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本編2
モブ令嬢と王子は王都へと戻る1
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シャルル王子が手紙を渡すと、王家の使いは心底ほっとした表情でそれを早馬で持ち帰った。中には王都に戻ることと、謁見の希望が記されている。
「さて、準備をしないとな」
そう言ってシャルル王子はクローゼットを開けた。うう、嫌だなぁ。王都に帰るってことは久しぶりにあの窮屈なコルセットを着けることになるのか。さらば庶民服……
「そんな、不安そうな顔をしないでくれ」
ため息をついた私を見て、シャルル王子は勘違いをしたらしい。そして優しく頭を撫でてくれた。せっかくなので勘違いされたままで甘えてしまおうと、その手にぐりぐりと頭を押しつける。するとシャルル王子は嬉しそうに私を抱きしめて、また頭を撫でてくれた。
「……はぁ、好きだ」
しみじみとシャルル王子が言うから、なんだかおかしくなってしまう。この美ショタはどうしてそんなに私が好きなのだろう。
「私も負けないくらい好きです。愛してます」
囁いてぎゅうぎゅうと抱きしめていると、シャルル王子の手がお胸に伸びる。彼がいつも触るからか、胸が前より大きくなってる気がするんだけれど。困ったなぁ、前のコルセット入るのかな。
「んーこほんっ」
扉の方で咳払いがした。そちらに目をやると、コレットさんが少し気まずそうな顔で立っている。そういえば、同じお部屋にいらしたんだった! 恥ずかしいな……
「……準備をしないといけませんね、シャルル様」
「むぅ」
唇を尖らせるシャルル王子にそっと口づけてから、自分用のクローゼットに向かう。そして数日分想定の下着などを引っ張り出した。王都に長居するかは王妃様次第なので、この屋敷に戻るかはともかく、まるっとお引越しをする気はないのだ。
ちなみに屋敷に空いた穴やらは、王宮から派遣された大工たちが修繕していった。王子様の住居に不備があるのは、よろしくなかったのだろう。
「お手伝いを」
コレットさんが隣に立ち、荷物の選別と荷造りをしてくれる。
……ああ、久しぶりに王都に帰るんだなぁ。
トランクに詰め込まれていく荷物を眺めながら、私はしみじみとそう思った。
☆
王家から寄越された豪奢な馬車に揺られ、大量の護衛に囲まれて約二週間。細かく宿泊しつつの旅路は、行きの二倍の時間がかかった。
それは大事に大事にされながらの道中で、王家から派遣された人々は胡散臭いほどに私にも親切だった。
王妃様はシャルル王子を、これ以上怒らせたくないんだろうなぁ。
しかし、これは一時的な厚遇だ。
シャルル王子との関係が修復された途端に、また元のようなぞんざいな扱いになるんだろう。こんなあからさまなご機嫌取りなんかに、ごまかされたりはしないのだ。
王都に着いた私とシャルル王子は、王子の別邸に向かった。
……王妃様の息がかかっているだろう、義実家の侯爵家には寄っていない。
悪い人たちではないのだけれど、王妃様が関わると信用はできないから。
――本当に、スレたなぁ。
そんな自分が少し嫌になってしまう。
「アリエル、ご機嫌斜めだな?」
髪を今日はポニーテールにしたシャルル王子が、私の肩に頭を寄せながら上目遣いで言う。……可愛いなぁ。そりゃあ王妃様が手放したがらないよね、こんなに可愛いんだもの。
「んーなんというか、思考がスレてきた自分にちょっと辟易してしまいまして」
そう言って眉尻を下げる私に、シャルル王子は慰めるように何度も口づけをしてくれる。
「無垢な君も好きだが、逞しい君も好きだ」
彼はそう言うと、私の手を柔らかな力で握った。無垢な時代なんて無かったと思いますけど、シャルル王子は優しいなぁ。その優しさが嬉しくて、私はお返しに彼の顔中に口づけをした。
ぎゅっと手を握り合って、見つめ合う。私は小さく息を吐いて、唇を開いた。
「明日は、王妃様と謁見ですね」
「父上も来るようだな、面倒な。兄上も来てくれるから、妙なことにはならないとは思うが……」
シャルル王子はそう言うと軽く舌打ちをする。
そうなんだよなぁ、陛下も来るんだよなぁ。
王妃様ほどではないけれど、陛下も私とシャルル王子の婚姻に難色を示している。シャルル王子のご両親に認められないのは、とても辛い。
だけど王家に利を与えるような後ろ盾がないことや、容色が人より劣っていることは、私にはどうしようもないのだ。嘆いても仕方がない。
「頑張るしかないですね、シャルル様! ぎゃふんのために!」
「そうだな、ぎゃふんさせよう。ダメだったら……また私と逃げてくれるか?」
少し不安げに言うシャルル王子の瞳を見つめて、私は笑った。
「はい、逃げましょう! 今度はもっと遠い国に。私だけ……不敬罪で投獄されなければ」
「そんなことになったら、邪魔する者を全員排除してでも助け出す」
シャルル王子は物騒なことを言うと笑いながら、唇を合わせてくる。
唇を数度合わせて、私たちはまた笑った。
「さて、準備をしないとな」
そう言ってシャルル王子はクローゼットを開けた。うう、嫌だなぁ。王都に帰るってことは久しぶりにあの窮屈なコルセットを着けることになるのか。さらば庶民服……
「そんな、不安そうな顔をしないでくれ」
ため息をついた私を見て、シャルル王子は勘違いをしたらしい。そして優しく頭を撫でてくれた。せっかくなので勘違いされたままで甘えてしまおうと、その手にぐりぐりと頭を押しつける。するとシャルル王子は嬉しそうに私を抱きしめて、また頭を撫でてくれた。
「……はぁ、好きだ」
しみじみとシャルル王子が言うから、なんだかおかしくなってしまう。この美ショタはどうしてそんなに私が好きなのだろう。
「私も負けないくらい好きです。愛してます」
囁いてぎゅうぎゅうと抱きしめていると、シャルル王子の手がお胸に伸びる。彼がいつも触るからか、胸が前より大きくなってる気がするんだけれど。困ったなぁ、前のコルセット入るのかな。
「んーこほんっ」
扉の方で咳払いがした。そちらに目をやると、コレットさんが少し気まずそうな顔で立っている。そういえば、同じお部屋にいらしたんだった! 恥ずかしいな……
「……準備をしないといけませんね、シャルル様」
「むぅ」
唇を尖らせるシャルル王子にそっと口づけてから、自分用のクローゼットに向かう。そして数日分想定の下着などを引っ張り出した。王都に長居するかは王妃様次第なので、この屋敷に戻るかはともかく、まるっとお引越しをする気はないのだ。
ちなみに屋敷に空いた穴やらは、王宮から派遣された大工たちが修繕していった。王子様の住居に不備があるのは、よろしくなかったのだろう。
「お手伝いを」
コレットさんが隣に立ち、荷物の選別と荷造りをしてくれる。
……ああ、久しぶりに王都に帰るんだなぁ。
トランクに詰め込まれていく荷物を眺めながら、私はしみじみとそう思った。
☆
王家から寄越された豪奢な馬車に揺られ、大量の護衛に囲まれて約二週間。細かく宿泊しつつの旅路は、行きの二倍の時間がかかった。
それは大事に大事にされながらの道中で、王家から派遣された人々は胡散臭いほどに私にも親切だった。
王妃様はシャルル王子を、これ以上怒らせたくないんだろうなぁ。
しかし、これは一時的な厚遇だ。
シャルル王子との関係が修復された途端に、また元のようなぞんざいな扱いになるんだろう。こんなあからさまなご機嫌取りなんかに、ごまかされたりはしないのだ。
王都に着いた私とシャルル王子は、王子の別邸に向かった。
……王妃様の息がかかっているだろう、義実家の侯爵家には寄っていない。
悪い人たちではないのだけれど、王妃様が関わると信用はできないから。
――本当に、スレたなぁ。
そんな自分が少し嫌になってしまう。
「アリエル、ご機嫌斜めだな?」
髪を今日はポニーテールにしたシャルル王子が、私の肩に頭を寄せながら上目遣いで言う。……可愛いなぁ。そりゃあ王妃様が手放したがらないよね、こんなに可愛いんだもの。
「んーなんというか、思考がスレてきた自分にちょっと辟易してしまいまして」
そう言って眉尻を下げる私に、シャルル王子は慰めるように何度も口づけをしてくれる。
「無垢な君も好きだが、逞しい君も好きだ」
彼はそう言うと、私の手を柔らかな力で握った。無垢な時代なんて無かったと思いますけど、シャルル王子は優しいなぁ。その優しさが嬉しくて、私はお返しに彼の顔中に口づけをした。
ぎゅっと手を握り合って、見つめ合う。私は小さく息を吐いて、唇を開いた。
「明日は、王妃様と謁見ですね」
「父上も来るようだな、面倒な。兄上も来てくれるから、妙なことにはならないとは思うが……」
シャルル王子はそう言うと軽く舌打ちをする。
そうなんだよなぁ、陛下も来るんだよなぁ。
王妃様ほどではないけれど、陛下も私とシャルル王子の婚姻に難色を示している。シャルル王子のご両親に認められないのは、とても辛い。
だけど王家に利を与えるような後ろ盾がないことや、容色が人より劣っていることは、私にはどうしようもないのだ。嘆いても仕方がない。
「頑張るしかないですね、シャルル様! ぎゃふんのために!」
「そうだな、ぎゃふんさせよう。ダメだったら……また私と逃げてくれるか?」
少し不安げに言うシャルル王子の瞳を見つめて、私は笑った。
「はい、逃げましょう! 今度はもっと遠い国に。私だけ……不敬罪で投獄されなければ」
「そんなことになったら、邪魔する者を全員排除してでも助け出す」
シャルル王子は物騒なことを言うと笑いながら、唇を合わせてくる。
唇を数度合わせて、私たちはまた笑った。
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