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第24話 裏切り
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カトリーヌ達が城の門に着くと、すぐに一人の騎士が出迎えてくれた。
フェリックスはすっと後ろに隠れてしまったが、騎士はしゃがんで目線を合わせるとフェリックスを覗き見た。
「奥様、フェリックス様初めまして。クロードと申します! お父様には大変お世話になっております!」
「おとうさまのおともだち?」
「お友達だなんておこがましい。部下ですよ!」
「クロードさん、子供なのだからそれじゃあ分からないわ。気を使わなくていいのよ」
「そんな訳には参りません! 将来の侯爵閣下ですから!」
カトリーヌは不意に笑いが溢れてしまった。
「アルベルト様はお仕事中よね?」
「そろそろお休憩を取られると思いますよ。ずっとソワソワしてましたから」
「ご多忙なのになんだか申し訳ないけれど、さあお父様に会っていらっしゃい」
するとクロードが慌て出した。
「奥様はいらっしゃらないのですか?」
「私は邪魔なだけよ」
「邪魔だなんてとんでもない!」
カトリーヌは気になっていた事を口にした。
「さっきから私の事を奥様と呼ぶけれど、まさか知らない訳ないわよね?」
顔色を変えたクロードは申し訳なさそうに俯いた。
「もちろん承知しているのですが、俺が奥様のお名前を呼ぶとアルベルト様のご機嫌が宜しくないもので……」
「なぜアルベルト様の機嫌が悪くなるの?」
「と、とにかくフェリックス様とご一緒にお越しください」
クロードの必死さに押し切られたカトリーヌは、案内された部屋のソファでフェリックスと共に待っていると、程なくしてアルベルトが入ってきた。
「すまない、待たせたな」
喉元を緩めながら近くに来ると、フェリックスはぎゅっと腕にしがみついてしまった。
「どうしたの?」
顔を隠すようにして腕の下に潜ってしまう。アルベルトはそんなフェリックスを見て立ち尽くしてしまっていた。
「もしかして忘れたのか?」
その声は今までに聞いた事がない程に優しいものだった。
「……おとうさま」
「そうだ、お前のお父様だ」
すると腕の下から顔を出したフェリックスは恥ずかしそうに微笑んだ。
「恥ずかしかったのよね?」
「おとうさまはここでごはん食べているの?」
「そうだ。まだ屋敷には帰れそうもないから今日はここに来てもらったんだ」
ふぅん、と足をブラブラさせながら広い部屋を見上げているフェリックスをアルベルトは、ひょいっと抱き上げて肩に乗せた。嬉しそうに声を上げると髪の毛を掴んだ。
「こら髪は駄目だ! 前にも言っただろ、肩を掴め!」
カトリーヌが急いでフェリックスに手を伸ばすと、落ちないように背中を支えながら手を肩に持っていく。すると小さな手は確かめるように上着を掴んだ。
「重くありませんか? 最近はぐっと背も伸びて……」
アルベルトとすぐ間近で目が合う。一瞬時が止まったように動けなくなってしまった。
――馬鹿ね。こうして会っているのはフェリックスがいるからなのよ。
「今日は城の中を探検だぞ」
「たんけんッ!」
「分かるのか?」
「ルイスと一緒にやっていますよ」
「城は広いからルイスとした探検よりももっと凄いぞ」
「張り合わないでください。それじゃあ私はここで待っておりますね」
扉を出ようとしたアルベルトはカトリーヌの手を掴んだ。
「一緒に来てくれ」
「ですがご迷惑ではありませんか?」
「迷惑ならここへは呼んでいない」
カトリーヌはくすりと笑うと頷いた。
カトリーヌもじっくりと城の中を歩いた事はなかった。広くて、一度案内されただけではとても覚えきれない。どの部屋だったのか分からない程に同じような扉が並んでおり、廊下は広く輝いていた。しかしそんなカトリーヌを現実に引き戻してきたのは城の中ですれ違う人々の視線だった。アルベルトとフェリックスは楽しそうに歩き回っている。さすがに城内を肩車をしてという訳にはいかない為、アルベルトが片手で抱えるようにして探検は続いていた。
「これだけ広いと警備もお大変ですね」
「広く見えるがずっといるとそう感じなくなるものだ」
「こういった機会がなければお城の中をゆっくり歩く事もありませんでした」
「こんな事でよければいつでも案内するぞ」
「おとうさまあれなに?」
フェリックスは短い腕をピンと伸ばしながら中庭の方を指差した。中庭には噴水から勢いよく水が吹き出している。興味津々のフェリックスを前に中庭に出ないという選択肢はない。目配せをすると中庭へと向かった。
中庭には城内で働く者達が椅子に座っていたが、ベルトラン一家を見るなり好奇の視線を向けてきた。離婚した夫婦が中庭を散歩しているという様子は、貴族達の格好の噂の種となるだろう。その中でも文官の制服だろうか、使用人達の視線よりも城務めをしている貴族女性達の視線は鋭いものだった。
「アルベルト様は人気がおありなのですね」
呟いた言葉は噴水の音に掻き消されてアルベルトに届く事はない。フェリックスは手を伸ばしながら水に触れていた。落ちないように支えているアルベルトの広い背中を見ながら、無意識にじんわりと涙が溜まってしまう。いつかはアルベルトも再婚するだろう。どこかの令嬢を迎えてフェリックスにも弟か妹が出来るかもしれない。そうすればこんな親子の時間はもうなくなる。
――あれ、私どうして。
いつの間にかアルベルトがこんなにも胸に入り込んでいた事を実感じていた。
「カトリーヌもこちらへ……」
振り返ったアルベルトにそっと顔を背けたつもりだったが、そのまま頬を押さえられてしまう。アルベルトの視線が辺りを見渡すと、女性達はそそくさと散って行ってしまった。
「もしかして何か言われたのか? 俺がそばにいながらすまない!」
「違います! 誰のせいでもありません」
「泣いていたじゃないか」
「二人の姿を見ていたら嬉しくなっただけです。アルベルト様もこうしてお父様に遊んで頂いたのですか?」
するとアルベルトの表情がすっと暗くなった気がした。
「珍しい顔ぶれだな」
振り返ると、そこにはベルトラン侯爵が立っていた。
会ったのはフェリックスが生まれた時以来だった為、二年以上が経過していた。
「まだまだ小さいな」
「フェリックスの成長は目を見張るものがありますよ」
「水に触れただけで大はしゃぎしている子がか?」
一体いつから見ていたのだろうと驚いていると、すっと目の前が暗くなり、アルベルトの背中があった。
「なんの御用ですか?」
「フェリックスだが、今後はうちで面倒を見ようと思ってな。いつまでもモンフォール家に置いておく訳にもいくまい」
「それは駄目です!」
アルベルトの背から出ると、鋭く見つめてくる瞳を見返した。
「アルベルト様が帰られるまではモンフォール家でお預かり致します。短期間にそう何度も住まいを変えるのは教育上よくないと思います」
「フェリックスは多感な時期ですので私もカトリーヌと同意見です」
「私に逆らうのか?」
「フェリックスの事に関しては私が決めます。それにそんな事をしてはあの人が快く思わないのではありませんか?」
「お前は変わったな。いや、元来の性質なのか」
「もしそうお感じになるのであれば、それはカトリーヌとフェリックスのお陰です」
「そうか。……もし子供を産ませていたら、あれも今とは違っていたのだろうか」
「え?」
ベルトラン侯爵はしばらくフェリックスを見た後何も言わずに立ち去ってしまった。
「嫌な想いをさせたな。心配しなくてもフェリックスを渡す事はないから安心しろ」
カトリーヌは無意識にアルベルトの背中を握り締めていた。
「フェリックスをお守り下さりありがとうございました」
「さっきのを見て察していると思うが、俺は父に抱き上げられた記憶はないし遊んでもらった事もない。だからどうしたら良い父親になれるのか分からないんだ。あなたとの事もそうだ。父が決めた結婚だと言うだけで向き合う事をしなかった。愚かだったよ」
初めて聞いたアルベルトの本心に、カトリーヌは上着を掴んでいた力を無意識に強くしていた。
「アルベルト様は立派な父親です。ね、フェリックスはお父様好きよね?」
フェリックスはカトリーヌに手を伸ばしながら抱っこぉと言った。
「フェリックス、お父様の事好きよね?」
伸びてくる手を掴みながら抱っこすると、嬉しそうに頬を寄せてきた。
「この子は本当にアルベルト様が好きなのですよ」
アルベルトは小さく笑ってから頷いた。その時、中庭にクロードが走ってきた。
「アルベルト様! すぐに王の間へお越し下さい! グロースアーマイゼ国が攻めて来ましたッ!」
アルベルトは最初の部屋に送り届けるようにクロードに言うとすぐに行ってしまった。
「今回はすぐ軍が動くでしょうから、きっとすぐに追い返してしまいますよ」
「でも戦争になるのは嫌ね」
眠ってしまったフェリックスをソファに寝かせると、その上に毛布を掛けた。
「俺がグロースアーマイゼ国の傭兵だったとは聞いていますか?」
返事をする前に、とっさにフェリックスを庇うように手を出していた。するとクロードは寂しげに笑った。
「ごめんなさい! 私ったらとっさに失礼な事をしたわ」
「当然ですよ。でも俺にはそれが当然じゃなかったんです。父も母も俺を守ってはくれませんでした。母は父の妾で、俺を産んですぐに追い出されたそうです。父親は親だと思った事がありません」
「だから傭兵に?」
「生き残る為です。正直捕まった時は殺されるか酷い拷問を受けると覚悟しました」
「アルベルト様はそんな事なさらないわ。多分、きっと……」
アルベルトの事はまだまだ知らない事の方が多い。ましてや戦場でのアルベルトについては全く知らなかった。
「ははッ、さすが奥様ですね。アルベルト様は俺達にやり直す機会を下さいました。傭兵として働いていたなら雇い主は誰でも良いはずだ、俺が雇い主になるとそう仰ったんです」
「お優しいのね」
フェリックスのおでこから前髪を払った時だった。
「えぇ本当、反吐が出る程にね」
「え?」
カトリーヌが顔を上げた瞬間、重い衝撃が首に走り、フェリックスに覆い被さるようにして意識を失った。
「あまり馴れ合うのは感心しないな」
奥の部屋から出てきたフェンゼンは黒いベルベットの巾着をクロードに向かって投げた。
「そのおかげで長い事居座れたのさ。どいつもこいつもチョロいもんだったよ。さて、これも受け取ったしそろそろ退散するかな」
しかしクロードは巾着の中身を覗き込んで眉を潜めた。
「もう一つはどこだ?」
「案ずるな。時期が来たら渡す」
「間違いなくあるんだろうな?」
「隠してあるのだ。儀式の時に持参しよう」
クロードはフェンゼンを暫く見た後、カトリーヌに手を伸ばした。
「先に行くぞ」
フェリックスはすっと後ろに隠れてしまったが、騎士はしゃがんで目線を合わせるとフェリックスを覗き見た。
「奥様、フェリックス様初めまして。クロードと申します! お父様には大変お世話になっております!」
「おとうさまのおともだち?」
「お友達だなんておこがましい。部下ですよ!」
「クロードさん、子供なのだからそれじゃあ分からないわ。気を使わなくていいのよ」
「そんな訳には参りません! 将来の侯爵閣下ですから!」
カトリーヌは不意に笑いが溢れてしまった。
「アルベルト様はお仕事中よね?」
「そろそろお休憩を取られると思いますよ。ずっとソワソワしてましたから」
「ご多忙なのになんだか申し訳ないけれど、さあお父様に会っていらっしゃい」
するとクロードが慌て出した。
「奥様はいらっしゃらないのですか?」
「私は邪魔なだけよ」
「邪魔だなんてとんでもない!」
カトリーヌは気になっていた事を口にした。
「さっきから私の事を奥様と呼ぶけれど、まさか知らない訳ないわよね?」
顔色を変えたクロードは申し訳なさそうに俯いた。
「もちろん承知しているのですが、俺が奥様のお名前を呼ぶとアルベルト様のご機嫌が宜しくないもので……」
「なぜアルベルト様の機嫌が悪くなるの?」
「と、とにかくフェリックス様とご一緒にお越しください」
クロードの必死さに押し切られたカトリーヌは、案内された部屋のソファでフェリックスと共に待っていると、程なくしてアルベルトが入ってきた。
「すまない、待たせたな」
喉元を緩めながら近くに来ると、フェリックスはぎゅっと腕にしがみついてしまった。
「どうしたの?」
顔を隠すようにして腕の下に潜ってしまう。アルベルトはそんなフェリックスを見て立ち尽くしてしまっていた。
「もしかして忘れたのか?」
その声は今までに聞いた事がない程に優しいものだった。
「……おとうさま」
「そうだ、お前のお父様だ」
すると腕の下から顔を出したフェリックスは恥ずかしそうに微笑んだ。
「恥ずかしかったのよね?」
「おとうさまはここでごはん食べているの?」
「そうだ。まだ屋敷には帰れそうもないから今日はここに来てもらったんだ」
ふぅん、と足をブラブラさせながら広い部屋を見上げているフェリックスをアルベルトは、ひょいっと抱き上げて肩に乗せた。嬉しそうに声を上げると髪の毛を掴んだ。
「こら髪は駄目だ! 前にも言っただろ、肩を掴め!」
カトリーヌが急いでフェリックスに手を伸ばすと、落ちないように背中を支えながら手を肩に持っていく。すると小さな手は確かめるように上着を掴んだ。
「重くありませんか? 最近はぐっと背も伸びて……」
アルベルトとすぐ間近で目が合う。一瞬時が止まったように動けなくなってしまった。
――馬鹿ね。こうして会っているのはフェリックスがいるからなのよ。
「今日は城の中を探検だぞ」
「たんけんッ!」
「分かるのか?」
「ルイスと一緒にやっていますよ」
「城は広いからルイスとした探検よりももっと凄いぞ」
「張り合わないでください。それじゃあ私はここで待っておりますね」
扉を出ようとしたアルベルトはカトリーヌの手を掴んだ。
「一緒に来てくれ」
「ですがご迷惑ではありませんか?」
「迷惑ならここへは呼んでいない」
カトリーヌはくすりと笑うと頷いた。
カトリーヌもじっくりと城の中を歩いた事はなかった。広くて、一度案内されただけではとても覚えきれない。どの部屋だったのか分からない程に同じような扉が並んでおり、廊下は広く輝いていた。しかしそんなカトリーヌを現実に引き戻してきたのは城の中ですれ違う人々の視線だった。アルベルトとフェリックスは楽しそうに歩き回っている。さすがに城内を肩車をしてという訳にはいかない為、アルベルトが片手で抱えるようにして探検は続いていた。
「これだけ広いと警備もお大変ですね」
「広く見えるがずっといるとそう感じなくなるものだ」
「こういった機会がなければお城の中をゆっくり歩く事もありませんでした」
「こんな事でよければいつでも案内するぞ」
「おとうさまあれなに?」
フェリックスは短い腕をピンと伸ばしながら中庭の方を指差した。中庭には噴水から勢いよく水が吹き出している。興味津々のフェリックスを前に中庭に出ないという選択肢はない。目配せをすると中庭へと向かった。
中庭には城内で働く者達が椅子に座っていたが、ベルトラン一家を見るなり好奇の視線を向けてきた。離婚した夫婦が中庭を散歩しているという様子は、貴族達の格好の噂の種となるだろう。その中でも文官の制服だろうか、使用人達の視線よりも城務めをしている貴族女性達の視線は鋭いものだった。
「アルベルト様は人気がおありなのですね」
呟いた言葉は噴水の音に掻き消されてアルベルトに届く事はない。フェリックスは手を伸ばしながら水に触れていた。落ちないように支えているアルベルトの広い背中を見ながら、無意識にじんわりと涙が溜まってしまう。いつかはアルベルトも再婚するだろう。どこかの令嬢を迎えてフェリックスにも弟か妹が出来るかもしれない。そうすればこんな親子の時間はもうなくなる。
――あれ、私どうして。
いつの間にかアルベルトがこんなにも胸に入り込んでいた事を実感じていた。
「カトリーヌもこちらへ……」
振り返ったアルベルトにそっと顔を背けたつもりだったが、そのまま頬を押さえられてしまう。アルベルトの視線が辺りを見渡すと、女性達はそそくさと散って行ってしまった。
「もしかして何か言われたのか? 俺がそばにいながらすまない!」
「違います! 誰のせいでもありません」
「泣いていたじゃないか」
「二人の姿を見ていたら嬉しくなっただけです。アルベルト様もこうしてお父様に遊んで頂いたのですか?」
するとアルベルトの表情がすっと暗くなった気がした。
「珍しい顔ぶれだな」
振り返ると、そこにはベルトラン侯爵が立っていた。
会ったのはフェリックスが生まれた時以来だった為、二年以上が経過していた。
「まだまだ小さいな」
「フェリックスの成長は目を見張るものがありますよ」
「水に触れただけで大はしゃぎしている子がか?」
一体いつから見ていたのだろうと驚いていると、すっと目の前が暗くなり、アルベルトの背中があった。
「なんの御用ですか?」
「フェリックスだが、今後はうちで面倒を見ようと思ってな。いつまでもモンフォール家に置いておく訳にもいくまい」
「それは駄目です!」
アルベルトの背から出ると、鋭く見つめてくる瞳を見返した。
「アルベルト様が帰られるまではモンフォール家でお預かり致します。短期間にそう何度も住まいを変えるのは教育上よくないと思います」
「フェリックスは多感な時期ですので私もカトリーヌと同意見です」
「私に逆らうのか?」
「フェリックスの事に関しては私が決めます。それにそんな事をしてはあの人が快く思わないのではありませんか?」
「お前は変わったな。いや、元来の性質なのか」
「もしそうお感じになるのであれば、それはカトリーヌとフェリックスのお陰です」
「そうか。……もし子供を産ませていたら、あれも今とは違っていたのだろうか」
「え?」
ベルトラン侯爵はしばらくフェリックスを見た後何も言わずに立ち去ってしまった。
「嫌な想いをさせたな。心配しなくてもフェリックスを渡す事はないから安心しろ」
カトリーヌは無意識にアルベルトの背中を握り締めていた。
「フェリックスをお守り下さりありがとうございました」
「さっきのを見て察していると思うが、俺は父に抱き上げられた記憶はないし遊んでもらった事もない。だからどうしたら良い父親になれるのか分からないんだ。あなたとの事もそうだ。父が決めた結婚だと言うだけで向き合う事をしなかった。愚かだったよ」
初めて聞いたアルベルトの本心に、カトリーヌは上着を掴んでいた力を無意識に強くしていた。
「アルベルト様は立派な父親です。ね、フェリックスはお父様好きよね?」
フェリックスはカトリーヌに手を伸ばしながら抱っこぉと言った。
「フェリックス、お父様の事好きよね?」
伸びてくる手を掴みながら抱っこすると、嬉しそうに頬を寄せてきた。
「この子は本当にアルベルト様が好きなのですよ」
アルベルトは小さく笑ってから頷いた。その時、中庭にクロードが走ってきた。
「アルベルト様! すぐに王の間へお越し下さい! グロースアーマイゼ国が攻めて来ましたッ!」
アルベルトは最初の部屋に送り届けるようにクロードに言うとすぐに行ってしまった。
「今回はすぐ軍が動くでしょうから、きっとすぐに追い返してしまいますよ」
「でも戦争になるのは嫌ね」
眠ってしまったフェリックスをソファに寝かせると、その上に毛布を掛けた。
「俺がグロースアーマイゼ国の傭兵だったとは聞いていますか?」
返事をする前に、とっさにフェリックスを庇うように手を出していた。するとクロードは寂しげに笑った。
「ごめんなさい! 私ったらとっさに失礼な事をしたわ」
「当然ですよ。でも俺にはそれが当然じゃなかったんです。父も母も俺を守ってはくれませんでした。母は父の妾で、俺を産んですぐに追い出されたそうです。父親は親だと思った事がありません」
「だから傭兵に?」
「生き残る為です。正直捕まった時は殺されるか酷い拷問を受けると覚悟しました」
「アルベルト様はそんな事なさらないわ。多分、きっと……」
アルベルトの事はまだまだ知らない事の方が多い。ましてや戦場でのアルベルトについては全く知らなかった。
「ははッ、さすが奥様ですね。アルベルト様は俺達にやり直す機会を下さいました。傭兵として働いていたなら雇い主は誰でも良いはずだ、俺が雇い主になるとそう仰ったんです」
「お優しいのね」
フェリックスのおでこから前髪を払った時だった。
「えぇ本当、反吐が出る程にね」
「え?」
カトリーヌが顔を上げた瞬間、重い衝撃が首に走り、フェリックスに覆い被さるようにして意識を失った。
「あまり馴れ合うのは感心しないな」
奥の部屋から出てきたフェンゼンは黒いベルベットの巾着をクロードに向かって投げた。
「そのおかげで長い事居座れたのさ。どいつもこいつもチョロいもんだったよ。さて、これも受け取ったしそろそろ退散するかな」
しかしクロードは巾着の中身を覗き込んで眉を潜めた。
「もう一つはどこだ?」
「案ずるな。時期が来たら渡す」
「間違いなくあるんだろうな?」
「隠してあるのだ。儀式の時に持参しよう」
クロードはフェンゼンを暫く見た後、カトリーヌに手を伸ばした。
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