく、アルミンの恋人のスザンナだろう。
「うん、任せて」
ミレーナははっきりした言葉で応じた。
淡々とした表情はそのままに、思わず惚れてしまいそうなクールな振る舞い。
彼女のことを詳しく知らずとも、今回の件に自信はあるのだと思った。
あとがき
読んで頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップのランキングが上がっており、HOTランキングも順調に推移しています。
村人アルミンは恋人との結婚を控えていて、価値の高い野草を採るために幻魔の森へ入ったようです。
ミレーナは足を踏み入れた経験があるようなので、彼女の活躍が期待されます。
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