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分かりました
しおりを挟む「~~~~~~~っ! 風月っ! 嫌なことは嫌と言えっ!!」
「……嫌がったらお仕置きするって言った。豪さんが」
……そうだった。
「…ぅ。まあ……」
「お金で買ったんだから好きにさせろって…… 言った。……だから僕……」
段々と尻すぼみになっていく風月の声。
それに辛辣な眼を眇め、トニーが蛇蝎をみるがことく豪に吐き捨てる。
「うわあ…… サイテー。そんなんで好きだぁ? 愛してる? ないわー。ないない」
「うぎ……っ! ……すまなかった。最初の頃は…… その…… 売春しようとしたお前を懲らしめてやろうと…… かなり酷い扱いをした気がする。二度と身売りなんて考えないように、大人の本気な遊びを怖がるように…… あ~~~~~っ! ごめんっ!!」
……そういうことだったのか。
がばっと頭を下げる豪。その真摯な態度に、風月は胸が高まる。
「……悦かったよ?」
「へ?」
「豪さんが、すごく僕を想ってくれてる感じがして。酷くされても嬉しかったの。……その。気持ち悦かったよ? ……僕、勃ってたでしょ?」
……そういえば。
豪は、いつも風月を焦らして愉しんだ。イかせてくれと強請るまで延々責め尽くした。……たしかに、風月は愉悦を示して可愛い一物を真っ赤に熟れさせていた。
「……好きとか……言われて本気と思ってなくても、言われて嬉しくて。いつも僕だけ気持ち悦くしてもらってたし。……僕も豪さんを気持ち悦くしたいなって思って……」
気持ち的には拗らせきっていたが、身体は別。お互いを求めて絡まる二人の気持ちが、ガッチリ噛み合い、風月は泣きたくなるほど気持ち悦くなっていたと告白する。
……アレは演技じゃなく、本気? サイトの書き込みを真似たわけじゃない? じゃあ……
「俺を好きだと……もっとしてと佳がり狂ってたのは嘘じゃないのか?」
……言い方っ!!
羞恥に頬を赤らめて答えに窮する仔犬様。
その眼がチラリとトニーに振られ、トニーは大仰に肩を竦めてみせると、身体を反転させて自分の耳を塞いだ。
……ありがとう。
「僕に演技なんて高度なこと出来るわけないじゃん。……好きだよ、豪さん。出逢った頃からずっと」
「……縛っても?」
「物理はやめてね? ここ、トニーもいるからさ」
「物理で身体も心も縛りてぇ。部屋に閉じ込めて誰にも会わせず、ずっと舐り尽くしてやりてぇ……」
「そういう性癖なことは知ってるけど、ほどほどにね? 僕だって日常生活あるんだから」
豪の縛りを受けた時、サイトのアドバイスに従ったら、あまりに生々しい縄の跡が長く残ってしまい、学校で非常に困った状態になったのだ。
『……縛られ慣れてんな? おい?』
……そんなわけない。でも…… キッつ、これぇ。サイトでは相手が縄を締める際に息を吐けとあったけど、その通りにしたらめちゃくちゃ縄が食込むじゃんっ!
やる側が集まったサイトだ。される側が苦しくなるような方法に決まっているが、御子様な仔犬には理解が及ばない。
しばらく不信な眼を豪にされていたのも良い思い出。そこで豪も気づけば良かったのに、彼は風月の出していたサインを見逃してしまった。
ようやく誤解の解けた二人。
これまでの慣らしが可愛い仔犬を苦しめていたわけではないことに安堵し、豪は泣き出しそうな顔で風月を抱きしめる。
「ごめん…… 言葉が足りなかった。お前が俺とずっと暮らしたいって…… 大好きだって言ってたから…… 勝手に、このまま変わらないって思ってたよ」
「僕もごめんね? 素直に聞いたら良かったんだよね?」
それをさせなかったのは過去の豪の言動だ。気持ちが方向転換した際に、ちゃんと伝えておけば良かったのである。
最初に誤解をさせる行動や言動をしておいて、愛してるもないもんだと、豪自身が思う。自嘲する価値もない。お粗末すぎて笑えない。
「教会の予約は明後日な。結婚するぞ、俺達」
……結婚してくださいではなく、するぞ宣言? 反省はしたようだけど、どこまでいっても豪さんは豪さんだなあ。
苦笑いしつつ、ふと風月の頭に疑問が過る。
「僕、まだ十七歳だよ? アメリカも日本と同じで婚姻年齢は十八歳からだよね?」
「なんのためにミシシッピまで来たと思ってるんだ。ここは特例で十七歳から婚姻許可がおりるんだよ」
「さらに言うと、そのために豪はアメリカ国籍取得してるからね? 恋する男の一念は凄いね」
いつの間にか振り返っていたトニーが説明を捕捉した。どちらかが国籍を取得した状態でないと、婚姻証明書を得ても日本では法的効果がないらしい。
そもそも、ミシシッピの日本領事館が受理しないのだとか。
そこまで本気で用意していた豪に風月も唖然とした。風月の相続放棄やクレジットカード、GPSでの追跡など諸々。後見人での処理の仕方でも思ったが、つくづく用意周到な男である。
聞けば、こちらに家も用意してあり、この先、年の三分の一はアメリカで暮らすようになるとか。
「少しでも早く法的にお前を縛っておきたいんだよっ! 悠長に一年も待てるかっ!!」
そのためだけに国籍まで変える豪。
「とんでもない男に捕まったね? まあ、お幸せに?」
初対面の時の胡散臭い笑みを浮かべて祝福するトニー。
……ああ、もう。あんなに思い悩んでいたアレコレが全て解決されてるんじゃん。悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
これでもかとお膳立てされた紅いカーペットの上を風月は歩いていくだけで良い。溺愛も、ここに極まれリ。酷く一方的ではあるが。
その先に立つ豪と幸せになるためだけに敷かれたカーペットを、喜べないわけがない。
「結婚するぞ? な?」
……あ、疑問符がついた?
少し不安げに揺れる御主人様の瞳。それが妙に可愛くて、風月はしばらく魅入る。
「………………うん」
「えらくためたなっ? 今っ! 何が不服だっ! そうだ、指輪もあるんだぞっ? どこだっけ……」
見当違いな何かに慌てふためき、上着をバサバサとまさぐる豪を見て、風月は心の底から微笑った。
最悪から転じた極上の人生。
禍福は糾える縄の如し。あの借金地獄や、恋に惑うた日々も、この幸せのために用意されたとすら思えるから不思議だ。
ようよう蜜月解禁となった二人だが、そこで風月がおあずけを豪に食らわせる。
「なんでぇぇーーーっ?!」
「ここまで焦らされたお返し。どうせなら初夜にしようよ。僕の初めてはさ」
「長々焦らされてたのも、おあずけ食ってたのも俺ぇぇぇーーーっ!!」
うわああぁぁーっと叫ぶ、思春期のように盛った男。今夜と合わせて二晩の禁欲に、本気でジタバタしている。
しくしく泣き付す豪を宥めすかし、トニーは二人を自宅に招く。……というか、豪に招けと強要されていた。
あのモーテルは安普請過ぎて危ないという判断からだ。豪が、初めてアメリカの自宅に入るのは、結婚式を上げてお姫様抱っこした風月とだとゴネたのもある。
「どんだけ夢見てるのさ。非常時なんだから、そういうのやめてよね」
「三年もかけて用意したんだぞっ? 準備万端でっ! 結婚式がサプライズでなくなった分、新居の夢くらい叶えさせろよおぉぉっ!」
拗らせ過ぎて、思春期を遥か成層圏まで凌駕した夢見る乙メン。そんな初めて見る豪の一面に、呆れつつも惚れ直す自分は、もはや病気だなと笑う風月。
不安に塗りつぶされた箱を開けてみたら、幸せしか詰まっていなかった現実。あまりに出来過ぎた結末に、トニーが運転する車の中で風月は満面の笑みを浮かべる。
……ああ、もう。人生なんて考えるだけ無駄なんだな。どんなことも、なるようになっちゃうんだ、きっと。
多大に人為的な、なるようにだが、今が幸せならそれで良い。
悲壮な顔で泣き叫ぶ豪と、げたげた笑い転げるトニー。風変わりな三人の乗る賑やかな車は、トニーの自宅を目指して溢れるテールランプの波に溶けていった。
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